異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

『監視機構』<サザン・リーチ>2 ジェフ・ヴァンダミア

監視機構 (サザーン・リーチ2)

 謎の領域<エリアX>を監視機構<サザーン・リーチ>が調査するという<サザン・リーチ>三部作の2作目。
 1作目『全滅領域』では<エリアX>の謎を解き明かそうとする調査隊の姿が描かれていたが、今回はそれを送りだした監視機構<サザン・リーチ>の話。
 (以下、内容に触れますので未読の方御注意)
 『全滅領域』では催眠暗示の力で周囲の人物を統制し主人公の生物学者と反目していた心理学者が、<サザン・リーチ>の前局長であったことが明かされる。そして本作での主人公はその前局長の後釜として中枢の組織<中央>より派遣された<コントロール>という人物。前作と舞台が代わるが内容も探検もの的な要素から一転し組織内でのジリジリするような心理戦が主になる。
 <コントロール>は<中央>において重要な役割を果たしている(と思われる)母親の肝入りで派遣された最も今回の<エリアX>の現象に関する情報にアクセスしやすい人物として設定されている。しかし実際は前局長の片腕であったグレイスとの対立をはじめとする組織内での孤立、前作の主人公で調査からかろうじて生還した生物学者の鈍い応答などなど事態の改善のための足元すら固められない有様。やがて謎めいた現象が周囲に発生し、一方調査隊の意義の根幹をゆるがす事実も明らかになる。
 謎がすっきりと解明される様なカタルシスの得られる展開は乏しく、はりつめたような登場人物たちの探り合いが抑えられた筆致で描かれ、情報を読む解くというのはいったいどういうことなのか、相手の言葉の意味をとらえるとは何か、コミュニケーションとは一体何なのか、謎を追うとはどういうことなのかといった内省的な内容が続く。明快な謎解きを好む向きには合わないかもしれないが、やがて終盤に現れる背筋が寒くなるような世界像には驚かされた(どことなく黒沢清の映画を思わせるところもある)。
 次の最終作では舞台は<エリアX>に戻るらしい。楽しみである。