World Baseball Classic終了。
NPB、MLB共に観戦している身としては楽しみどころの多い大会であった。
日本が優勝を逃したことでNPBの対応の遅れや改革についての議論が飛び交っているが、様々な側面があって、(自分の中でも)7状況を整理する必要があるなと思い、自分なりにまとめることにした。
1.WBCそのものの評価
WBCはいわばサッカーにおける国別対抗のワールドカップ(W杯)に相当するというのが簡単な説明だろう。まあそうなのだが、いろいろ違っている。
・参加国が大分小規模
・W杯はFIFAという(基本独立した団体)が運営するが、WBCを運営するWBCIで権限を大きく握っているのはMLBという一国のリーグ。参加者の大部分もMLB。
・発展途上の大会なので(W杯ほど認知度、人気度がない、経済効果も小さい)、参加国の情熱度もまちまち。MLBシーズン開幕前を盛り上げるという要素があり、選手のコンディションもオフ明けの調整段階時期に開催される。
ということで、アラカン野球好きとして初回から見ているが、とてもじゃないがW杯と比較するのはおこがましい大会である。
そんなWBCであるが、曲がりなりにも回を重ねるにつれて、当初は微妙だったアメリカ代表のモチベーションも大分上がってきたように感じられる。プロの野球リーグが世界で限定されており、オリンピック競技からはずされて、競技の拡散の手段は限られている。そのため決勝トーナメントは特に似たような顔ぶればかりになる欠点は改善されていないが、各国の本気度が高まる中で、イタリアが活躍し、ベネズエラが優勝するという拮抗した様相を呈してきたのは大会の成功といえそうだ(イタリア代表の面々が実は国内の野球選手はわずかで関連のあるというような立ち位置のMLB選手が多いとはいえ)。
NPBとしてもWBCが高いレヴェルになることは重要なことです。その昔、野球の最大の世界大会といえばオリンピックで、確認すると1984年(それまでは公開競技)から1996年まではノンプロ(社会人と大学生)が代表のものでした(2000年からプロが加わるかたちになり以後プロ中心)。当然こちらも各国で温度差があり、「サッカーW杯の野球版でどこの国が世界一強いのか知りたい」という願望を持っていた野球ファンは多かったはず。その意味ではWBCが大分近くはなってきた。ただ(2023年大会は熱量ということでも本格化してきましたが)優勝経験はあっても、日本の実力が世界レベルでどの程度なのか測りかねるところがあった。今回はバラツキはまだありつつも各国ともかなりのメンバーが揃い熱気も十分で、日本野球の実力が測れる状況になってきた。これは大きな進歩。
ということでまとめると、真の世界一を決めるにはまだまだだが、「サッカーW杯っぽい野球の世界一決定戦」に近くなる可能性はでてきた、というところか。
2.WBCの経済的な効果
と、疎い分野に大きく出たものの感想だけでは心もとない。なのでちょっとAIに聞いた。
・2023年日本優勝で日本国内で650億円(今回優勝時の予想は約930億円)
・他国の情報はほとんど出てこず。2023年開催地マイアミでは50億円の経済効果があったとの計算はある様子
対してW杯では世界規模だと数千億円から数兆円規模に達するといわれているそうで桁違い。2002年日韓W杯の経済効果は国内で約2兆円(上記の世界規模の数字と全く計算が合わない気もするが)とのこと。とはいえ、その効果は長期的ではないとの評価もあるようだ。たしかに設備など投資規模も相当な額になっただろうし、ありものの球場で通常通りの試合運営で、数百億円の経済効果があるとすれば、WBCのコストパフォーマンスは(日本の野球関連の領域では)悪くはないのかもしれない。
3.MLBとWBCの関係
MLBファンとしてはこれも気になりる。先に結論だけいってしまうと、MLBの管理者側(運営サイドやオーナーら)としては「怪我などシーズンに影響が出ない程度に、でもファンが増える程度には盛り上がって欲しい」というところだろう。この結果<真の世界一を決める>とWBCに期待する野球ファンの期待に沿うようなものではない、その背景の一つに、高い年俸の選手が怪我をした場合に保険会社の方が負担できないということがある。そのため所属チームが派遣をさせないというようなことになっている。つまり<真の世界一を決める>はずのWBCに超一流の選手ほど出場しにくいということだ。小林至氏(選手、フロントの経験がある上にMBAの資格を持ち、ソフトバンクでフロント時代に第1回WBCのNPBからの交渉スタッフとしても入っていたそう)のyoutubeによると大スター選手カーショウ投手がUSA代表として前回出場したいために個人で保険に入ろうとして、金額の大きさに断念したと話していた。高年俸の大スター選手も諦めるということから事実上保険会社やチームがNoといったらNoということなのだろう。これも小林氏youtubeの受け売りだが、W杯は世界規模の大会で怪我についても運営側が負担するようなかたちらしい。それだけ儲かる大会ということで、WBCはまだまだ<儲かる>大会ではない(世界的な認知度、ファンの要望もW杯は桁違いでその結果あのようなイベントになったわけだが、個人的にはこれも歴史を経て徐々にそうなった印象もある。ただそれは別な話だが)。今回はスクーバル投手の1試合のみ登板が話題となったが、今後もこのような状況は続くだろう。MLBファンとしては、WBCは楽しいものの<真の世界一を決める>ところまでには当面ならないと思うので、やはり所属チームの優勝が優先、これもやむを得ないかなあという感じだ。
