異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

丸屋さんトーク2-3月は【恒例! 旧正月アジアフェス2022】

旧暦主義者の丸屋九兵衛氏、2月が新年イベントとなる。

というわけで2-3月の【恒例! 旧正月アジアフェス2022】を例によって聴いた。

・【ASIAN MUSIC REVIEW】旧正月音楽祭! 越境アジア系R&Bとヒップホップの宴

 一向に現在のR&Bやヒップホップに明るくならない当ブログ主だが、ちょっとだけ最新チャートをチェックするようになり(とはいえTVKビルボード番組を時々観るくらいだが)、本イベントの「ザ・ウィークエンド以降」という切り口にも反応できるようになったのは進歩といえよう(<誰もほめてくれないので自分で高評価w)。このアジア系R&B/ヒップホップは以前から行われているが、丸屋氏のアジアン(ミュージック)シンジケート的なコネクションが感じられる面白さがポイント。いつか世界を牛耳る日がやってくることを期待して止まない。

・【Q-B-CONTINUED vol.69】めくるめくアジア映画の迷宮へ! 香港、韓国、タイ&MORE

 諸般の事情で、映画は音楽以上に縁遠くなってしまい…。時代もの、特撮もの、コメディといろいろあって楽しそうだ。現在の気分としては、旧正月映画の定番の明るい感じが一番観てみたいかも。世の中がパッとしないからね。(しかし、ああいうめでたしめでたし的な大団円はなるほどシェークスピアからなのか)

・【Q-B-CONTINUED vol.70】世界史スーパースター列伝:中華編パート2! 張良子房と後輩たち

 劉邦のブレイン張良冒頓単于匈奴と中国の関係(衛青や金日磾など)、宣帝

の話が面白かったね。中国歴史SFから中国史に興味も覚えてきたのでいろいろ読んでいければなあ(なかなか時間がないが)。

・【Q-B-CONTINUED vol.71】スーパーロボット大変! 機器人バトルはアジアの華! feat. いんちき番長

 アニメ・漫画には同世代の中では明るくないことは常々このブログでも言及してきたが、当然子供の頃ロボットアニメに親しんできたので、出てくる国内アニメのほとんど(とテコンV)の少なくともタイトルは聞いたことがある。しかしまあ意外といろんな敵味方のストーリーや設定があったのだなあ。様々な試行錯誤があってガンダム以降のアニメになっていったのね。それにしてもゲストいんちき番長の知識の豊富さと小さい時からの記憶が素晴らしいなあ。これぞ生きた知識といえるだろう。

・【Q-B-CONTINUED vol.72】我LOVE香港FOREVER! 愛しき混沌パワー都市の歩み]

 ロシアのウクライナ侵攻に暗澹たる気持ちになる昨今だが、一方中国から香港への弾圧もまた世界に影を落とす動きであった。そんな香港へのエールを送る企画。五棟のマンションに様々な文化背景や国からの4000人が暮らし(出入りする人々は120か国以上?)、アフリカからの携帯が大量に売られているという(個人的にはリアルサイバーパンクな世界を感じさせる)重慶大厦(チョンキンマンション)のことは知らなかったなー。

今年も森下一仁さんの「ベストSF2021」に参加。あと過去の投票結果も。

 今年も森下一仁さんのSFガイド「ベストSF2021」に参加しました。
nukunuku.michikusa.jp
 投票はこんな感じ。
『時の他に敵なし』マイクル・ビショップ 1.5点
『三体Ⅲ 死神永生〈上・下〉』 劉慈欣 1.5点
『人之彼岸【ひとのひがん】』郝景芳 0.667点
『移動迷宮』大恵 和実編訳 0.667点
『ポストコロナのSF 』日本SF作家クラブ編 0.667点

