イーガンが控えてることから、ガチガチのハードSFの前に短めの王道のホラーを挟んで・・・と思い積読本からこれを選択。ところがね、ちょっとこれ予想と違っていた。
「白魔」 びゃくま、と読みます。古典探偵小説や怪奇小説ではお馴染みの何やら一家言ありそげな男が友人相手に、もっともらしい話をしている。さてそれは罪に関する持論だったのだが、興味を持った相手に差し出したのはある少女の手記だという。というわけでこうした外枠の語りの中におさめられたこの手記が話の中心だが、主人公の目から見た魅惑的な怪異が不確かさを持って綴られていくところが、体験を共有しているような効果を生んでいるのがよい。こういう書かれ方のものはあまり読んだ記憶が無く新鮮。
「生活のかけら」 仲睦まじい夫婦が妻の叔母から誕生日祝いでもらった百ポンドの小切手を何にしようか相談をはじめる。日常の細かなディテールが書き込まれ、身近な物や人のエピソードが次々に語られ普通小説なのかな?と思いきや次第に不思議な世界が侵入していく。日常の出来事が連続していくという描き方は、これまた似たようなタイプのものがぱっとは思い浮かばないユニークさがある。また意図していなかったかもしれないが、金銭の話題や当時の風俗をしのばせる内容も多く、それも印象深い。
『翡翠の飾りより』
日本では未紹介の短篇集から3作
「薔薇園」 夜の月明かりの中に広がる美しい幻想。
「妖術」 妖術をめぐる女性たちの秘密。
「儀式」 少女は未知であった大人の世界に触れていく。『筋肉男のハロウィーン』の「セレモニー」と同じ作品なのかな。訳文に寄って印象が異なり、理解しやすさより描写や言葉の美しさの方が前面に出ている感じ。
ホラーや怪奇小説という先入観で読み始めたが、読んでみると主人公たちの多くが<ここではないどこか>である幻の美しい世界を自ら希求するようなむしろファンタジーの要素が強く感じられた。そういった夢のあわいにある世界の描写が大変美しく心に残る(訳がいいのかもしれない)。

- 作者: アーサーマッケン,Arthur Machen,南條竹則
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2009/02
- メディア: 文庫
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