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異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん

『ファンクはつらいよ バーバーショップからマザーシップまで旅した男の回顧録』        ジョージ・クリントン+ベン・グリーンマン

音楽(ロックなど) ポピュラー音楽

ファンクはつらいよ ジョージ・クリントン自伝 バーバーショップからマザーシップまで旅した男の回顧録
“ドゥワップ・シンガー兼ソングライターとしてキャリアをスタートしたジョージは、リズム・アンド・ブルースからモータウンビートルズストーンズサイケデリック・ロック、ファンクに至るまで、ポップ・ミュージックのあらゆるトレンドを吸収した。70年代には、パーラメントファンカデリックという2バンドを中心に構成された、音楽ムーヴメントのリーダーとして台頭。そして、70年代半ば、クリントン統帥が率いるPファンク帝国は、ソウル・チャートのみならず、ポップ・チャートをも席巻していた。先進的なアーティスト、元祖ヴィジュアル系、クレイジーな哲学者、敏腕なビジネスマン。全てが合わさりひとつになったのが、クリントンだ。彼のような人物は、ポップ・ミュージックにおいて、先例がない。その物語は、セックスやドラッグのたしなみ方はもちろん、スーパースターの名言集、フラッシュライトの演出法、バップ・ガンの使い方、キャラクタービジネス、宇宙論、超古代史、各種の陰謀説、法廷論争(音楽著作権に詳しくなろう)を内包し、想像を絶するほどの創造的エネルギーで展開される。誇張された話のようだが、これは現実である。”(amazonの紹介より)

 ついに出た。我らがP-funkファン待望、総帥の自伝の登場である。10代にロックを始めいろんなポピュラー音楽を聴いたが、高校の頃に知ったP-funkほど自分の志向に合うものはなかった(もちろんPrinceという導入があってのことだが)。煎じ詰めると「頭と腰の両方にくる音楽」ということだ。強固なリズム隊で躍らせ強烈なギターでエモーションを掻き立て肉体に働きかけ、それと同時に異様な宇宙趣味と語呂合わせの聖俗一体となった歌詞世界で脳を刺激する、こんな音楽は他にない。しかしあまりにメンバーが多く、自分が聴き始めたころには既にコアのメンバーが離散状態にあり、低迷期ながら個々の活動は途切れず楽しませてくれさらにその後は人気も回復したものの、結局のところ全体像は後追い世代としては非常につかみづらいものがあった。本書はその穴埋めを十二分に果たしてくれるものだ。
 まず印象的だったのはかなり早い段階からG.Clintonは音楽のプロフェッショナルだったこと。ぼんやりと床屋さんが店に集まってた若者を率いてデビューしたみたいな図を想像していたのだが、床屋もやっていた音楽のプロだったようだ。楽譜も読めず歌もけっして上手いとはいえない人だが、曲を作れるクリエイターなのだという自負がそこかしこに感じられる。振り返ってみるとどんなに状況の悪い時でも彼の活動の中心は音楽でありあまり他のジャンルへ手を出すイメージはなく、相当な年齢だが(先月75歳になった)ステージに立ち続けている。まあ楽器を弾いたりする人ではないということもあるのだが。メンバーへの金払いの悪さからBootsyやBernie(R.I.P.)のど古株の主要メンバーが離れたため、どうにも守銭奴のイメージがついて回るが、音楽のことばかり考えていた騙されたというような発言もあながち嘘ではないのかもしれない。
 音楽への自信からかそれぞれのミュージシャンへの発言も率直だ。新しい音楽を作ってきたという自負があるためJBを古い音楽と位置づける部分もあるし、ZappのRogerも小さい成功で満足してしまった人物と評している。特に印象深いのはBob Marleyの政治への傾倒に強い疑念を抱いている部分で、政治と常に距離を置きながら諷刺をする姿勢を自覚的に取っていたことがよくわかる。またロックへ影響が大きいことも認めており、当ブログ主も自分の音楽体験をとらえ直す非常に良い機会となった。そう、音楽ファンとして自分が帰っていく場所は常にここなんだ!
 ドラッグについての言及にも大きくスペースが割かれているのも本書の特徴だろう。具体的に(あからさまに)記され、公的行事の裏でやっていて見つからないように慌てて隠したなんていうエピソードまで披露している。悪びれないところも実に彼らしい。いずれにしても音楽業界につきまとうドラッグ関連状況の貴重な記録になっている。
 契約問題はかなり複雑怪奇。ポピュラー音楽の成功と挫折でマネージャーとの金銭問題がしばしば挙げられ、『ストレイト・アウタ・コンプトン』もまさにそんな話だったが、いつの時代もどんなジャンルでもなかなか上手くいくのは難しいのかもしれない。
 非日常的なエピソードがところどころに登場するのも彼ならではだ。売れていない若い頃に出会い音楽のヒントを得たという謎のマジシャン(『歩道橋の魔術師』を思わせる)、ツアー移動中道に迷ったらゾンビが出てきて驚いたら『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』の撮影中だったとか、コンサートを見守る宇宙人(?)などなど。
 もちろん丸屋九兵衛さんの解説にあるように「信頼できない語り手」であるGeorgeのこと、全てをそのまま受け取っていいのかわからない。しかし巧みな言葉遊びに乗って語られるこの一代記、まさしくG.Clintonにしかできない作品であろう。どんな状況でもクールにそしてユーモアを忘れず、戦い生き抜いたサバイバルの書でもある。自らのバイブルとしたい(ドラッグはやらないけど)。