で、今回は過去の投票結果も振り返ってみることに。
投票方式をいちおう説明しておくと、各投票者が5点持っていて、5作品まで推薦可(1作でも可)。もちろん自由参加。
1996年から開始で、97年から参加していたんですね。体調が悪かったり、あんまり読めなかった時は不参加だったけど。
いやあ、やはりというか短編集ばかりですな(苦笑)
まあ自分の投票内容はともかくこのベスト、もう一つの歴史ですな。
2020年
『荒潮』陳楸帆 1.5点
『ライフ・アフター・ライフ』ケイト・アトキンソン 1点
『図書室の怪(四編の奇怪な物語)』マイケル・ドズワース・クック 1点
『砂漠が街に入りこんだ日』グカ・ハン 0.75点
『タイムラインの殺人者』アナリー・ニューイッツ 0.75点
全体の結果2020年
2019年
『息吹』テッド・チャン 2点
『方形の円』ギョルゲ・ササルマン 1点
『巨星』ピーター・ワッツ 1点
『なめらかな世界と、その敵』伴名練 0.5点
『黒き微睡みの囚人』ラヴィ・ティドハー 0.5点
全体の結果2019年
2018年
『飛ぶ孔雀』山尾悠子 2点
『竜のグリオールに絵を描いた男』ルーシャス・シェパード 1点
『半分世界』石川宗生 1点
『文字渦』円城塔 0.5点
『iPhuck10』ヴィクトール・ペレーヴィン 0.5点
全体の結果2018年
2017年
『隣接界』クリストファー・プリ―スト 1.5点
『地下鉄道』コルソン・ホワイトヘッド 1.5点
『母の記憶に』ケン・リュウ 1.5点
『書架の探偵」ジーン・ウルフ 0.5点
全体の結果2017年
2016年
『エターナル・フレイム』グレッグ・イーガン 1点
『死の鳥』ハーラン・エリスン 1点
『宇宙探偵マグナス・リドルフ』ジャック・ヴァンス 1点
『ロデリック』ジョン・スラデック 1点
『ゴッド・ガン』バリントン・J・ベイリー 1点
全体の結果2016年
2015年
『クロックワーク・ロケット』 グレッグ・イーガン 1.5点
『紙の動物園』 ケン・リュウ 1点
『世界の誕生日』 アーシュラ・K・ル・グィン 1点
エクソダス症候群』 宮内悠介 1点
『ナイト』 ジーン・ウルフ 0.5点
全体の結果2015年
2014年
『ピース』ジーン・ウルフ 1点
『オマルー導きの星ー』ロラン・ジュヌフォール 1点
『新生』瀬名秀明 1点
『全滅領域』ジェフ・ヴァンダミア 1点
『リテラリ―ゴシック・イン・ジャパン』高原英理編 1点
全体の結果2014年
2013年
『皆勤の徒』酉島伝法 1点
ヨハネスブルグの天使たち』宮内悠介 1点
『夢幻諸島から』クリストファー・プリースト 1点
『言語都市』チャイナ・ミエヴィル 1点
アサイラム・ピース』アンナ・カヴァン 1点
全体の結果2013年
2012年
屍者の帝国』 伊藤計劃×円城塔 1点
『第六ポンプ』 パオロ・バチガルピ 1点
『青い脂』 ウラジミール・ソローキン 1点
全体の結果2012年
2011年
『ミステリウム』エリック・マコーマック 1点
『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』ジュノ・ディアス 1点
『11eleven』津原泰水 1点
『乱視読者のSF講義』若島正 1点
『ダールグレン』サミュエル・R・ディレイニー 1点
全体の結果2011年
2010年
『暗殺のハムレット(ファージングII)』 ジョー・ウォルトン 1点
『跳躍者の時空』 フリッツ・ライバー 1点
『NOVA3』 大森 望 編 1点(※これは瀬名秀明「希望」に対して)
『人生の奇跡』 J・G・バラード 1点
『ぼくらが夢見た未来都市』 五十嵐 太郎/磯 達雄 1点
全体の結果2010年
2009年
『バレエ・メカニック』津原泰水 2点
『あなたのための物語』 長谷敏司 1点
『壊れやすいもの』ニール・ゲイマン 1点
フロム・ヘル』 アラン・ムーアエディ・キャンベル 1点
全体の結果2009年
2008年
『限りなき夏』 クリストファー・プリースト 1点 
『夏の涯ての島』 イアン・R・マクラウド 1点
『蒸気駆動の少年』 ジョン・スラデック 1点
20世紀の幽霊たち』 ジョー・ヒル 1点
『ハーモニー』 伊藤計劃 1点
全体の結果2008年
2007年
『双生児』 クリストファー・プリースト 2点
虐殺器官伊藤 計劃 1点
『輝くもの天より堕ち』 ジェイムズ・ティプトリー・Jr 0.667点
『ゴーレム100』 アルフレッド・ベスター 0.667点
Self-Reference ENGINE』 円城 塔 0.667点
全体の結果2007年
2006年
『デス博士の島 その他の物語』ジーン・ウルフ 2点 
『ラギッド・ガール』飛浩隆 1.5点
『ベータ2のバラッド』若島正編 1点
『グラックの卵』浅倉久志編 0.5点
全体の結果2006年
2005年
ディアスポラグレッグ・イーガン 1点
『宇宙舟歌』R・A・ラファティ 1点
『どんがらがん』アヴラム・デイヴィッドスン 1点
『みんな行ってしまう』マイケル・マーシャル・スミス 0.5点
全体の結果2005年
2004年
『アジアの岸辺』トマス・M・ディッシュ 2.5点 
ケルベロス第五の首』ジーン・ウルフ 1点 
万物理論グレッグ・イーガン 0.5点 
『ふたりジャネット』テリー・ビッスン……0.5点
全体の結果2004年
2003年
『不思議のひと触れ』シオドア・スタージョン 1点
『海を失った男』シオドア・スタージョン 1点
『J・G・バラードの千年王国ユーザーズガイド』J・G・バラード 1点
『しあわせの理由』グレッグ・イーガン 1点
全体の結果2003年
2002年 不参加
全体の結果2002年
2001年
『ブラック・マシン・ミュージック-ディスコ、ハウス、デトロイト・テクノ野田努 1.5点
『コカイン・ナイト』J・G・バラード 1.5点
タクラマカンブルース・スターリング 1点
『ネバーウェア』ニール・ゲイマン 0.5点
『ゲーム・プレイヤー』イアン・M・バンクス 0.5点
全体の結果2001年
2000年 不参加
全体の結果2000年
1999年
『宇宙消失』グレッグ・イーガン 1.8点
順列都市グレッグ・イーガン 1.5点
『キリンヤガ』マイク・レズニック 0.7点
『クリスタルサイレンス』藤崎慎吾 0.5点
『星ぼしの荒野から』ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア 0.5点
全体の結果1999年
1998年
『ループ』鈴木光司 1点
ホーリー・ファイアー』ブルース・スターリング 1点
『スロー・リバー』ニコラ・グリフィス 1点
『ホログラム街の女』F・ポール・ウィルソン 0.5点
全体の結果1998年
1997年
『火星夜想曲イアン・マクドナルド 2点
花粉戦争ジェフ・ヌーン 1点
『グリンプス』ルイス・シャイナー 1点
『消えた少年たち』オースン・スコット・カード 1点
全体の結果1997年
1996年 不参加
全体の結果1996年

