異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

ポール・マッカートニー日本公演

 さて、ポールの日本公演のことに触れなくてはいけない。
 予想をはるかに超える凄いコンサートだった。本人がものにした数々の名曲に、ゆかりのある伝説的なジョンやジョージやジミのカヴァーも織り交ぜて、年齢を感じさせないテンポで休みを取ることも無く次々に繰り出してくる至福の時であった。
 例えばBeing fot the Benefit of Mr. Kite。楽曲・アニメーションの調和した幻想的な美しさは、テクノロジーや曲解釈の進化により、アルバム当時には表現できなかったポールのイメージが実現している印象があった(個人的にはSgt.Peppersのアルバム自体は早過ぎたセンスのために技術的に追いついていないと思っている)。長生きのミュージシャンは強い。音楽の幅の広さも圧倒的なものだ。ロックンロール、サイケデリック、R&B、ゴスペル、レゲエにアコースティック、ストリングスを取り入れた楽曲などなど膨大な音楽ジャンルを呑み込んでいったポップにおける怪物的な存在であることが分かる。おまけとしてはコンサート前のDJによるポールの曲のつなぎで、コンサート開始直前にハウス/テクノ的なリミックスになりTemporary Secretaryに見事につながり、そこまですらポールがアプローチしてきたことがはっきり分かる構成になっていた。新譜NEWからの楽曲も割と演奏されていたことも現役としての自負が感じられた。
 そしてその凄さは楽曲のみに止まらない。Back In the U.S.S.R.でのプロパガンダアート風のアニメーション。Paperback Writerでのペイパーバックの図柄(このために作られたものだろうかホラー調のもあったように思われる)。もちろん製作者はの力もあるのだろうが、約50年前当時誰もが思いつかないような題材を扱った圧倒的に鋭い歌詞センス自体がそうしたアニメーションなどの面白さの源流であるだろう。Helter Skelterのようにチャールズ・マンスンの妄想を増幅させてしまった曲もある。現代ポップ文化は人々の無意識の世界をも表現してきた。そしてそれはポールがその中心となって20世紀以降作り上げてきたものなのだということをあらためて印象づけられた。
 ポールの素晴らしさはそういった伝説ともいえるキャリアを残しながら、未だ細身のポップスターな佇まいのまま、チャーミングな身振りで軽々と歌い演奏する見事なアイドルぶりであろう(71歳!)。トリビュートされた人達は亡くなっており、若くして旅立った人も目立つ。また数々の名曲の力は時に聴衆のネガティヴな部分も引きだした影響力を考えると、自分のペースを失わない飄々としたその姿はある意味怖ろしさすら感じさせる。底知れぬポップモンスターの力に酔いしれた3時間余りだった。観ることが出来て本当に良かった。ありがとうポール。