異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

アリ・フォルマン監督『戦場でワルツを』の感想(2009年のものを再掲)

『泰平ヨンの未来学会議』の映画化ということでマジで!と驚いたが、監督は『戦場でワルツを』のアリ・フォルマン監督でなんのことはない未来会議のことも昔のブログに書いてあった・・・記憶力の衰えorz
たまむすびのラジオも一部しか聞けなかったんだが実在の女優さんが本人役で登場してハリウッドネタもあるとのことで原作とはちょっと違う要素が含まれてるっぽいね(原作未読だが)。まあとりあえず『戦場でワルツを』の感想を再掲しておく。

(2009年12月5日のブログ記事から)
先日‘母なる証明’観たとき予告が流れていて、もう二度と観る機会はないかもしれないと思い昨日仕事後に。レバノンへのイスラエル軍侵攻に伴ってパレスチナ人難民が集団虐殺されたサブラ・シャティーラの虐殺をテーマにしたアニメーションである。監督自身の実体験に基づいている。
 イスラエル軍兵士だった映画監督のアリは、昔の戦友から悪夢について相談される。26匹の犬に追いつめられる夢を見るのだという。戦争にまつわるその悪夢を、20年以上もたって突然その友人は見るようになったのだ。話を聞いて、アリは自分の戦争経験がフラッシュバックする。しかし、自分が居合わせたはずのサブラ・シャティーラの虐殺についての記憶が完全に失われていることに気づく。いったいそこで何が行なわれたのか。失われた記憶を求め、アリは取材を始める。
 実にシリアス、へヴィなテーマをアニメーションで描く斬新な作品である。主人公の記憶をたどるというミステリ的な手法も観易くしている。アニメに詳しくないので、よく分からないが、ともかく普段見慣れた日本のアニメと違ったダークな感じで(動きは少しモッタリ?)、なかなか新鮮だった。場面の転換とか音楽とのシンクロとかは結構スタイリッシュで良かった(OMDとかPiLとか懐かしい)。戦争をスタイリッシュに描くということ自体、非難を受けることもありそうだが、ユニークな試みは成功しており、近い世代(アリ・フォルマン監督は1962年生まれ)としてむしろ共感しやすく仕上がっているように思われる。イスラエル軍が虐殺の危険性をどれだけ認識していたのか(監督はキリスト教ファランヘ党民兵たちによるものと答えている)、ドキュメンタリーとしてはもう少し切り込んで欲しい部分もある。しかし、これは記憶に関する映画ともいえる。元々戦場でのショッキングな記憶がそのまま残ることは精神的な危機を来しかねない(映画内では、戦場で高揚して写真を撮りまくっていたアマチュア・カメラマンがカメラの故障とともに急に精神的に不安定になるエピソードが語られている)。様々な自己防衛本能が働いて、記憶が消えたり歪められたりすることになる。人間の内面に起こる様々な変化は、必ずしもドキュメンタリーの手法や映像では切り取ることが出来ないかもしれない。その意味でこうした野心的な方法が必要だったのだろう。(監督はドキュメンタリー映画歴がながいようで、アニメは最近やり始めたようである。→映画公式サイトから)いずれにしろ不勉強でレバノン侵攻や虐殺についての知識はほとんどなかった自分に、いろいろ興味を持つきっかけを与えてくれたし、基本的に映画としての質も高かったので観てよかった。
 ちなみにこの監督、昨年レムの『泰平ヨンの未来学会議』の映画化権を獲得している。そっち方面でも期待させる人物である。(ここまで)