2022年2月に読んだ本

諸般の事情でまた低調気味。
まあ仕方ありませんな
◆『HHhH』ローラン・ビネ
 実際にあった、ナチス高官ハイドリヒ襲撃事件を題材にした小説。とはいえ通常の歴史小説とはやや趣が異なり、語り手が事件の取材を進めていく過程と実在の人物の歩みが重なるユニークな手法がとられている。つまり作者が、情報を欠く部分を安易に想像で埋めてよいのだろうか、といった創作論的な問いかけもあるメタフィクショナルな語りである。その分、時に滑らかに流れない事もあるが関連した人々の息づかいを伝えようという思いも感じられる、優れた作品だ。様々な表現の流れが集約するクライマックスは圧巻。また本文で、少し前に発表され同じくナチスをテーマにしたジャナサン・リテル『悲しみの女神たち』に対して厳しい指摘があるが、かえって読みたくなるね。
◆『移動迷宮』編訳 大恵和美
 中国の歴史SFを集めたアンソロジー。『時のきざはし』などで、どちらかというと歴史ものの方が面白かった身にはツボにくる企画の一冊。
孔子、泰山に登る」飛氘(フェイダオ)
 孔子が時空の深淵に遭遇する話。前半の弟子との会話と後半のSFパートのコントラストがちょっと面白い。
「南方に嘉蘇あり」馬伯庸(マーボーヨン)
 以前から一部で話題になっていた、中国偽コーヒー史SF。やはり面白かった。検索しやすいネタのところをちょっとだけ調べてみると、元の漢詩の一部を変えてたりする洒落のところもわかったりするのも、漢字文化圏読者の楽しみといえる。
「陥落の前に」程婧波(チャンジンホー)
 隋の時代の史実が背景にあるが、どちらかというと怪奇幻想風味でその辺りは現代との時間差を考えれば自然な表現といえるかもしれない。
「移動迷宮 The Maze Runner」飛氘(フェイダオ)
 タイトル作ながら実は短い小品。だが迷宮のイメージは壮大で、清と英国の関係が変わりつつある時代の哀感も備える味わい深い作品である。
「広寒生のあるいは短き一生」梁清散(リァンチンサン)
 先駆的な清代のSF作家を資料から追う、という「済南の大凧」(『時のきざはし』)の作者らしい歴史SF。気難しく孤高の人であったために、歴史に残らなかったという設定が心に残る。
「時の祝福」宝樹(バオシュー)
 歴史のやり直しがアイロニーをもって描かれるパートがメインたからタイムループもののバリエーションかな。苦い味わいがいいが、ちょっとわからないところもあって、ベースとなっている魯迅も読まないとなあ。
「一九三八年上海の記憶」韓松(ハンソン)
 本作の舞台は日本占領時の中国だが、時節柄戦時下の人々の姿が胸に迫る。解説では「時代・地域の異なる技術・概念・歴史がまじりあった世界を描く」タイプの作品は、改変歴史SF」(中国では「別史」)と分けて「錯史」とされ、日本でのそうした作品の例として高野史緒の作品が挙げられている。なるほど、これは中国の分類の方が丁寧で正確かも。本作では、大きな歴史・社会の変動における個人についての真摯な問いかけがみられる。
「永夏の夢」夏笳(シアジア)
 長大な時間を生きる<永生者>とタイムリーパーである<旅行者>の切ない交感がリリカルに描かれた作品。SFならでは情感で多くの読者を惹きつけるだろう。アンソロジーのトリにふさわしい。
 上記のように解説も丁寧で大変素晴らしい。編訳者の大恵和美氏は研究者であり、引用・注釈の記載もアカデミックな形式に則ってあり、今後このようなスタイルがスタンダードとなっていくのが望ましいだろう。
◇「長城」小田雅久仁(SFマガジン2015年1・2・4月号)
 3号連載の作品。<長城>によって戦いが行われている世界が背景にあり、選ばれた<戦士>はもう一つの日常で突然覚醒して敵を惨殺しなくてはならない。評価の高い長篇が未読という現況だが、以前読んだ「よぎりの船」でもそうだったように、日常から不気味な"向こう側"へ移行する生々しさの描写力が傑出している作家で、本作でもその特質が遺憾なく発揮されている。
◇ナイトランド・クォータリーvol.22 銀幕の怪異、闇夜の歌聲
 映画特集。
○フィクション
「十字架上のタンホイザー(ある白昼夢)」H・H・エーヴェルス
