異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

2016年 10月読了本

日本沈没小松左京 恥ずかしながら初読。意外と破滅物が苦手なので・・・(バラードの破滅物は別)。海底探査ものの要素が強いのかなあ。メカの描写が緻密で、よくこういうものがベストセラーになったなあという気もする。地質学的というか地形を俯瞰的にとらえた流れるような描写も実に巧みで、いまだに追随をゆるさないものがあるなあとうならされた。一方で女性の登場人物は当時のステレオタイプの域を出ず、全く魅力がない。そこが大きく古びた部分である。

『消しゴム』ロブ=グリエ ロブ=グリエ初挑戦『快楽の館』はピンとこなかったが、本書は面白かった。死体が見つからない殺人事件、というアンチ・ミステリ的な設定が可笑しいし最終的に理知的に謎が収束するところにもニヤリとさせられる。もっといろいろ読んでみようかな。

『短篇小説日和』西崎憲選 『英国短篇小説の愉しみ』3巻分を編集したもの。ジャンルレスの傑作ぞろいだが、選者らしくどれも幻想風味があるのが特徴。1では切れ味の良い文体スパーク「後に残してきた少女」、なんともいえないオチのハーヴィー「羊歯」、不思議な神話的世界が描かれるカーシュ「豚の島の女王」、2では美しいファンタジーのリー「聖エウダイモンとオレンジの樹」、短い中に起伏に富んだユーモアファンタジーが展開されるアンスティー「小さな吹雪の国の冒険」、執拗な男による怖ろしい心理劇ハートリー「コティヨン」、3では民話風の語り口がよいディケンズ「殺人大将」、夫婦の断絶が見事に切り取られているエイクマン「花よりもはかなく」巻末の短篇小説論考も大変素晴らしく、今後の読書の手がかりをあたえてくれる。個人的にはマン島出身のナイジェル・ニール、カリブ海と縁の深いM・P・シールやジーン・リースといった作家も気になった。

怪奇小説傑作集3』 定番にちょう遅ればせながら手をつけることにしました(笑)。当たり前だけど傑作ぞろいだった。マッド・サイエンティストものの傑作ホーソーン「ラパチーニの娘」、名高いディケンズ「信号手」、大英帝国時代の空気が感じられる「イムレイの帰還」、怪奇というより美しいファンタジーのコッパード「アダムとイヴ」などが楽しめたが、なんといっても(月並みながら)ラヴクラフトダンウィッチの怪」。正体不明の怪物たちにより世界が変わってしまうという恐怖には独特のものがあってこれは一つのジャンルなんだなあと今更ながら気づかされた(いや遅いね我ながらね)。

『この世の王国』カルペンティエール 『魔術的リアリズム』(寺尾隆吉)でも指摘されていたように、非西洋的な視点を有するというには不徹底でそのせいかドライヴ感を欠いて高揚感に乏しい。非日常的な世界も断片的に登場するのみでやや平板で惜しい感じである。