異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

『宇宙飛行士 オモン・ラー』ヴィクトル・ペレーヴィン

宇宙飛行士オモン・ラー (群像社ライブラリー)
 初ペレ―ヴィン。
 宇宙飛行士への憧れを抱くソ連の少年が月の裏を目指す。ソ連の宇宙開発の歴史が戯画化され寓話的に描かれた作品。冷戦時代の宇宙開発競争のため、駒のように命を粗末に扱われる飛行士らのエピソードが哀れにも可笑しくも感じられ(しょぼい月面歩行車ルノホートの描写や練習の様子やキッシンジャー歓迎のエピソードなど特に。)、奇想小説として楽しく読み進める。また大まかな筋としては予想の範囲内の結末を迎えるが、どうやらそこはそれほど重要ではないようで解説を読むと全体に重層的な仕掛けがほどこされていて、ソ連批判だけではなく「(前略)ソヴィエト人の内面の宇宙をテーマにしたもの」らしい。ロックバンドのピンク・フロイド作品への目立った言及が一部にあり、その割に『狂気(The Dark Side of the Moon)が言及されていないのは意識してのことというのは感じたが、主人公の宇宙飛行士仲間のミチョークの妄想記録により興味を惹かれる。解説で前世(?)と書かれているが、メソポタミア文明ローマ帝国ナチスと時代や地域も違う謎めいたイメージの連鎖がつづられる。大きな神話的なイメージの流れの中に現代として宇宙飛行士を位置付けているのかもしれない(そこには性的なメタファーも含まれているようだ)。再読を要するなあ。
 装丁はが美しく、コンパクトなサイズもかわいらしく本そのものとしても大変チャーミング。群像社ライブラリーは揃えたくなる。