 ドイツ表現主義は全く疎く、今更ではあるが少しでも知っていきたいと思っている。そのような知識不足の中、イタリアやピエロの要素が入っているのはなかなか面白いことだと思える。
「シネマの幽霊」マージョリー・ローレンス
 映画館ものの小品だが、ちょっと心温まる映画愛の感じられる一編である。
「ムービー・モンスター」サマンサ・リー
 こちらはモンスター愛かな。これまた楽しい一編。
「映画製作者へのささやかなアドバイス」ロバート・ブロック
 映画業界と縁が深い著者らしく、興行優先のストーリー改変をネタにした皮肉の効いた一編。冒頭作品紹介で言及されている、ラヴクラフトとブロックの作品内でのお互いをモデルにしたキャラクターへの惨殺合戦にも笑いが漏れる(オマエら楽しそうが過ぎるぞ(笑)。
「最後のカーテン」エド・ウッド
 史上最低の映画監督、エド・ウッドの作品。訳者(柳下毅一郎)のおかげか、短いからかすんなり読めてしまった。解説にあるように怪奇趣味自体は本人の作家性にあるようで、そのあたりは本人のコアなのかなという感じもうけた。
モノクローム十二夜」クリスマス・クリアータ
 専業主夫の男が家族の外出の空いた性的妄想にふける…といった大枠から意外なほど静かで切ない余韻を残す幻想譚。モノクローム写真というレトロな道具立てが効果的。
「浮浪者つぶしと血の報復」スコット・ハーパー
 浮浪者を虐待し動画を撮るという現代的なおぞましい裏ビジネスが導入だが、後半には死のない世界に彷徨う魂の行く末が描かれる。コントラストが面白かった。
「イエロー・フィルム」ゲイリー・マクマホン
 こちらもインターネット動画が題材。不気味なタトゥーの男に興味を抱いた主人公に起こった事とは。内戦下のサラエボを背景に、チェンバース『黄衣の王』を取り入れた陰鬱な怪奇譚。タイトルはブルー・フィルムの語呂合わせだろうか。
「カユーガ湖の地底に潜むもの」リー・クラーク・ズンぺ
 本号は基本的に映画特集だが、TVの少々いかがわしい未確認生物ものも、怪奇幻想の近しいジャンル。というわけで商売気たっぷりのクルーとクトゥルーものが融合した楽しい一編。
「セレナアド」富ノ澤麟太郎
 映像的なイメージの連載で大正浪漫の空気感が伝わってくる。
夢魔の港町」<ミライ妖カイ幻視行>第三話 井上雅彦
 映画を題材に今回もレトロな怪異と先端的なSFアイディアが激突。お見事。
「UNDINE」徳岡正肇
 売れない映画監督が生来の演技者の女の子と出会い最高傑作を作り始めるが、という話。途中まで隠されていた背景状況が明かされ、終盤の意外な展開にあっといわされた。
○ノンフィクション
柳下毅一郎インタビュー
 多岐に渡る活動について質問があり、その歩みが俯瞰できる貴重なものとなっている。必読。
・血を浴びながら復活する、伝説のホラー専門会社 レジェンド・オブ・ハマー・フィルム 浅尾典彦
 古典ホラー映画の名門ハマー・フィルム(イギリスの会社だったのか、それも不勉強ながら知らず)の歩みを追っている。詳細なリストもついており、初心者にはありがたい資料だ。
・銀幕の向こうの響きー映画音楽を用意した、昔日の音楽感覚 白沢達生
 映画音楽を皮切りにクラシック音楽の歌と演奏の関係(クラシック音楽でも歌い手ぬきのコンサートが発達したのは18世紀以降)など思わぬ話の広がりがあってなるほどとなった。
・雪崩連太郎の幻視行を追え! 岡和田晃
 都筑道夫に伝奇ホラー(オカルト探偵っぽい?)シリーズがあるとのこと。この人は娯楽小説系で書いていないジャンルはないのではないか。ちょっと探してみよう。
・合理性をめぐる通念を揺るがす研究ー『現代世界の呪術』岡和田晃
 近年再考されている「呪術・宗教・科学」の区分に対する揺らぎについて。たしかに現代では<合理的>な思考法が生み出す社会の軋み(としかいえないもの)が多々存在しているように思われ、そうした領域の再解釈が必要になっているのかもしれない。ちにみにこの号は2017年のものだが、本号掲載のインタビューの柳下毅一郎氏が現代の魔術師アラン・ムーアの邦訳に力を注いでいるのは面白いシンクロと思える。
・[アンソロジーに花束を]第五回 年間傑作選のはじまり 安田均
 1920年代の「イギリス短編傑作選』とアメリカの同時代の短編との比較など。たしかに当時のイギリス短編傑作選のメンバーはすごいね。

