異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

2022年8月に読んだ本

少し休みがあったので、積読していたものをいろいろ読んだり。なんか日本作家が多かったですね。
◆『バビロニア・ウェーヴ』堀晃
 ある種の極北、科学的アイディアを突き詰めてそこから生まれるイマジネーションを不純物なしの状態で核に据え付けて出来上がったような作品。正直なところ断片的にしかイメージ出来なかったが、終盤に繰り広げられる壮大なヴィジョンの美しさは印象に残った。クラークが基盤なのだろうか。そのうち検証してみたいところだ。
◆『あいにくの雨で』麻耶雄嵩
 連続密室殺人を追う高校生たちの話。高校生が主人公だがさわやかさはかけらもなく、人物関係・動機など最後まで著者らしいダークな味わい。ただ細かな表現の古さ、全体に漂う空虚さには少し時代のずれが出ている印象。ふと現代の新本格ものはどういうものなのかなと関係ないことをふと思った(全然読んでいないのでわからない)。雨が続いていたのと、夏休みで青春物を読みたくなったので長く積んでいた本書を読んだがさわやかさの欠片もなく全く期待には応えてもらえなかった。しかしそちらについては著者の選択を誤った読者の責任であろう(笑)。
◆『川の名前』川端裕人
 青春物への欲求が満たされなかったので、口直しで(これまた積んでいた)本書を読んだ。こちらはニーズにマッチしていた(安心)。ノンフィクション等での題材への誠実かつ客観性を重視した取り組みで惹かれていた作家だが、ちゃんと読むのは初めて。小学生たちが川に住みついたペンギンを観察する中で起こる様々な騒動を描いた夏休み少年冒険小説。2004年の作品で、小学生を取り巻く環境の変化から、昔の様な大らかあるいは現実離れした冒険ものが成立しにくい中、細部の丁寧な作り込みで伝統的な少年小説のダイナミズムの再現に成功している。
◆『ジャーゲン』ジェイムズ・ブランチ・キャべル
 ふざけた身勝手な男がいなくなった妻を渋々探しに出かけて、(なぜか)若返って様々な女性たちと恋に落ちたりいろいろな事が起こる話(で、いいのかな?)。というわけで、一般的には”ファンタジー”だが、1919年の作品にして”アンチファンタジー”的な視点がいろいろある予見的な作品。ただ様々な神話が取り込まれ、また(上記の様な性質の作品なので)アイロニカルな要素も強い一筋縄ではいかないなので読了に時間がかかってしまった。一読で当ブログ主がいえることは限られるが、会話に魅力があるので、(全部は長いので)一部を舞台にするとかなり面白そう。
◆『書痴まんが』山田英生(編)
 書店で偶然見つけ入手した。本好きがニヤリとする内容が並ぶアンソロジー。4部からなるが、栞と紙魚子の一編、オチが楽しい「巻物の怪」(水木しげる)、個人的に一番印象深かった変な連載漫画とその読者を描く「八百屋」(大橋裕之)が収録された3部「奇書と事件」が楽しかったかな。他、巻末で余韻がたまらない「蒸発」(つげ義春)、漫画史のわかる4部などなど収録作はバラエティに富んでいる。
◆『時界を超えてー東京ベルリンの壁藤本泉
 収録作は3作。冷戦時代、東西に分裂した日本を舞台にした2編とタイムスリップもの。
「時界を超えて」東西に分裂した日本。東が共産主義、西が資本主義。お茶の水駅の辺りが国境というところがなかなか良くて、東京藝術大学共産主義プロパガンダに支配された芸術を推進している状況とかセンスが光る。本書は1985年刊行(次の「ひきさかれた街」は1972年日本SFベスト集成収録だが)で、古びていない。本作は怪奇幻想風味で「ひきさかれた街」とはまたテイストが違って、著者の技量の確かさがうかがえる。
「ひきさかれた街」上記の様にSFベスト集成にも収録された傑作。SF設定はあくまでも背景にした架空の世界を舞台にしたリアリスティックな青春小説。そのアプローチはSFアイディアに軸足を置くのが主流であった当時にはやや変則的ととらえられていたかもしれないが、むしろ現在では一般文学で多くみられるもので先駆的なものだと思う。再読でも色あせていなかった。
「クロノプラスティック六〇二年」山背大兄王子がタイムトラベルする歴史SF。ざっと検索したところ少ないSF作品の中で歴史SFはあまりないようなので珍しいのかもしれない。伝奇ミステリは得意としていたようだが。
小説現代2022年4月号
 例によって雑誌は興味のあったものだけ。
 歴史を変える「if」を集めた珠玉の競作、という表紙の紹介。改変歴史SF特集ということだろう。
「パニックー一九六五年のSNS」宮内悠介
 舞台は1965年の日本だが、その時にSNSがあったらという設定。スチームパンク的アイディアを小さい時間の飛躍て試みているといえるか。開高健作品については個人的に不案内なのだが、時代の落差や日本の歩みをクリティカルにとらえ直す視点に著者らしい鋭敏なセンスが光る。
「うたう蜘蛛」石川宗生
 パラケルススを題材にしているが、ぶっ飛んだオチの音楽SF。(ネタバレで文字の色を抱えますが)唐突に近い感じのハードロックオチで腹を抱えた。
「二〇〇〇一周目のジャンヌ」伴名練
 こちらはジャンヌ・ダルクを主人公とし、時間ループもののフォーマットも組み入れた作品。火刑に処せられたという痛ましい最期を軸にして、歴史上の人物の内面、後世での評価といったテーマがSF的手法で描かれ読み応えがあった。
「大江戸石廓突破仕留」小川一水
 石の都江戸を狙った水道汚染を防ぐ若侍とその相棒の活躍が描かれる。テンポが良くアイディアも秀逸で、後半一気に明かされる真相まで見事にはまっている。魅力的な設定でシリーズ化も出来そう。
「セカンドチャンス」篠田節子
 これは特集外の一般小説。一言で言えば中高年スポ根。どこにでもいる冴えない中高年による水泳スポ根ものだ。そんなミスマッチとも思える題材の組み合わせを、見事に涙あり笑いありの快作に仕立て上げている。流石。