異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

2022年5月に読んだ本・漫画、鎌倉文学館


◆『羅陵王佐藤史生
 去年創元から出た『SFマンガ傑作選』(福井健太編)で遅ればせながら初めて読んで、ユニークかつ面白かったのと、twitterで言及されていて興味を持ったので買って読んでみた。どの作品も性差の難しい問題を繊細にくみとっているSF/ファンタジー作品ばかり。1980年代にこうした視点を有していたことに驚かされた。特に「タオピ」は(はっきりとは示されていないが)近未来が舞台で、日常と地続きの問題に焦点が合わせられており、今日こそ広く読まれるべき作品だろう。
◆『ウルトラマンを創った男 金城哲夫の生涯』山田輝子
 沖縄出身のシナリオライター、<ウルトラマン>の誕生に大きく貢献した金城哲夫の伝記。なんとなくしか存在を認識していなかった人物だが、想像以上に起伏に富んだ歩みだったのだなあ。若くして東京に出て、そこで成功したため、本土と沖縄に引き裂かれてしまった人生が切ない。沖縄、昭和中期の学園生活、TV創成期など一つの昭和史としても読める一冊。面白かった。復帰50年かつ「シン・ウルトラマン」公開の今年、今一度金城哲夫に関する本が出たり再評価の動きが出て欲しいとも感じた。著者は金城の先輩にあたり、結構遅い年齢で朝日カルチャーセンターの講座でノンフィクションの書き方を学んだことが記されている。本書は大変良く書かれていて、そうした講座の力というものも知る事になった。
◆『叛逆航路』『亡霊星域』『星群艦隊』アン・レッキー
 元は宇宙戦艦AIでその人格を4000人の肉体に転写する存在(属躰=アンシラリー)でもあったが、策謀のため艦隊を失い、単一の属躰として残されてしまった主人公ラドチ。復讐を誓い、独裁者に対峙しようとするが、という<アンシラリー>シリーズ。この3冊以降1冊翻訳刊行されたが、まずはこれらが3部作となる。宇宙もののSFだが、冒険活劇というよりは権謀術数の宮廷劇の方がむしろ近いか。性差のない世界で”彼女”を代名詞に据えるユニークさに目を引かれるが、属躰などテクノロジーのハード面、文化(や美術)・宗教・社会構造などソフト面と両面のアイディアの方もよく練られていた。表現においてジェンダー問題にも切り込み、複雑な世界が立体的に浮かび上がらせようとする野心的な作品だった。茶など東洋的なカラーがあるのもよいアクセントになっている(『茶匠と探偵』と相通ずる印象がある)。自分としては権力者による抑圧とそれに対する抵抗がストレートに出た2巻目『亡霊星域』がわかりやすい展開で一番良かった。まだ十分まだ消化できない部分も多いが、雑感として、多少惜しいところをいえば全体的にキャラクターが硬めで全体に生真面目さが強いところか。皮肉なユーモアや、異星人の通訳士の話が通じないところとか、遊びの部分もあることはあるんだが。