第2回みんなのつぶやき文学賞に投票しました。あとこれまでのTwitter文学賞~みんなのつぶやき文学賞の投票内容

 ベストブック選びとかをしていると、過去のベスト投票のこととかを振り返ってみたくなる。
 当ブログ主だと森下一仁さんのSFガイドに毎年投票しているが、そういえばTwitter文学賞にも投票をしていた。
 現在は「みんなのつぶやき文学賞」に移行している。

twitter.comtbaward.jp
 前身であるTwitter文学賞は書評家の豊崎由美さんが発起人となって、2010年から2019年まで続いた。
 国内、海外共に1作を選んで投票、もちろん自由参加の企画。
 1作だからハードルが高くないのがいいよね。

ja.wikipedia.org
 今回も投票しました。マイクル・ビショップ『時の他に敵なし』、国内作品は棄権。
 

 たぶん初めから投票をしていたんじゃないかなと思うが、その時のアカウントがフォロワーの方々にスパムメールを送ったりするようなことになったので、すぐ変えてしまったんだよな。なので自分の記録が残念ながら第3回からのしかなく、そこは少々痛いのだが。
 まあとにかく、自ちょっと振り返ってみる(年は刊行年。つまり投票したのはその翌年2月ごろ。2020年作品つまり2021年投票分からは<みんなのつぶやき文学賞>)
2020年(第1回<みんなのつぶやき文学賞>)
投票 海外『ライフ・アフター・ライフ』ケイト・アトキンソン
   国内 投票せず
※受賞作 海外『ザリガニの鳴くところ』ディーリア・オーエンズ
     国内『百年と一日』柴崎 友香
2019年(第10回)
投票 海外『息吹』テッド・チャン
   国内『黄金列車』佐藤亜紀
※受賞作 海外『掃除婦のための手引き書』ルシア・ベルリン
     国内『黄金列車』佐藤亜紀
2018年(第9回)
投票 海外『竜のグリオールに絵を描いた男』ルーシャス・シェパード
   国内『飛ぶ孔雀』山尾悠子
※受賞作 海外『最初の悪い男』ミランダ・ジュライ
     国内『ベルリンは晴れているか』深緑野分
2017年(第8回)
投票 海外『アンチクリストの誕生』レオ・ペルッツ
   国内『スウィングしなけりゃ意味がない』佐藤亜紀
※受賞作 海外『地下鉄道』コルソン・ホワイトヘッド
     国内『チュベローズで待ってる』加藤シゲアキ
2016年(第7回)
投票 海外『ロデリック』ジョン・スラデック
   国内『 吸血鬼』佐藤亜紀
※受賞作 海外『すべての見えない光』アンソニー・ドーア
     国内『吸血鬼』佐藤亜紀
2015年(第6回)
投票 海外『クロックワーク・ロケット』グレッグ・イーガン
   国内 投票せず
※受賞作 海外『紙の動物園』ケン・リュウ
     国内『淵の王』舞城王太郎
2014年(第5回)
投票 海外『ピース』ジーン・ウルフ
   国内『新生』瀬名秀明
※受賞作 海外『愉楽』閻連科
     国内『金を払うから素手で殴らせてくれないか?』 木下古栗
2013年(第4回)
投票 海外『夢幻諸島から』クリストファー・プリースト
   国内『皆勤の徒』酉島伝法
※受賞作 海外『HHhH――プラハ、1942年』ローラン・ビネ
     国内『スタッキング可能』松田青子
2012年(第3回)
投票 海外『青い脂』ウラジミール・ソローキン
   国内『屍者の帝国伊藤計劃×円城塔
※受賞作 海外『青い脂』ウラジーミル・ソローキン
     国内『本にだって雄と雌があります』小田雅久仁
2011年(第2回)
※受賞作 海外『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』ジュノ・ディアス
     国内『11 eleven』津原泰水
2010年(第1回)
※受賞作 海外『いちばんここに似合う人ミランダ・ジュライ
     国内『二人静盛田隆二

まあ読書数が少ないので、どうしても国内作品の棄権率が多くなってしまったな(今回もだが)。『地下鉄道』が受賞作だったのはなかなか意外だったな。ここには出ていないが、不勉強ながら割と最近知ってはまったケイト・アトキンソンが前から上位に入っていたり、自由参加なのに投票者のセンスが良いのが面白いよね。


2022年1月に読んだ本と聴いたトークイベント

 古い雑誌ばかり読んでましたね。
 あとちょうど先ほどオンラインイベントを聞いたのでまずそれから。
・【月刊ALL REVIEWS】牧 眞司 × 豊崎 由美、アドルフォ・ビオイ=カサーレス『英雄たちの夢』(水声社)を読む
 小説の紹介者として大変信頼すべき(しかも息の合った)お二人のイベント、しかもシルビナ・オカンポの翻訳で、個人的に注目度が高くなったビオイ・カサーレスがお題ということで聞いてみた。カサーレスは『豚の戦記』を以前読んだきりで、ぼんやりと面白かった記憶ぐらいしかなかったが、この作品、細部におけるユーモアやミステリ的な要素もありそうで読みたくなった。特に小説における虚構性と(読者に伝達する側面での)身体性について言及されていて、興味深いテーマだなと思った。どちらも未読なんだけど『モレルの発明』に関し、ヴェルヌ『カルパチアの城』が言及されていて、後者はkazuouさんの怪奇幻想読書会の本交換会でいただいており、いよいよ読まなくてはなあ。

