異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。

2021年4月に読んだ本、と近況報告

 現在体調を崩し、連休中ということもあり自宅療養中です。
 まあ以前にもかかった病気で、いわゆる重篤なものではないのですが、経過がいまひとつ芳しくないので、ちょっと生活を見直すことになりそうです。
 とりあえず備忘録的に4月の記録だけ書きます。
『三体Ⅱ 黒暗森林』劉慈欣
 基本的に無茶苦茶な話なのだが、その外連味が本質というか面白さで、計算もされていることもわかる。様々な角度からの情報で成り立っていて、大作を成立させる手腕にもまた驚く。全体に欧米的ではない中国的(と感じる)歴史観が背景に見えるのも面白い。
『R62号の発明・鉛の卵』安部公房
 バラエティに富んだ短編集で、奇想・SF的な要素が強く面白かった。非日常的な世界がストレートに登場人物へと影響を及ぼす点で、個人的に長編よりずっと親しみやすく、また貧困など現在の社会問題とリンクする作品もある。短編の評価が高いというのもうなづける。
『短編画廊』
 ホッパーの作品から17人の作家たちが短編を書くというユニークかつホッパーファン(で小説好きにはとりわけ)嬉しいアンソロジー。刊行当初(2019年6月)に購入し読み始めていたのだが、途中までで放置していて、最近読了した。
「ガーリー・ショウ」ミーガン・アボット
 ヌードの女性が舞台に立つ作品から、夫婦のすれ違いが思わぬ顛末を迎える作品になるとはなかなか意外でいいね。
「キャロラインの話」ジル・D・ブロック
 長く会っていない母親のところに別人を装って訪れる娘。手堅い感じだがこれもよい作品。
「宵の蒼」ロバート・オレン・バトラー
 ピエロを描いたSoir Bleuからの作品だがやはり不気味な悪夢の世界を形成している。ホッパーには静かな中にどことなく恐ろしさが潜んでいるような作品もあるよね。
「その出来事の真実」リー・チャイルド
 ちょっとしたミステリーっぽい作品だけど、これは絵の方だけで想像している方が楽しい気がする。
「海辺の部屋」ニコラス・クリストファー
 今自宅にこの絵(Rooms by the Sea)のポスターを飾っているんだけど(忘れいていたけど)選んだのはこの作品を読んだ後なので影響を受けたのかもしれないな。幻想的な作品でちょっと意表をつかれる。おすすめ。
「夜鷹ナイトホークス」マイクル・コナリー
 ボッシュシリーズ。良いが絵があまりに有名で、ややハマり過ぎの印象もある。
「11月10日に発生した事件につきまして」ジェフリー・ディーヴァー
 冷戦時代を舞台にした本格もので、さすがの完全度。
「アダムズ牧師とクジラ」クレイグ・ファーガソン
 マリファナものは正直文化の違いを意識せざるを得ず、あまり共感できないのだが、長年不信心であることを隠していた牧師という設定がユーモアにつながっていてなかなか良い。
「音楽室」スティーブン・キング
 ブラックジョークものなのかな。ちょっとピンとこない。
「映写技師ヒーロー」ジョー・R・ランズデール
 そんなに読んでいないけど、ランズデールは映画好きがうかがえるところがあるので、らしい作品といえそう。
「牧師のコレクション」ゲイル・レヴィン
 ホッパー自身を扱った、このアンソロジーとしては例外にあたる作品。ただ実在の人物について存命の作者が自分以外の視点から書いている(しかも小さなトラブルがあった側の人物)のが不思議。真相が気になる。
「夜のオフィスで」ウォーレン・ムーア
 絵のイメージにしっくり、しかし一捻りあるという地味ながら企画にぴったりの作品。
「午前11時に会いましょう」ジョイス・キャロル・オーツ
 これも絵のイメージに合っているが、緊迫感のあるラストが印象的。
「1931年、静かなる光景」クリス・ネルスコット
 人種差別に意を唱えるにはどうすればいいのかという苦い作品。絵の解釈がずしりと応える。
「窓越しの劇場」ジョナサン・サントロファー
 窓越しに見える女性の部屋を窃視する男。ウェルメイドなミステリ。作者はアートの世界でも評価されているようだ。
「朝日に立つ女」ジャスティン・スコット
 スケッチ的な小品だが、絵との取り合わせは軽く意外性があり、悪くない。
「オートマットの秋」ローレンス・ブロック
 これも絵からは予想もしなかった鮮やかなミステリ。
ホッパーの絵自体が登場する人物に対しての想像を喚起する画風なのだが、意外な解釈のものが並び、作品も粒ぞろいでナイス企画といいたい。この企画続くらしいので期待したい。

