異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

2025年12月に読んだ本

 
 相変わらず冊数は低調。ちょこちょこと拾い読みはしてるんだけど。
◆『なつかしく謎めいて』アーシュラ・K・ル・グイン

 丸屋九兵衛さんのトークのお題だったので慌てて読んだ。ル・グインのアイディア短篇SF作家としての側面がよく出た連作集。別次元へトリップする方法でが編み出され、様々な世界へと出かけ、それらが独立した短篇として並ぶ。言語、文化人類学ディストピアをテーマにしたSFあり、奇想あり、ファンタジーあり。ユーモア基調ではあるが、練られたアイディアのものが多く、笑い飛ばすにはキツめなものもあったり、意外にずしっとした読後感だ。『見えない都市』、『ガリバー旅行記』(これについては帯、本書内に直接の言及あり)、『夢幻諸島から』、『方形の円』など様々な世界が登場する連作を想起させる(ちなみに本書刊行は2003年でル=グウィンが『方形の円』をスペイン語で読んだのが2011年。影響関係は無さそう)。
◆『青白い炎』ウラジミール・ナボコフ

 架空の詩人シェイドによる999行の詩を、前書きと注釈(と索引)で前後で挟んでいる実験小説。おお、となり随分前に挑むも挫折。久しぶりに再挑戦し、今年は読了。全貌をつかみかねているが、非常にユニークな作品であることは間違いないしいろいろと楽しい作品である。この詩を取り囲んでいるのが注釈をつけている(シェイドの隣人でもある)キンボートという文学研究者のテクストなのだが、どうやらその世界にはゼンブラという国があって、この詩でも重要なモチーフになっているというのだ。そしてそのゼンブラでの不穏な動きが詩を超えて、彼らを脅かしていく。ただしこのキンボート、かなり異常な人物であることが文章に現れており、立ち上がる状況などが実に奇妙で笑いを誘う。注釈もしばしば別な箇所を参照するよう指示があるため、かなり行ったり来たりの読書になる。栞は3-4個あった方が良いだろう(評論家の某氏は二冊使いながら読んだ、とおっしゃっていた記憶がある)。ということでなかなか手間のかかる作品ではあるが、虚構内虚構の複数のエピソードも大変魅力的で、得難い読書体験になることは間違いない。この本の後の訳書も読んでみたいが既に入手困難なのよねえ。
SFマガジン2010年 10月号

 例によって興味のあるもののみで、これは一部フィクションのみで感想も未読作品のみ。
・「鉢の底」ジョン・ヴァーリイ
 長年どうも合わない作家。アウトロー的な登場人物やジャンクテクノロジーといった側面はサイバーパンクの先駆っぽさがあるのは本作でも出ている。ただ少女が出てくるところとかそれに対する視点がどうもキモいんだよな。
・「夜来たる」アイザック・アシモフ
 2000年ぶりの夜が来た星の状況が描かれる。名作だが初読。設定は魅力的だが、ある程度文明の発達した世界で夜の来る予兆がとらえられず、かなり間際に気づいてるところとか1941年作らしく大雑把なところがある。また設定以上の展開はなく、正直流し読みになってしまったのだが、読みどころは空の景色が一辺するところなんだろうなあ。SFは絵であるというのはこういうことかなとも思われる。今読むとむしろカルト教団の動向とかが読みどころになってくるような気もするがまあ今あえて読むほどのものでもないかな。
・「輪廻の蛇」ロバート・A・ハインライン
 既読。
・「オメラスから歩み去る人々」アーシュラ・K・ル・グィン
 既読。
・「日本怪談全集」深堀骨
 今回はなんと怪奇密室探偵小説。いつもの文体の深堀骨ワールドなんだけど、割とバリエーションが魅力なのよね。
SFマガジン 2011年1月号

 本号目玉のテッド・チャン「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」は既読でこれも一部読み切り小説のみ。
・「ぼくたちのビザンティウム」アラン・デニー
 訳者小川隆氏が紹介してきたスリップストリームの作品。イェイツの詩「ビザンティウムへの船」が下敷きとなり、ビザンティン帝国軍に襲われた現代アメリカの一般人の日常がパートナーとの不安定な関係とともに描かれていく。その後大活躍とまではなっていない作で、本作も描きたいものが十分に表現されているようでもない小品だが雰囲気は悪くない。
・「この土地のもの」ティム・プラット
 ある土地にいる霊のような存在が肉体を持って暮らしているという設定で、犯罪者をめぐる騒動が描かれる。読むのは多分三作目だが、これは良かった。人非ざるものの哀切がしみじみと描かれている。
SFマガジン 2011年4月号
 以前に感想を書いたが、今回読み残していた評論の一つを読んだ。
巽孝之監修 現代SF作家論シリーズ第3回 ロバート・A・ハインライン 「見えないロボットーハインラインのポストヒューマンな世界」小畑拓也
 いわゆる御三家の一人ハインライン個人主義とポストヒューマンという切り口で、アシモフやクラークとの対比が行われる論考。面白いが序論的な印象が強く、むしろ続きを読みたくなってしまう。検索したところメディア研究などをされている研究者のようだが、SF関連のお仕事もされているようなのでまたSF評論を書いて欲しいなあ。