例によって雑誌は興味のあるものだけです。
◆『嵐が丘』E・ブロンテ
 ケイト・ブッシュを聴いていると、この作品を読まないといけない気がしていた。随分長いことそんな状態で、実際にかなり昔から手をつけていたのだが(たぶん20年は経った(苦笑)、一度大きなブランクで中断、筋もかなり忘れていたがようやく読み終えた。長くかかった理由は、かなりエキセントリックな人物造型(どの人物も性格がキツい)、あまり流麗とはいえない語り口や展開、それから訳文の古さといった点だ。しかし解説にもあるように本書の名作たる所以は、欠点を補ってあまりあるヒースクリフとキャサリンの愛の激しさにある。後半次世代の話になるが、結局登場人物たちは、二人の情念に呑み込まれてしまったかのようだ。ただすごいことはわかったものの、そんなわけできちんと読み切れてはいない感じなので新訳の方でいつか再チャレンジしなくては。
◆『断絶』リン・マー
 未知の感染症「シェン熱」の蔓延が描かれる、コロナ禍前に書かれた予見的パンデミック小説。ただ通常のSF系小説の様なシミュレーション的側面より、あくまでも視点は個人にあるのが特徴。本来は、終末に向かう社会というSF要素と作者の自伝的なリアリズム小説の要素が、ミスマッチになりそうだが、不思議とすんなり融合し、立体感のある作品世界が繰り広げられている。私的要素が強い現代のSFとして、サム・J.ミラー『黒魚都市』を連想したが、むしろ直截的に私小説部分を取り入れている本作の方が成功しているように感じられた。テーマが破滅ものだと構造がシンプルで私的要素を取り込みやすいということなのかもしれないが。
SFマガジン2000年1月号
 本棚整理をして、「エシア」を再読したくなって読んでみた。
 「エシア」クリスティン・ラッシュ
 Twitterで偏愛短篇SFで挙げたくらいに好きな作品。久々に再読。やはり好きだな。激しい戦争のあった月コロニーから養子を迎えた主人公の話。その養子のアイデンティティに関する決断をめぐる作品で、シンプルで地味目の作品なのだが、シリアスなテーマが情感豊かに描かれている。
「輝く扉」マイクル・スワンウィック
 「エシア」再読のついでに未読だったこれも。突然、未来から扉が開かれ、膨大な数の難民が押し寄せる。難民対応も大きな社会問題となるが、一方その背景となった原因が探られる。ディストピアSFに時間移動を組み合わせたサスペンスで、さすがによくできている。
◇ナイトランド・クォータリーvol.9悪夢と幻影
○フィクション
「アーミナ」エドワード・ルーカス・ホワイト
 『ルクンドオ』を積んでるが、砂漠で幕営生活をする主人公たちか遭遇したものを描く。異文化趣味が恐怖とマッチしている。安田均氏のエッセイStrange Storiesもホワイトについて。
「クローゼットの夢」リサ・タトル
 作者らしい被抑圧者の出口無しの恐怖が見事に描かれる。
「すべての肉体の道」アンジェラ・スラッター
 旅する危険な青年のターゲットは若い娘。短いが切れ味良くまとまっている。
「黄衣の病室」ウィリアム・ミークル
 精神病院を舞台にしたカーナッキもの。死のイメージをまとう黄衣の王がなんとも恐ろしい。が、チェンバース「黄衣の王」未読で入手困難なことも思い出してしまう(あ、BOOKS桜鈴堂版があるか)。
「ヴィーナス」モーリス・ベアリング
 1909年発表で、真面目な男が悪夢の世界に悩まされる話だが、悪夢がサイケデリックともいえるような色彩とトリップ感覚があるところが良い。
「二階の映画館」マンリー・ウェイド・ウェルマン
 モーパッサンの「オルラ」をテーマにした映画ものショートショート。映画ものだが舞台はハリウッドではなく、ニューヨークの場末映画館ものといえるかも。(ちなみに本作は1936年発表のようで、気になってざっと検索したところ20世紀初頭の映画中心地はNYとシカゴ、ハリウッド初の映画スタジオは1911年のようだ)
「ミドル・パーク」マイクル・チスレット
 新しい街に越してきたカップル。素敵な公園を見て回っていたが。日常から非日常にシームレスに移行していく。ロンドンの郊外という舞台設定がなかなか魅力的だが、ロマの話や「虹の彼方に」の歌詞も出てきたり複合的な印象。
ヴェネツィアを訪るなかれ」ロバート・エイクマン
 ヴェネツィアは多くの作家のインスピレーションを刺激し、心に残る作品がつくられてきたが、これもそれに連なる。夢の様な風景とまとわりつく観光産業、歴史ある名所である一方で沈みゆく宿命、など相反するイメージが交錯し、主人公を惑わせる。
「青白い猿」M・P・シール
 歴史ある古い屋敷を舞台にした怪異譚。獣的なイメージが印象的な作品。破滅SFの先駆かつ独特の空気感のある『紫の雲』に比べるとオーソドックスか。