 時々積ん読になってしまっているナイトランド・クォータリーを消化。
『ナイトランド・クォータリーVol.11 憑依の館』<幽霊屋敷>もの特集。
◎フィクション
「海辺の家にて」スティーヴ・ラスニック・テム
 海(辺)と家、の合わせ題目みたい小説。ラスト数行でまとめるテクニックがお見事。
「彼女が遺したもの」ピート・ローリック
 妻の遺品を整理していく男。淡々とした前半からの急展開とオチのコントラストが巧み。
「世界の上で」ラムジー・キャンベル
 クトゥルーもので知られる作家で、個人的には初読。妻を奪われた男のやるせない心理が怪異とリンクしているストレートなホラーでなかなか良い。
「煙のお化け」フリッツ・ライバー
 元超能力者、というのは山岸凉子、また都市部の神経症的な心理が背景にある怪奇、ということで、通勤電車の場面とかどことなく諸星大二郎の「不安の立像」と、なぜか日本のホラー漫画を連想したり。
「笛吹くなかれ」マイクル・チスレット
 M・R・ジェイムズ「笛吹かば現れん」のオマージュということで先行作を読んでいないので、ちょっとわからないところもあるが、主人公のパートナーのルーツをめぐる周囲の偏見や、主人公がワークアウトしてるあたりに現代っぽさが感じられる。
「アンカーダイン家の礼拝堂」ウィリアム・F・ハーヴェイ
 「炎天」のハーヴェイの作品。不気味な礼拝堂のつくりが恐怖に結びついている。
「怖いもの作ろう」パトリック・タンブルティ
 ヒステリックな教師の「怖いもの」を作る課題がうまくいかない子供の怯えがオチに鮮やかに収斂する作品。
「ある幽霊屋敷に関する手記」J・シェリダン・レ・ファニュ
 意外な結末に多少あっけにとられた(笑)。
「誰のものでもない家」A・M・バレイジ
 二十年あまり空き家になっていた邸宅を訪れる男。因縁が招く運命を描いた王道の怪奇譚。
「人食い小路」<一休どくろ譚> 朝松健
 人が消えてしまう小路の話。終盤の映像的な反転のところとか上手いよなあ。さすが。
「邪義の壁」柴田勝家
 白塗りの壁が持つ、旧家の謎。作者の作品は少し短編を読んでいる程度だが、非常によく練られたアイディアで感心する。本格的に読まないとなあ。
◎ノンフィクション
・魔の図像学(11)廃墟画家たち 樋口ヒロユキ
 幽霊屋敷と廃墟という関連は考えたことがなかった。廃墟を扱った創作物というのもこれからはそういう視点でも見てみようかな。
野村芳夫インタビュー SFアドベンチャーのレビュアーで名を知り、翻訳もされていることも認識してはいたが、経歴は知らなかった。荒俣宏氏の同級生で早川書房にいて、半村良事務所にいたのか。
・藤原ヨウコウ・ブンガク幻視録③田中貢太郎「黄燈」 実話怪談へとつながるルーツの作家NLQはいろいろと参考になる。
キム・ニューマンドラキュラ紀元』と新歴史主義 岡和田晃
 改変歴史ものである『ドラキュラ紀元』未読なのだが、「歴史を、安定した背景として文学テクストと対置しない」「歴史に埋もれた死者と対話するための方法」が模索されている、という新歴史主義の文脈で読んでいくというのが大変面白い。
・STRANGE STORIESー奇妙な味の古典を求めて(8)さあ、ブラウンになりなさい 安田均
 この連載も見逃せない話題満載なのだが、今回はブラウンの未訳ミステリ短編について。どちらかというとミステリ短編の方をまとめて読んでみたい気がしていて、こうしたものが出たら読みたいなあ。それにしてもまだ未訳の話が出るとはすごい創作量だな。