異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん

2017年7月に読んだ本

『黒檀』カプシチンスキ
 長期間に渡りまた非常に広範囲に及ぶアフリカのルポルタージュ集。危険をおかすことも厭わず外からの視点を超え現地に踏み込み記録し得ぬものを記録しようとする情熱と筆力がすごい。残した作品が世界各地にも広がっていたことにも驚かされた。他の著作も気になるが果たして時間があるか・・・。

『所有せざる人々』アーシュラ・K・ル・グィン
 これまたようやく初読。文明化され過剰な欲望を有する(そして女性差別的な、我々が現在住んでいる世の中が象徴された)世界と文明的には遅れているが平等だが抑制的なところも強い世界とが対照化され描かれる。ル・グィンの堅実で精緻な筆にはいわゆる高揚感をあおるようなダイナミックなSFアイディアの面白さを期待する読者には静か過ぎるようにも思えるかもしれないが、描かれる世界は発表されてから時間を経てなお立体的で現在に通じる身近な問題として感じられる。特に科学者の両義性を描いた部分が今日的で重要な視点だろう。

中村とうよう 音楽評論家の時代』田中勝則
 中村とうようの持ち味が特徴だった80年のミュージックマガジンを愛読していた身には、詳細かつネガティヴな側面も触れらている丁寧な評伝で興味深かった。中村とうようはその批評した音楽の幅や世界の音楽をそれまでの印象批評や民族音楽の学術研究とも異なる新たな視点でとらえた功績の半面で極端な物言いでトラブルも絶えなかった毀誉褒貶の激しい人物として知られていたが、間違いなく戦後のポピュラー音楽の聴き手(時にプロデューサーとして送り手でもあったが)文化を代表する人物でそれを「音楽評論家の時代」としてとらえたのが本書の肝であろう。丹念な取材に基づき、相当昔の時代に中村とうようへ影響を及ぼした先駆者たちにもスポットライトを当て、狭いジャンルの王様として君臨するのを拒否した中村とうようのキャリアを尊重ししっかりとネガティヴな面も描き出しているところに著者の自負が感じ取れる。ポピュラー音楽というある一つの世界に全てをかけた人物の生涯の記録として読むこともできる。面白かった。

タイタンの妖女カート・ヴォネガット・ジュニア
 全米一の大富豪マラカイ・コンスタントが時空を操るウィンストン・ナイルズ・ラムファードにより宇宙スケールで数奇な旅をする話。ユーモアに包まれているが基本的には戦争など苦痛に満ちた運命と個人の内面をめぐって、人間はいかに生きるかがテーマで全体にヘヴィな内容だ。ワイルドスクリーンバロックのバカバカしさは痛快さは良い悪いは別として微塵も感じられない。オールディスはいったい何をいいたかったのだろう(笑)。個人的にはラムファード夫妻とコンスタントの不思議な関係が気になる。

『ヒドゥン・オーサーズ』(惑星と口笛ブックス)
 西崎憲さんによる電気書籍のアンソロジー。型にとらわれないユニークな作家が並んで普段読めないような小説ばかりで刺激的だった。斎藤見咲子、ノリ・ケンゾウ、若草のみち、伴名練、杉山モナミ、深沢レナ、(相変わらずの言語感覚の)深堀骨が印象に残った。巻末の個性的なプロフィールも読みどころだ。

マルコ・ポーロの見えない都市』イタロ・カルヴィーノ
 これまた世評高い本だが初読。短い章が沢山並び、基本的にはある都市についてマルコ・ポーロが語るパートとフピライ汗がやり取りをするパートの2つで構成されている。前者は「都市と〜」という見出しがついていて同じ見出しの情報は前から番号がつけららている。ランダムについているかと思いきや番号の方に一定の法則性があり幾何学的な構成になっている。同じ見出しのを取り出して順番に読むとまた印象が変わるのかもしれない。SF・幻想文学好きとしては「都市と死者」が特に面白かった。

『異世界の書』ウンベルト・エーコ
 一種の図鑑といえるような本でちびちびと一年間くらいかけて読了。各種テーマ別の異世界を章毎に美しい図録とさすがの豊富な知識で紹介した、著者のまさしく博覧強記が存分に発揮された一冊。人間の想像力の豊かさよりも奇妙さの方が印象に残る。なかなかのお値打ち本だがこれが書棚にあると気分が上がるのよね(笑)。

ラヴクラフト全集 3』
ラヴクラフト全集 4』H・P・ラヴクラフト
 サイト<奇妙な世界の片隅で>のkazuouさん主催の読書会のテーマがラヴクラフトということでその準備として、休みもあったので3、4と続けて読んでみた。読んでみて、いわゆる科学に対する意識が割と強い作家だなあという印象が強まった。ある登場人物がなんらかの謎に疑問を持ち、恐ろしい秘密が明らかになる。定型的、ワンパターンといわれがちなラヴクラフトだが、薬物、忌まわしい因縁の館、都市の遺跡、解読不能の書物、自らが自らでは無くなる不安、新しいテクノロジーなど様々な題材を使っていることに気づく。
 「家のなかの絵」(3)「故アーサー・ジャーミンとその家系に関する事実」(4)では海外の事物、「潜み棲む恐怖」(3)や「眠りの壁の彼方」(4)では見捨てられた貧しい者たちといった題材には作者の生活圏外の未知なるものへの恐れが読み取れる(差別者であることをこちらが意識してしまうからかもしれないいが)。SFファンにも人気があるのは新しいテクノロジーへの興味があるところで(それこそ『フランケンシュタイン』からの伝統だろう)、「時間からの影」(3)「宇宙からの色」(4)「故アーサー・ジャーミンとその家系に関する事実」(4)「冷気」(4)「狂気の山脈にて」(4)などにそのセンスが出ている。特によかったのは3では人間ではないものに変化する側の視点で描かれた「アウトサイダー」、時空間に関する科学的視点からスケールの大きな凶々しい宇宙史が展開される作者らしい傑作「時間からの影」、4では疑似科学的な歪んだ理論が印象的な『宇宙の色」、読書会でも人気だったどことなくユーモラスな「冷気」(この時代にもう冷房があった驚き!)、話運びがスムースではないため少々読みにくいが南極+怪物+これまた異様な疑似科学描写+壮大で暗黒な宇宙史とぶっ飛びぶりが凄い「狂気の山脈にて」あたり。まだ十分に読めていない作家なので雑感だが、(必ずしもアカデミックではないが)好奇心旺盛でいろんな知識を持っていた人物だがそれが虚構とはいえどれも恐怖に結びついていくという感性のひずみ具合にどことなくフィリップ・K・ディックと共通するものが感じられる。また現代科学の黎明期に登場したフィクションということでコナン・ドイルによるミステリ、H・G・ウェルズによるSFと同根なのではないかと思わせるところもあり、この辺の時代はやはり興味深い。一方読書会では怪奇幻想文学の系譜としてのラヴクラフトについての言及があり、ダンセイニ・マッケン・ブラックウッド・ホジスンといった作家ももっと読まなくてはと思った。
 それからふと「SFの本」にラヴクラフトの記事が載っていたなあと思い出し調べてみたら6号で倉阪鬼一郎氏の「原形質への招待 H・P・ラヴクラフトとは誰か」というキャリアや代表作をコンパクトにまとめSFの影響についても言及された評論で非常に面白かった(ちゃんと読むのが随分遅れたがw)。