異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

2016年7~9月読了本

諸般の事情でなかなか長い読書感想が書けない。ただ備忘録の役割も果たせなくなってきているので、しばらくはメモ書き程度でブログ記事以降の読了本の整理。

『カント・アンジェリコ高野史緒 サイバー・バロックの煽り文句も踊る、カストラートとハッキングの融合した著者らしい大胆不敵な大風呂敷が楽しい。

『ハイ・ライズ』J・G・バラード 映画公開に合わせ復刊。未読だった。裕福な人々によるゲーテッド・コミュニティで人間が変容していくという80年代後半以降の『殺す』『コカイン・ナイト』『スーパー・カンヌ』などに直結する作品で、非常に重要な位置づけの作品だと感じた。渡邊利道氏による的確な時代感覚によるパースペクティヴな社会論・文学論をベースにした作品解説も大変ありがたい。映画も抑制的な美術センスが光っていた。

『テレビの黄金時代』小林信彦 テレビが熱狂的な人気を誇っていた時期の偉人とされている永六輔大橋巨泉が亡くなったが、世代的に70年代後半くらいからのテレビしかしらないので、いったいどういう人達だったのか今一つわからなかった。芸能に関するノンフィクションでもクールな筆さばきを見せていた小林信彦がその時代について書いている本書のことを知り購入し読んでみた。60年代あたりの有名タレントや番組とその裏側を一歩引いた視点で時系列を注意深く確かめながら記述している点がよく、アメリカの映画やTV番組を下敷きに何をやろうとしたのかなど興味深かった。もちろん著者流の切り口ではあって、人の好き嫌いははっきりしているし、またテレビに漫才ブームが根深い悪影響を及ぼしたと考えているようでもある。終盤には少しだが80年代以降のバラエティへの言及もあり、SMAP×SMAPも載っていたしりして、今再刊するとちょうど良いのではないだろうか。

『死の鳥』ハーラン・エリスン "Deathbird Stories"の全訳(あるいは抄訳)ではなくベスト短篇集であった(正直失望した。長年の洋書初心者にも関わらず"Deathbird Stories"を果敢にも全部目を通したことがあり歯が立たなかったので翻訳で読みたいと常々思っていたからである)。エリスンについては激しいパッションが特徴で、現代の作家ではバチガルピと相通ずるものがある気がする。個人的には波長の合う作品と合わないものがあるのも事実で、文体のカッコいい「竜討つものにまぼろしを」、冴えない男の思いがストレートに描かれる「プリティ・マギー・マネーアイズ」、アーブーに涙「死の鳥」、ニューヨークの孤独が背景に感じられる暴力的な「鞭うたれる犬たちのうめき」、少々ラファティを連想させる「ジェフティは五つ」といった辺りが印象に残ったが、ところどころついていけない部分もあった。ただ文章の切れ味は圧倒的で、鏡明氏がlivewireのイベントで「古びていなくて安心した」とおっしゃっていたようにいまなお読者の心を揺さぶる力を持っている。

七色いんこ手塚治虫 コンビニ本。こういう演劇ネタの話だったのか。

『青い鳥』メーテルリンク 火や水や光が主要キャラクターだったりする抽象度の高い内容で途中にはスペイシーな展開もあるなどかなり想像していたのと違っていてかなり驚かされた。なんでも読んでみるもんだなあ。
(偶然鳥の本が続いたぞ(笑)

トーマの心臓萩尾望都 これも恥ずかしながら初読。おっさんが読むとなかなか眩しすぎるものがあるなあ(笑)。でも面白かった。こういう男子寮ものってどれくらいの系譜まで遡れるのかなあ。

『エターナル・フレイム』グレッグ・イーガン 物理の数式のところはさっぱりな読者だが、架空の科学史として非常に面白い。また過酷な運命を背負う種族たちの苦闘ぶりとそれにも関わらず社会が協力しきれないところあたり人類の諸問題を連想させる。続きもまた楽しみだ。

『パパラギ』 本を整理してる途中で見つけたので読んでみた。西サモア酋長の演説という設定で白人が書いた一種の偽本だった。今は許されないだろうねえ。1920年に何らかの義憤に駆られて西洋文明批判本を書いた著者の気持ちは時代も随分昔だし理解をしてもよいが、それから60年近くたっての1977年に(内容を知りつつ)再刊した人々の意図には不純なものを感じざるを得ない。推薦文を書いた遠藤周作谷川俊太郎浅井慎平らも罪を免れるとは思えない。