異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

中野善夫「英米幻想文学への招待」を聴いた

NHK文化センター青山教室のオンライン講座「英米幻想文学への招待」全3回を聴いた。
元々オンラインでもなかなか定時の講座を聴くのは難しいのだが、ディレイ視聴可能で、講師はお話もさせていただいたことのある中野善夫さんということで参加した。中野善夫さんは幻想文学の翻訳・紹介で知られるが、SFマガジン2010年1・4・7・10月号、2011年1・4月号に連載された評論「黄昏の薄明かりのむこうへ」が大変すばらしいので是非ご一読をおすすめしたい。
1回目は幻想文学とどのように出会うのかといった話、それから本を読み過ぎた人についての小説。中野さん自身がどう幻想文学と出会ったのかなどのお話もいまや一つの歴史だろう。メタフィクション的な小説ということになるが、コミカルな系統の小説が多く、楽しそうだ。早速影響を受けて、ロマンス読み過ぎ女性の騒動を描いたという『ノーサンガー・アビー』(ジェイン・オースティン)を(ブックオフで偶然見かけたこともあって)購入。あとは個人的にあまり知識のなかった世界幻想文学大系の話も参考になった。
2回目はドン・キホーテやご自身が近年翻訳されたヴァーノン・リーなど。1回目の流れでもあり、騎士小説を読み過ぎたのがドン・キホーテということになる。翻訳紹介の経緯など興味深いお話も出ていた。
3回目は、これもご自身が近年翻訳されたフィオナ・マクラウド(日本への翻訳紹介、関連日本文学者含め)を中心に。ヴァーノン・リーとフィオナ・マクラウドは本人の性別とは違う筆名で作品を発表していて、本人にも興味が湧いてくる作家である(中野さんがその部分を意識して紹介しているのとは違うようだが)。特にフィオナ・マクラウド(=ウィリアム・シャープ)の匿名の徹底は度を越していて、手紙が必要な場合には妹に代筆を頼み、時にダミーの知人女性まで用意していたらしく、その後批判を受けたのも分からなくもない。が、切実な内面があったのだろうと想像される。ただ中野さんの要旨としては「とにかく作品を読んで欲しい」ということで、ついつい作者情報に依存しがちな読者なので自戒したいところである。
元々ゴリゴリの中学生SFファンが自らのルーツで、幻想文学に本格的に触れるようになったのはそれこそ10年余りぐらいでまだまだ初心者である。そんな初心者でも親しみやすい逸話やご自身の読書歴も含めてのお話で、分かりやすくこれからの読書へのヒントも沢山いただける内容で、とても楽しい講義であった。
※(2022 7/4追記) そうそう、多言語が読めると小説の楽しみはより増すのだなと語学に弱い身としては羨ましくなった。まあこの辺は言わずもがななのだが。