異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

イマジカBSキューブリック特集『非情の罠』『現金に体を張れ』

 今のところ全部観ているキューブリック特集。続き。
 (一部内容に触れているので未見の方は御注意)

『非情の罠』
 1955年の作品。商業映画としてはこちらがデビュー作とのこと。キャリアの晩年にさしかかったボクサーがマフィアの情婦を救ったことから起こる事件の顛末。ビルの屋上のシーンとか『スパルタカス』の決闘を思わせるようなアクションシーンや時々見られる印象的なアングルとか陰影の美しさだとかところどころに目を引く部分もあるが、全体的にはいわゆるノワール映画らしさの方が感じられる。アフロキューバンジャズが炸裂しているのがよい。タクシーダンサーという職業があったことを不明ながら初めて知った。

現金に体を張れ
 1956年の作品。刑務所帰りの男が仲間や協力者を募って競馬場の売り上げを強奪しようとたくらむ。とにかく面白い!観ている方は前半では犯罪者たちに肩入れして周囲を欺く計略が進行するのをハラハラして見守り、終盤その夢が潰えてしまうのをしんみりと味わう。無駄なくきびきびとして展開が素晴らしい。空港で現金が風に舞うシーンが何とも無常で美しいのだが、特に人間の業といったものを感じさせるのが計略に加わる気の小さい男ジョージ(エリシャ・クック)と彼が頭が上がらない妻シェリー(マリー・ウィンザー)の関係。浮気相手に計略を平気で洩らすシェリーと鬱屈したジョージの関係は最後に悲劇的な結末を迎える。背の高い妖艶な妻に小男の夫という対比などここに力点が置かれていただろうことははっきりしていて、移り変る心理など後年の鋭い人物描写に通ずるものがありぞくぞくした。