雑誌も読んだ(例によって古いの)。
◇ナイトランド・クォータリーvol.10 逢魔が刻の狩人
ゴーストハンターやオカルト探偵ものの特集。
○フィクション
「異次元の映像」グリン・オーウェン・バーラス
 女性ハードボイルドどホラーが融合した作品で、主人公の私立探偵キャシーの等身大なキャラクターがなかなか良い。キャシーものはこの時点で13作あるという人気ぶりもよくわかる。
「冥府から来た相棒」アラン・バクスター
 母親と自分を置き去りにした父親に復讐をするため、父親に殺された幽霊とバディを組むという設定がユニーク。オチもなかなか現代的な味。
「開かずの間」ヘンリー・S・ホワイトヘッド
 ”カーナッキ”リスペクトの幽霊屋敷もの、というか本文にそのまま言及されている。本作は1930年で、忘れていたが『アメリカ怪談集』収録の「黒い恐怖」の作家で西インド諸島での体験をヒントにした作品が多いとのこと。「黒い恐怖」自体はそんなに好きではないのだが、他の西インド諸島ものを読んでみたい(植民地時代のその周辺に興味があるので)。
「もう一人のエディ」キム・ニューマン
 興味はありつつ著書をなかなか読むにいたっていない作家だが、ブッキッシュなイメージ通りポオの要素を巧みに流用した作品に仕上げられている。
「マウンディ牧師の呪い」シーベリー・クイン
 連続する自殺の謎を追うジュール・ド・グランダン。フランス人なのはデュパンへのオマージュか(岡和田晃解説にあるようにしゃれた紳士らしいふるまいはポワロのようでもある)。ただ持ち味はむしろ小気味よい展開とダイナミックなアクションか。そうした他の怪奇探偵とは違う持ち味、また作品の背景にある当時らしい差別的でマッチョな視点と逆説的に現れる抑圧されたものたちの反逆の要素を解説した岡和田晃「《超常探偵ジュール・ド・グランダン》と叛逆への道筋」 も必読。
「口寄せの夜」<一休どくろ譚>朝松健
 お馴染みのシリーズだが、冒頭一休没後の状況でおやと思わせる。そして歴史をからませたオチにいたる。毎度の感想ながら巧いなあ。
「山ノ女忌譚」友野詳
 作者の名前はよく見かけていたが、読むのは初めて。ゴーストハンター時代小説。いつの世も変わらぬ因果な男女の綾をテンポ良く描いている。
○ノンフィクションなど
・藤原ヨウコウ・ブンガク幻視録(2)リットン岡本綺堂訳「貸家」より
・<ゴーストハンター>シリーズの歩み 岡和田晃
 ゲームの世界に<ゴーストハンター>という名の通りゴーストハンターをテーマにしたシリーズが既に1987年から国内にあるらしく、不勉強ながら初めて知る。安田均山本弘らの貢献の大きさもよくわかる。
・魔の図像学(10) ウィリアム・ブレイク 樋口ヒロユキ
 ブレイクに関してあまりよく知らなかったので、いろいろ知ることができた。「ゴシック・リバイバルの画家」でもあり、マティスにも影響を与えていたんだなあ。
・仁賀克雄インタビュー
 長いキャリアの翻訳家の歩みがわかる。
・<イベントレポート>朝松健『アシッド・ヴォイド』発売記念トーク&サイン会
 美術作家マンタム氏がパートナー。中古の仏壇をドイツにワインロッカーとして輸出していた古道具屋の話(白い着物の女が現われ、それがうけたので他にもないかという問い合わせ)やウィリアム・バロウズラヴクラフトのつながりとか大層楽しそうな様子が伝わってくる。
S-Fマガジン 2012年 11月号
 日本SF特集なのだが、宮内悠介作品(「ジャララバードの兵士たち」は既読で、他インタビューばかりなので以下の作品だけ読んだ。
「星の鎖」ジェイ・レイク
 星々の公転・自転が全て歯車でつながっているというぜんまい仕掛け宇宙のを舞台にした中編。なかなか魅力的な設定だ。2010年6月号掲載の「愚者の連鎖」の続編ということだが、宇宙への憧憬が前面に出たSFとしては非常にオーソドックスなロケットもので、ロマンスもからみ、基本的にはわかりやすいタイプの作品だ。ただ、前作未読でよく分からないところもあるし、このぜんまい仕掛け宇宙のイメージがどうにも入ってこず、十分に楽しむところまではいかなかった。そして、著者紹介に闘病中であることが記されているが、残念ながら2014年に亡くなられたようだ。 https://en.wikipedia.org/wiki/Jay_Lake
ついでに2010年6月号が見つかったので、「愚者の連鎖」も読んだ。こちらは短い作品で、共通の主人公(ザライ)が遭遇した事件が描かれる。人物関係などはこれで把握しやすくはなったが、それでもやはりこの<ぜんまい仕掛け宇宙>のイメージがなかなか想像しにくい。本筋は3部作らしいので、それを読まないとイメージをつくるのは難しいのかな。

そうそう5月29日には久しぶりに(数年ぶり。5年くらい行ってなかったかも、近所だけど)鎌倉文学館に行った。バラが美しかったのだが、大河ドラマの関係で源平を題材にした資料の展示も面白かった。吾妻鏡って漢文なのだね。室町時代の資料になってくるとカナが出てくる。基本的な事を知らないので、発見だった。ちなみに大掛かりな改修になり、来年4月からしばらく閉館。2年の工程のようだから2年閉館なのかもしれないな。たしかにその目で見ると建物の外壁は結構傷んでいたね。
鎌倉文学館、来年4月から休館 大規模改修で2年間 | 鎌倉 | タウンニュース