昔買って積んでいた文芸誌を結構拾い読みした。
『新潮』2015年9月号
川上未映子「苺ジャムから苺をひけば」
腹違いの姉がいることを知った少女。技巧的には文句なしだが、手堅過ぎるのと子どもたちが妙に大人びているのが気になりいまいち。
金井美恵子「孤独の讃歌」あるいは、カストロの尻
そこへいくと金粉ショーの男性ダンサーを扱ったこちらは一見昭和的な題材を扱っていても切り口が新しくさすがである。面白かった。
『新潮』2015年11月号
新潮新人賞 「恐竜たちは夏に祈る」高橋有機子
義父の介護に追われる衿子のもとに義父の孫緋鞠が訪れる。夏休みの間ということで、緋鞠視点では青春小説となるがなんとなくズケズケものを言う若者というパターンそのものが苦手なのかまあ普通ぐらいの印象。
「主催者」絲山秋子
コンビニ博に行く導入からまさかの展開になるショートショート。実は初読なんだが、他も読まないとな。
第二十三回萩原朔太郎賞「雁の世」川田絢音
長く海外に住みながら日本語の詩作を続ける詩人。背景を知ることによってその重みの一端に触れる。こういう創作人生もあるのだなあ。選評で川口晴美『Tiger is here.』という詩集がアニメTiger&Bunnyを基にしていると知る。詩の世界にもそういうのがあるんだと驚かせれる。世の中には知らないことが多い。吉増剛造の文体も面白い。
アンドレイ・クルコフ×亀山郁夫のウクライナについての対談も(少し前だが)ウクライナの複雑な状況が伝わるものだった。
斎藤環の青山七恵「繭」評は以前livewireで見た宮内悠介との対談に出てきた「オープンダイアローグ」のことが扱われている。
『新潮』2015年12月号
「異郷の友人」上田岳弘
他人の記憶が入り込んでしまうという設定は面白い。が、実際のお笑いネタが入るのはどうも苦手なんだよな。特にこっちが知ってるとその部分が浮いているように感じてしまって。うまくはまると効果があるのかもしれないけど、ちょっと前の掲載だというズレもあるかなあ。
「岩場の上から」黒川創
近未来を舞台にした核燃料処理施設の話でこの時は新連載の冒頭部分のみ。もう既に刊行されているみたい。
「人違い」古井由吉
実は初めて読むがさすがに巧い。
「店」福永信
書くと死んでしまう病に侵された人物の独白。後半ちょっとのれない気がしたけどこちらの理解が追いついていないかもな。
「God Bless Baseball」岡田利規
日本・韓国の野球話を題材にした戯曲。たしかにWBCなどで日韓台の野球史の違いは野球ファンとして興味を覚えるようになったな。
「文字の声」華雪
王義之の書を題材にした書家によるエッセイ。なかなか良かった。
『海底二万里』ジュール・ヴェルヌ
新潮文庫版を電子書籍で。初読。意外にもバッドエンド風味でびっくり。能天気な中盤はなんだった(笑) ストーリーテリングは時代の違いを考えると凡庸と評価するのは酷だが、傑出しているとはとてもいえず科学描写に興味が持てないと多少退屈だろう。それにしても生物関係の名前の羅列は執拗で科学性にこだわったヴェルヌの立ち位置がよく現れている。その科学性へのこだわりは飛躍した想像力を優先させたウェルズに後代への影響力という意味でかえって劣る結果になった印象はぬぐえないものの、その分当時の科学知識や思考過程の貴重な記録となっている。フィクションだからこその大胆で自由な発想の記述が残っているわけで、学術論文や記事から抜け落ちるものが入っているのではないだろうか。現在詳細な科学解説つきのヴェルヌコレクションが刊行されているのも時代が回ってその功績が見直されているためだろう。
『人間の条件』ハンナ・アーレント
読了するのに随分かかってしまった(苦笑)。こういった政治哲学本を読みつけていないので、結局あまり理解できなかったのだが、労働についての根源的な問いかけはかなり重いものなのではないかという印象を持った。
『SFマガジン』2012年2月号 日本作家特集
「ヨハネスブルグの天使たち」宮内悠介
既読
「小さな僕の革命」十文字青
ネットものは時間が経つとキビシイ感じだな・・・。まあラノベテイストが好みではないせいもあるのだが(ばらしてしまった(笑)。
「不思議の日のルーシー」片理誠
手堅い青春SFといったところ。
「真夜中のバベル」倉数茂
これも青春SFといえるが言語アイディアがちょっと面白かった。日本SFの大きな流れの一つでもあるよね。例えば川又千秋、牧野誠、伊藤計劃。
「ウェイプスフィールド」瀬尾つかさ
研究者と少女のコンビが巨大海藻の謎を追うハードSF(後編まで読んだ)。これはオーソドックスだけど今回読んだ4編の中では一番楽しめた。他の作品も読んでみようかな。
『怪奇小説傑作集2』