「むまだま暮色」<一休どくろ譚> 朝松健
 時代ものにクリーチャーをからめて、森の盲目という設定が効果を上げる。やはりうまいね。
「夢の行き先」澤村伊智
 小学校のクラスで不気味な老婆が出る悪夢が伝わっていく。怪談ものだが、洗練されたミステリのようなゲーム要素が効果的。面白かった。
○ノンフィクション
・魔の図像学(9) フュースリ 樋口ヒロユキ
 フュースリ≪悪魔≫の映画や小説の大きな影響力についてで、作品背景含め面白かった。
鏡明インタビュー 「剣と魔法」の夢を追って (文章・採録 牧原勝志)
 ジャンル横断的に偉大な人なので、どの話も興味深いが、ロックとSFの話はもっと沢山知りたいなあ。ちなみに本号は2017年5月号、まだRogue Moonは未刊行だね(笑)。
・E・L・ホワイト「セイレーンの歌」と、『オデュッセイア』の「内なる自然」岡和田晃
 ホワイトの生涯、作品「セイレーンの歌」のモチーフであるセイレーンが、オデュッセイアと共にアドルノベックリンの絵画で分析される。作品自体未読だが、「外なる自然」と「内なる自然」の対比といえのが魅力あるテーマで、再読したり関連作品を読みたくなった。
文學界2018年12月号
〇フィクション
「人類存続研究所の謎あるいは動物への生成変化によってホモ・サピエンスははたして幸福になれるか」
松浦寿輝
 詩・小説・評論・翻訳と幅広い文学活動を行い多くの文学賞を受賞をしているが、本編もやや現代社会における人間性の揺らぎが特異な言語感覚によりユーモラスに描かれていて大変面白かった。
「戦場のレビヤタン」砂川文次
 日本の日常に馴染めず、傭兵としてイラクに赴いた男が描かれる。派手さはないが、戦地に敢えて向かう人物の心理がよく描かれているように思う。著者は元自衛官らしい。(読んだのは随分前なんだが、その後第166回芥川賞を受賞、受賞作も読みたくなるね)
「何ごとが照らすかを知らず」玉置伸在
 2018年下半期同人雑誌優秀作。こうした同人誌も商業誌に掲載される機会があるのは良いシステムだとは思う。が、日常的な人々の姿や交流が正攻法で描かれるオールドスクールの純文学はあまりにも引っかかりが少な過ぎて楽しむことができない。
〇ノンフィクション
「FOR YOUR EYES ONLY ― 映像作家としてのロブ=グリエ佐々木敦 
 ロブ=グリエの映像と著作の両面から開設した大変興味深い内容。
「革命に至る極貧生活」第二回 森元斎
 政治運動がらみの話だが、放射性物質を極度に恐れる人物がいろいろ周囲に軋轢を生む様子がそのまま描かれていてなかなか厄介な問題であることが伝わってくる。
「首の行方、あるいは……」 金井美恵子
 三島由紀夫の生首写真が報道されたかどうかについてのえエッセイ。さすがに視点と文章の切れ味が見事。
◇文藝2019年夏季号
〇フィクション
「神前酔狂宴」古谷田奈月
 神道の結婚式場を舞台に、時代の移ろいが描かれる、基本的には青春小説家かな。神道とかの世界には馴染みがなく、正直ピンと来ないところもあったが、結婚式場の舞台裏は知らない世界だったし、小説としての完成度は高いので、面白く読むことができた。
「君の代と国々の歌」温又柔
 多様な出自の人が交錯し、複雑な過去がありながらも、それを消化していながら生きていく。責任、謝罪といった問題を越えて、人が生きていくとはどういうことかに思い及び、切ない気持ちになる。
「黄金期」岡田利規
 横浜駅を舞台に奇妙な行動をとる人物が細かく表現される、やや実験的な作品。ちなみにこの作品から横浜駅も少し変わっていて一部わかりにくくなってる懸念がある。
「鎭子」飛浩隆
 雑誌刊行時にこれだけは読んでいて、今回再読。飛作品の世界を、自らの空想に持つ女性をめぐる出来事が描かれる一般文学作品。とはいえ残酷でエロティックで人間のデリケートな心理を突き刺す”痛さ”は変わらず。いきなりの結末を迎えるが、続編はどうなっているのか。
「ラストソング」福永信
 語り手の引退発表を前にした心情が描かれ、周囲の人々への気遣いなど、比較的すんなり流れる。が、この人の仕事がよく分からないという仕掛けに驚かされる。なるほど、と膝を打ちたいのだが十分には解釈できず、打つ膝が急にどこかへいってしまった感じだった(いやそれでも面白いですこれ)。
「アイドル」仙田学
 リストラされかかった困窮状態の男が、そのことを妻に打ち明けられずにいる中、会社への反撃を準備しつつ、一方で地下アイドルにのめりこんでいるという話。現代の世相を丁寧に切り取り、また非日常的なことも起こっていく。スリップストリーム的作品。
「酷暑不刊行会」木下古栗
