異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

『夢幻諸島から』ネタばれ検証

「夢幻諸島から」あちらこちら再読して、やはり謎が多い。以下はネタばれで備忘録のためのものなので未読の方は読まないことをおすすめします。








スライム「ジェイム・オーブラック(大オーブラック)」、不死人(沈黙の雨(コラゴ)」、時空の歪んだ島「静かな波音を立てる海(リーヴァ―)」、不気味な塔「死せる塔/ガラス(シーヴル)」などSF/ホラー/ファンタジー的な要素があるパートが大変魅力的な本書であるが、それ以外の日常からの飛躍の少ない一般的な描写の中にミステリ的というかいろいろな仕掛けが施されている。簡単に言えば結構不穏な事が匂わされているのだ。しかしそこには矛盾する描写もあり、これが疑問の消えない理由である。(もちろん作品にSF要素が含まれる時点で様々な解釈が出来てしまうのだが、そこはプリーストだけにSF解釈以外の意味もあるに違いないと思っている)

まずSF的ではない一般的なエピソードの中でポイントとなっている事柄を列挙(間違っていたらスミマセン)。
1.パントマイム・アーティストのコミスはケリス・シントンという犯罪歴のある若者を主犯格とする四人組とのトラブルからグールン島の劇場内で殺害され、シントンは死刑となる。しかし真相は異なるという見方がある。
2.作家チェスター・カムストンはピケイ島を題材とした作品で世界的に評価されており、島から出たことが一切ないとされているが、双子の兄弟がそれは真実ではないとしている。そしてカムストンは島からいなくなった期間中にグールン島で起こったパントマイム・アーティストのコミスの殺害事件に関与した可能性が示唆されている。
3.チェスター・カムストンは社会改革家のカウラーに強く惹かれ、いったん深い関係となるが、カウラーはコミス殺害事件に関しシントンの冤罪と匿名ながらカムストンの関与をほのめかす著作を発表したため、裏切られたと感じ別離を決意する。が、何故かカウラーの行動に理解を示すようになり関係の修復を望むようになる。しかし間もなくカムストンは急死、葬儀にカウラーはピケイ島を訪問。
4.カウラーはカムストンの葬儀後間もなく亡くなったと噂されていたが、本当の死は七年後。
5.カウラーは晩年瓜二つであるジャーナリストのダント・ウィラーをアシスタントとして雇い影武者をさせていた。
6.評価の高い画家でカムストンにより伝記も書かれているドリッド・バーサーストは様々な島を移動して作品を残し、華やかな女性関係でのエピソードも多い。
8.バーサーストはその初期にアイ島の風の研究で知られるエスフォーヴン・モイと深い関係になり、描いたモイの肖像画は伝説的な作品となっている。
9.インスタレーション・アーティストのジョーデン・ヨーは土木工事でトンネルを掘って作品にするため、各所でトラブルを起こし何度も投獄されている。しかし後の評価は高く、心酔している人も多い。
10.詩人カル・ケイプスの生涯もカムストンにより伝記が書かれている。殺害され短い生涯を終えた(故郷であるメスターラインに関わるテロ事件に関与していた可能性あり)

というようなところだろうか。お気楽活字生活の舞狂小鬼さん御指摘の通り、そもそも自らの死が書かれている本の序文をカムストンが書いているのは変。あと2点個人的に疑問がある。

①カムストンは少なくとも公式にはピケイ島を離れていないことになっていたが、ウィンホーに滞在しバーサーストに会ったことになっている(P259、405)
②カウラーとウィラーどちらの死亡が早いか逆の記述がある(P100、402)

①に関しては時代が下ってピケイ島から離れたことが大きな問題とならなくなり、普通に記載出来るようになったという解釈もある。しかしそれでも疑問は残る。バーサーストの伝記はカムストンの代表作の一つであるようなので、カムストンが生きている間もそこは問題となっただろう。伝記が書かれる前にどこかでバーサーストと会う必要があるからであり、(この世界の中で)公的にはどう扱われていたのだろうか。カムストンが島から離れていたのが事実として、それは公然の秘密だったのだろうか。
②については箇条書きの4や5辺りのカウラーとウィリーの奇妙な関係から発生しているのだろうか。

あーいやいや、二大政治勢力の戦争と他のエピソードのからみも気になるなー。まだまだ謎は多い。とりあえず①や②はいずこからたぶん解答があらわれる予感がするので心待ちにするとしますよ(笑)