異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

2022年1月に読んだ本と聴いたトークイベント

 古い雑誌ばかり読んでましたね。
 あとちょうど先ほどオンラインイベントを聞いたのでまずそれから。
・【月刊ALL REVIEWS】牧 眞司 × 豊崎 由美、アドルフォ・ビオイ=カサーレス『英雄たちの夢』(水声社)を読む
 小説の紹介者として大変信頼すべき(しかも息の合った)お二人のイベント、しかもシルビナ・オカンポの翻訳で、個人的に注目度が高くなったビオイ・カサーレスがお題ということで聞いてみた。カサーレスは『豚の戦記』を以前読んだきりで、ぼんやりと面白かった記憶ぐらいしかなかったが、この作品、細部におけるユーモアやミステリ的な要素もありそうで読みたくなった。特に小説における虚構性と(読者に伝達する側面での)身体性について言及されていて、興味深いテーマだなと思った。どちらも未読なんだけど『モレルの発明』に関し、ヴェルヌ『カルパチアの城』が言及されていて、後者はkazuouさんの怪奇幻想読書会の本交換会でいただいており、いよいよ読まなくてはなあ。

例によって雑誌は興味のあるものだけです。
◆『嵐が丘』E・ブロンテ
 ケイト・ブッシュを聴いていると、この作品を読まないといけない気がしていた。随分長いことそんな状態で、実際にかなり昔から手をつけていたのだが(たぶん20年は経った(苦笑)、一度大きなブランクで中断、筋もかなり忘れていたがようやく読み終えた。長くかかった理由は、かなりエキセントリックな人物造型(どの人物も性格がキツい)、あまり流麗とはいえない語り口や展開、それから訳文の古さといった点だ。しかし解説にもあるように本書の名作たる所以は、欠点を補ってあまりあるヒースクリフとキャサリンの愛の激しさにある。後半次世代の話になるが、結局登場人物たちは、二人の情念に呑み込まれてしまったかのようだ。ただすごいことはわかったものの、そんなわけできちんと読み切れてはいない感じなので新訳の方でいつか再チャレンジしなくては。
◆『断絶』リン・マー
 未知の感染症「シェン熱」の蔓延が描かれる、コロナ禍前に書かれた予見的パンデミック小説。ただ通常のSF系小説の様なシミュレーション的側面より、あくまでも視点は個人にあるのが特徴。本来は、終末に向かう社会というSF要素と作者の自伝的なリアリズム小説の要素が、ミスマッチになりそうだが、不思議とすんなり融合し、立体感のある作品世界が繰り広げられている。私的要素が強い現代のSFとして、サム・J.ミラー『黒魚都市』を連想したが、むしろ直截的に私小説部分を取り入れている本作の方が成功しているように感じられた。テーマが破滅ものだと構造がシンプルで私的要素を取り込みやすいということなのかもしれないが。
SFマガジン2000年1月号
 本棚整理をして、「エシア」を再読したくなって読んでみた。
 「エシア」クリスティン・ラッシュ
 Twitterで偏愛短篇SFで挙げたくらいに好きな作品。久々に再読。やはり好きだな。激しい戦争のあった月コロニーから養子を迎えた主人公の話。その養子のアイデンティティに関する決断をめぐる作品で、シンプルで地味目の作品なのだが、シリアスなテーマが情感豊かに描かれている。
「輝く扉」マイクル・スワンウィック
 「エシア」再読のついでに未読だったこれも。突然、未来から扉が開かれ、膨大な数の難民が押し寄せる。難民対応も大きな社会問題となるが、一方その背景となった原因が探られる。ディストピアSFに時間移動を組み合わせたサスペンスで、さすがによくできている。
◇ナイトランド・クォータリーvol.9悪夢と幻影
○フィクション
「アーミナ」エドワード・ルーカス・ホワイト