 基本的に連載はなかなか読めないのだが、評価の高い作家だとは知っていたし第一回だし、タイトルに惹かれて読んでみた。暑さに弱い社長の零細出版社が、長期天気予報の結果から夏季の長期休業を決めてしまった。社員は困り、副業を探すという話。偶然コロナ禍の社会状況とシンクロしている。至って普通な展開が、最後でいきなりかなり下らない下ネタが押し寄せる流れに笑った。
「ダイアナとバーバラ」小川洋子
 ダイアナ妃のドレスがテーマになっているが、悲劇的な生涯より美しく昇華されたイメージが心に残る一編。
「産毛にとって」藤田貴大
 複数の語り手の独白が地の文で記載される形式でうまく把握できなかった。失礼。
「時差もなく」佐々木譲
 著名なミステリ作家だが、この普通小説が初読だと思う。とあるメーカーの宣伝課で無能な上司に振り回される社員たちの姿が回想によって語られる。バブル期を象徴するようなダメ上司は少々類型的に過ぎる気もするが、流石に滑らかな語り口で読ませる。
○ノンフィクション
・「なぜ今、天皇を書くのか」戦後の終わりと天皇文学の現在地 池澤夏樹✖️高橋源一郎
 ベテラン作家による天皇制と文学をめぐる対談。天皇制の文化的な側面、人間的な側面に光が当てられ、なかなか面白かった。
・「平成という病」東浩紀
 自らのキャリアの振り返りを混えながらの平成回顧。嫌世的なトーンが強いが、この視点すらも置き去りになるコロナ禍にあらためて驚かされる。
◇群像2019年4月号
○フィクション・短歌
穂村弘 現代短歌ノート
 元号がテーマで「昭和」を使った短歌載っていて、時を刻むようであったり、時代の落差をユーモラスににじませたり、様々な使われ方の違いが面白かった。
・「藍色」藤代泉
 暮らしてきた土地の川と土手を場の記憶として、過去と現在が交錯していく形式で、オーソドックスなタイプの小説。カワセミの背中の鮮やかな色の表現があるが、これは実際に体験したことがあって、記憶に残っている。
・「父たちの冒険 The Adventures of Fathers」
小林エリカ
 どうやら医者家系である著者の自伝的年代記。短い分、コンパクトに時代の移ろいを切り取っている。漫画家でもあるらしい。またご両親はシャーロキアンでもあるようだ。
・「セイナイト」李琴峰
 クリスマス・イブの女性カップルが描かれる。漢字の、言語による使用法の落差が生む世界認知への不安が恋愛対象への小さく揺らぐ心理と重ね合わされている。
○ノンフィクション
・「近未来」としての平成 橋本治
 絶筆論考と記されていて未完。橋本治については若い頃よく読んでいて、とりわけ美術に対するとらえ方は『ひらがな日本美術史』がいまだに脳のフォーマットにあったりする。ただ、本人は昭和という時代が気に入らなかったようだが、同時代の状況を分析するような論考については、昭和後半から平成初期の人だなあという気がする。本稿でも、それなりに納得させる箇所は見られるが、「おたく」「IT」といった対象については距離を測りかねてると書いてあるだけの印象で、時代とのズレがみられる。また、情報が多量に存在する時代に、橋本の「あくまても自らの体験をベースに徒手でいちから思考をする」という手法自体が(どんなに固有の視点を持ち得る人であっても)成立しなくなっていることを示しているのかもしれない。
・無数のざわめきともに騒げ!ーいとうせいこう
矢野利裕
 80年代生まれの批評家による評論。非常に熱い思いが伝わる。その守備範囲の広さゆえのとらえづらさのためか、いまひとつ興味がわかないいとうせいこうだが、小説は一度読んでみるかな。
・絵画・推理・歴史ーシャーロック・ホームズの「歴史戦」石橋正孝
 コナン・ドイル歴史小説家の側面から、ホームズの記述を分析、近代以降の作者/作品/読者の関係性にまで言及する論説。当ブログ主のような一般読者なは難度のかなり高い内容、かつそもそもホームズを少ししか読んでいないため、わからないところばかりだが、ユニークな視点と思われ、詳しい人達の感想を聞きたい。
・その日まで 第八回 瀬戸内寂聴
 身内の歩みなどが綴られている。以前徳島に用事で行き市内観光をした時に、著者の写真が飾られていた仏具屋を見かけた記憶があるが、あれがたぶんご実家なんだろうなと関係ないことを思い出した。
・ブロークン・ブリテンに聞け 14.Who Dunnit? マルクスの墓を壊したやつは誰だ ブレイディみかこ
 評価の高い著者の本はまだ未読で、雑誌等で読んだくくらいだが、時々の問題をアイロニーを交えて活写する文体切れがありさすが。カール・マルクスはイギリスで活動していたからロンドンに墓があるのか。
中条省平の連載でアンドレ・ジッドの批評的ユーモア精神の分析が興味深かった。