4.NPBや日本野球界とWBC
今回の結果への失望感からNPBのルール変更や投高打低状況からの脱却など様々な声が上がっている。
そもそも長年眺めているNPB、元々機構がNPB発展のために統括した機能を果たすことが出来ないという構造的な問題を抱えている印象で、数十年前の人気球団偏重の構成からようやく脱したのがやっとで、他に観客が増加しているぐらいしか(俯瞰的な面での)改善点があまり思いつかない。種々の状況改善は否定はしませんが、おそらく現場に人や各球団のまちまちな努力によるもので、NPBをどうしていこうというものはあまり見えてこない(近鉄消滅時の1リーグ制移行の危機も選手会とそれを推すファンが乗り越えたようなもの)。
ということで問題は山積みのNPBだが、WBCの結果とNPBの問題は一緒にできないと思う。MLBはどこの代表にもMLB選手がいるので、怪我の面からWBCには尻込み気味だが、NPBだって日本が優勝して直接儲かるわけではなし怪我のリスクもあり、MLBと同じ立場だろう。仮にNPBが主体的に動ける体制にあっても多くは期待できない。
少年時代からの野球教育を根本から変え、国際大会に備えていくという考え方もあるだろう。単純にいえば、全員がMLBを目指すようにすれば勝つ確率は上がるだろう。NPBの空洞化はこの際完全に無視だ。その際、身近で野球観戦をする機会は減り、もしかしたら野球人口がさらに減る危険もあるため、アマチュア野球も含めた総合的な戦略を立てる団体も必要だろう。しかしそんなことが可能であろうか。そんなことがこれまでできたこともない日本野球界に。
大会の位置づけも難しい。いよいよMLB選手にも認知度が高まったWBC。さらに大会が充実すればするほど、現実問題として日本が優勝することは難しくなるだろう。残念ながらMLBとNPBには力量の差はある。優勝以外は負け、という目標で全ての体制まで変えて(経済効果も全て補えるほどでもない)WBCに臨むメリットは日本野球界にあるのかは微妙だと思われる(他の国際大会はもっと経済効果は低いだろう)。
ということで、日本では代表人気が高いので、手のつけやすいところ(ピッチクロックや行き過ぎた現在の投高打低の解消)には手をつけて欲しいが、いろいろな意味でWBCで常勝を目指すのは難しいのだろうなと思っている。
簡単には勝てないような本気の国際大会にWBCを育てたのはおそらく日本の野球ファンだろう。これも小林氏の受け売りだが、これまでも日本代表の人気を当て込んだ大会であったようだ。そこで日本選手のテンションを高め、次第に大きな大会にしたのは日本の野球ファンの熱意によるもので、そこは実は誇りに思ってもいいのかもしれない。なかなかそういった種類の発言を見ることは多くはないが(散見はした)。
総合的にはWBCに対してどういう立ち位置を取るのか、問われているのは日本の野球ファンの方なのかもしれない。
5.蛇足
スポーツの国際大会の面白さは、同じ競技なのにお国柄で全く違う文化が見られることだ。今回予選リーグでのプエルトリコ代表の国歌斉唱がアコギやパーカッションのミニバンド形式で、実にカッコよかった。思えば昔のオリンピックのTV放送はのんびりしたもので、様々な競技で力の足りない選手が出ていたり、各国の強豪選手の紹介の方も時間を割いていて楽しかった。いろいろな世界を知ることが出来たのだ。近年はそもそもオリンピックの質が変化していることや日本選手のレベル向上もあってか、日本選手の紹介や結果ばかり。放送が全くつまらなくなってしまった。
※さらに補足(2026年3/24)
上記4.についてもう一つ懸念すべき点を指摘するのを忘れていた。投手の怪我である。国際競争力を高める、という目標自体は当然大いに支持を集めることだろうし、その結果MLBの下部組織になるリスクを既に指摘したが、現状のMLB自体の抱える投手の怪我問題が日本野球選手たちにも訪れるだろう。今回日本代表の敗退の一因が投手の球速不足にあるといわれ、それに対応すると投手の怪我問題は現在より多発する懸念がある。原因は球速だけなのかは不明な点もあるようだが、古いMLBファンからみて現在のMLBは昔と様変わりした。既に分業制が進み、先発投手の年間勝利数は減ったが、一方投手寿命が延び、200勝だとか時々記念碑的な記録を残す大投手がでていて、ファンを喜ばせてきた。しかしその時代もそろそろ終了だ。今後は勝利だけではなく投球回数も激減するだろう。というのも安定して「エース」といえる旧来の意味での先発投手が、怪我の多発により絶滅しつつあるからである。商売にシビアなMLBのこと、今後はWARだとか何か指標を持ち出して生き残りをはかるのだろう。そうはいっても「エース」の意味は大きく変質しつつある。日本でも多くの先発投手を抱え、リスク分散をはかるだろう。旧来のファンはいったいどう受け止めるのか。これまたファン側が問われる問題だろう。