 『ルクンドオ』を積んでるが、砂漠で幕営生活をする主人公たちか遭遇したものを描く。異文化趣味が恐怖とマッチしている。安田均氏のエッセイStrange Storiesもホワイトについて。
「クローゼットの夢」リサ・タトル
 作者らしい被抑圧者の出口無しの恐怖が見事に描かれる。
「すべての肉体の道」アンジェラ・スラッター
 旅する危険な青年のターゲットは若い娘。短いが切れ味良くまとまっている。
「黄衣の病室」ウィリアム・ミークル
 精神病院を舞台にしたカーナッキもの。死のイメージをまとう黄衣の王がなんとも恐ろしい。が、チェンバース「黄衣の王」未読で入手困難なことも思い出してしまう(あ、BOOKS桜鈴堂版があるか)。
「ヴィーナス」モーリス・ベアリング
 1909年発表で、真面目な男が悪夢の世界に悩まされる話だが、悪夢がサイケデリックともいえるような色彩とトリップ感覚があるところが良い。
「二階の映画館」マンリー・ウェイド・ウェルマン
 モーパッサンの「オルラ」をテーマにした映画ものショートショート。映画ものだが舞台はハリウッドではなく、ニューヨークの場末映画館ものといえるかも。(ちなみに本作は1936年発表のようで、気になってざっと検索したところ20世紀初頭の映画中心地はNYとシカゴ、ハリウッド初の映画スタジオは1911年のようだ)
「ミドル・パーク」マイクル・チスレット
 新しい街に越してきたカップル。素敵な公園を見て回っていたが。日常から非日常にシームレスに移行していく。ロンドンの郊外という舞台設定がなかなか魅力的だが、ロマの話や「虹の彼方に」の歌詞も出てきたり複合的な印象。
ヴェネツィアを訪るなかれ」ロバート・エイクマン
 ヴェネツィアは多くの作家のインスピレーションを刺激し、心に残る作品がつくられてきたが、これもそれに連なる。夢の様な風景とまとわりつく観光産業、歴史ある名所である一方で沈みゆく宿命、など相反するイメージが交錯し、主人公を惑わせる。
「青白い猿」M・P・シール
 歴史ある古い屋敷を舞台にした怪異譚。獣的なイメージが印象的な作品。破滅SFの先駆かつ独特の空気感のある『紫の雲』に比べるとオーソドックスか。
「むまだま暮色」<一休どくろ譚> 朝松健
 時代ものにクリーチャーをからめて、森の盲目という設定が効果を上げる。やはりうまいね。
「夢の行き先」澤村伊智
 小学校のクラスで不気味な老婆が出る悪夢が伝わっていく。怪談ものだが、洗練されたミステリのようなゲーム要素が効果的。面白かった。
○ノンフィクション
・魔の図像学(9) フュースリ 樋口ヒロユキ
 フュースリ≪悪魔≫の映画や小説の大きな影響力についてで、作品背景含め面白かった。
鏡明インタビュー 「剣と魔法」の夢を追って
(文章・採録 牧原勝志)
ジャンル横断的に偉大な人なので、どの話も興味深いが、ロックとSFの話はもっと沢山知りたいなあ。ちなみに本号は2017年5月号、まだRogue Moonは未刊行だね(笑)。
・E・L・ホワイト「セイレーンの歌」と、『オデュッセイア』の「内なる自然」岡和田晃
 ホワイトの生涯、作品「セイレーンの歌」のモチーフであるセイレーンが、オデュッセイアと共にアドルノベックリンの絵画で分析される。作品自体未読だが、「外なる自然」と「内なる自然」の対比といえのが魅力あるテーマで、再読したり関連作品を読みたくなった。
文學界2018年12月号
〇フィクション
「人類存続研究所の謎あるいは動物への生成変化によってホモ・サピエンスははたして幸福になれるか」
松浦寿輝
 詩・小説・評論・翻訳と幅広い文学活動を行い多くの文学賞を受賞をしているが、本編もやや現代社会における人間性の揺らぎが特異な言語感覚によりユーモラスに描かれていて大変面白かった。
「戦場のレビヤタン」砂川文次
 日本の日常に馴染めず、傭兵としてイラクに赴いた男が描かれる。派手さはないが、戦地に敢えて向かう人物の心理がよく描かれているように思う。著者は元自衛官らしい。(読んだのは随分前なんだが、その後第166回芥川賞を受賞、受賞作も読みたくなるね)
「何ごとが照らすかを知らず」玉置伸在
 2018年下半期同人雑誌優秀作。こうした同人誌も商業誌に掲載される機会があるのは良いシステムだとは思う。が、日常的な人々の姿や交流が正攻法で描かれるオールドスクールの純文学はあまりにも引っかかりが少な過ぎて楽しむことができない。
〇ノンフィクション
「FOR YOUR EYES ONLY ― 映像作家としてのロブ=グリエ佐々木敦 
 ロブ=グリエの映像と著作の両面から開設した大変興味深い内容。
「革命に至る極貧生活」第二回 森元斎
 政治運動がらみの話だが、放射性物質を極度に恐れる人物がいろいろ周囲に軋轢を生む様子がそのまま描かれていてなかなか厄介な問題であることが伝わってくる。
「首の行方、あるいは……」 金井美恵子
 三島由紀夫の生首写真が報道されたかどうかについてのえエッセイ。さすがに視点と文章の切れ味が見事。
◇文藝2019年夏季号
〇フィクション
「神前酔狂宴」古谷田奈月
 神道の結婚式場を舞台に、時代の移ろいが描かれる、基本的には青春小説家かな。神道とかの世界には馴染みがなく、正直ピンと来ないところもあったが、結婚式場の舞台裏は知らない世界だったし、小説としての完成度は高いので、面白く読むことができた。
「君の代と国々の歌」温又柔
 多様な出自の人が交錯し、複雑な過去がありながらも、それを消化していながら生きていく。責任、謝罪といった問題を越えて、人が生きていくとはどういうことかに思い及び、切ない気持ちになる。
「黄金期」岡田利規
 横浜駅を舞台に奇妙な行動をとる人物が細かく表現される、やや実験的な作品。ちなみにこの作品から横浜駅も少し変わっていて一部わかりにくくなってる懸念がある。
「鎭子」飛浩隆
 雑誌刊行時にこれだけは読んでいて、今回再読。飛作品の世界を、自らの空想に持つ女性をめぐる出来事が描かれる一般文学作品。とはいえ残酷でエロティックで人間のデリケートな心理を突き刺す”痛さ”は変わらず。いきなりの結末を迎えるが、続編はどうなっているのか。
「ラストソング」福永信
 語り手の引退発表を前にした心情が描かれ、周囲の人々への気遣いなど、比較的すんなり流れる。が、この人の仕事がよく分からないという仕掛けに驚かされる。なるほど、と膝を打ちたいのだが十分には解釈できず、打つ膝が急にどこかへいってしまった感じだった(いやそれでも面白いですこれ)。
「アイドル」仙田学
 リストラされかかった困窮状態の男が、そのことを妻に打ち明けられずにいる中、会社への反撃を準備しつつ、一方で地下アイドルにのめりこんでいるという話。現代の世相を丁寧に切り取り、また非日常的なことも起こっていく。スリップストリーム的作品。
「酷暑不刊行会」木下古栗
 基本的に連載はなかなか読めないのだが、評価の高い作家だとは知っていたし第一回だし、タイトルに惹かれて読んでみた。暑さに弱い社長の零細出版社が、長期天気予報の結果から夏季の長期休業を決めてしまった。社員は困り、副業を探すという話。偶然コロナ禍の社会状況とシンクロしている。至って普通な展開が、最後でいきなりかなり下らない下ネタが押し寄せる流れに笑った。
「ダイアナとバーバラ」小川洋子
 ダイアナ妃のドレスがテーマになっているが、悲劇的な生涯より美しく昇華されたイメージが心に残る一編。
「産毛にとって」藤田貴大
 複数の語り手の独白が地の文で記載される形式でうまく把握できなかった。失礼。
「時差もなく」佐々木譲
 著名なミステリ作家だが、この普通小説が初読だと思う。とあるメーカーの宣伝課で無能な上司に振り回される社員たちの姿が回想によって語られる。バブル期を象徴するようなダメ上司は少々類型的に過ぎる気もするが、流石に滑らかな語り口で読ませる。
○ノンフィクション
・「なぜ今、天皇を書くのか」戦後の終わりと天皇文学の現在地 池澤夏樹✖️高橋源一郎
 ベテラン作家による天皇制と文学をめぐる対談。天皇制の文化的な側面、人間的な側面に光が当てられ、なかなか面白かった。
・「平成という病」東浩紀
 自らのキャリアの振り返りを混えながらの平成回顧。嫌世的なトーンが強いが、この視点すらも置き去りになるコロナ禍にあらためて驚かされる。
◇群像2019年4月号
○フィクション・短歌
穂村弘 現代短歌ノート
 元号がテーマで「昭和」を使った短歌載っていて、時を刻むようであったり、時代の落差をユーモラスににじませたり、様々な使われ方の違いが面白かった。
・「藍色」藤代泉
 暮らしてきた土地の川と土手を場の記憶として、過去と現在が交錯していく形式で、オーソドックスなタイプの小説。カワセミの背中の鮮やかな色の表現があるが、これは実際に体験したことがあって、記憶に残っている。
・「父たちの冒険 The Adventures of Fathers」
小林エリカ
 どうやら医者家系である著者の自伝的年代記。短い分、コンパクトに時代の移ろいを切り取っている。漫画家でもあるらしい。またご両親はシャーロキアンでもあるようだ。
・「セイナイト」李琴峰
 クリスマス・イブの女性カップルが描かれる。漢字の、言語による使用法の落差が生む世界認知への不安が恋愛対象への小さく揺らぐ心理と重ね合わされている。
○ノンフィクション
・「近未来」としての平成 橋本治
 絶筆論考と記されていて未完。橋本治については若い頃よく読んでいて、とりわけ美術に対するとらえ方は『ひらがな日本美術史』がいまだに脳のフォーマットにあったりする。ただ、本人は昭和という時代が気に入らなかったようだが、同時代の状況を分析するような論考については、昭和後半から平成初期の人だなあという気がする。本稿でも、それなりに納得させる箇所は見られるが、「おたく」「IT」といった対象については距離を測りかねてると書いてあるだけの印象で、時代とのズレがみられる。また、情報が多量に存在する時代に、橋本の「あくまても自らの体験をベースに徒手でいちから思考をする」という手法自体が(どんなに固有の視点を持ち得る人であっても)成立しなくなっていることを示しているのかもしれない。
・無数のざわめきともに騒げ!ーいとうせいこう
矢野利裕
 80年代生まれの批評家による評論。非常に熱い思いが伝わる。その守備範囲の広さゆえのとらえづらさのためか、いまひとつ興味がわかないいとうせいこうだが、小説は一度読んでみるかな。
・絵画・推理・歴史ーシャーロック・ホームズの「歴史戦」石橋正孝
 コナン・ドイル歴史小説家の側面から、ホームズの記述を分析、近代以降の作者/作品/読者の関係性にまで言及する論説。当ブログ主のような一般読者なは難度のかなり高い内容、かつそもそもホームズを少ししか読んでいないため、わからないところばかりだが、ユニークな視点と思われ、詳しい人達の感想を聞きたい。
・その日まで 第八回 瀬戸内寂聴
 身内の歩みなどが綴られている。以前徳島に用事で行き市内観光をした時に、著者の写真が飾られていた仏具屋を見かけた記憶があるが、あれがたぶんご実家なんだろうなと関係ないことを思い出した。
・ブロークン・ブリテンに聞け 14.Who Dunnit? マルクスの墓を壊したやつは誰だ ブレイディみかこ
 評価の高い著者の本はまだ未読で、雑誌等で読んだくくらいだが、時々の問題をアイロニーを交えて活写する文体切れがありさすが。カール・マルクスはイギリスで活動していたからロンドンに墓があるのか。
中条省平の連載でアンドレ・ジッドの批評的ユーモア精神の分析が興味深かった。