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異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん

Brian Wilson公演@東京フォーラム

 Brian Wilson公演に行ってきた。Brian Wilsonといえば言わずと知れたThe Beach Boysの中心人物。稀代のメロディメーカーでロックの可能性を広げた偉大なミュージシャンである。また西海岸の開放的な空気を体現したかのような音楽を作りながら、オタク中のオタクのインドア派で繊細さのあまりに精神的な危機にも陥ったという非常にインパクトの強い人物像も広く認識されている。その後精神的に持ち直し、お蔵入りとなっていた幻のアルバム「Smile」を完成させ、ツアーにも出るようになったことは知っていたのでタイミングが合えば是非観たいと思っていた。ちなみにあまりThe Beach Boysの熱心なファンとは言えず、熱心に聴いてきたわけではない。ただこれまでも美しい名曲群には心揺さぶられきたし、長く親しんできた山下達郎の音楽の原点の一つでもあるので、伝説的な人物を目にする高揚感は大きかった。

 今回は当日会場入りするまで席を確認しなかったので、当日なんと前から2列目であることに気づいて嬉しい悲鳴(いやぼんやししていただけなんですが)。これはもしかしたらガラガラなのではと急に不安になったが結局そんなことはなく大入りだった(前日の評判が良かったのかもしれない)。珍しいことに幕は最初から上がっていて撮影禁止ながら開演前からステージが丸見え。なので時間となり興奮が頂点に達する中、盛り上げるでもなくそそくさとそのままピアノの前に座ってしまうBrianについつい笑ってしまった。
 
 セットリストはこんな感じ。講演前には正直高齢のBrianを目に焼き付けて・・・というような思いで臨んだのだが、どうしてどうして今ここに息をしているようなライブ感がダイレクトに伝わってくる素晴らしいバンドだった。メンバーはこちら。リストの一番上にいるPaul Mertensがメンバー紹介などをしていたからリーダーなのだろう。しかし今回のポイントはオリジナルメンバーであるAl Jardinとその息子のMatt Jardinではないか。グループの歴史をしっかり追えていないのだが(にわかともいう)、分裂して散り散りともいう時期もあったようなので、必ずしもAlとBrianがずっと友好的であったとは思えない。しかし美しいファルセットでBrianをサポートするMattはある意味今回のツアーの顔でもあり、(どういう経緯かは知らないが)Mattが加わることによって、親子でThe Beach Boysの曲が演奏出来るAlが非常に張り切っているように見える。正直かなり老いを感じさせるBrianとほぼ同い年ながらAlは若々しく声にも艶があって大層イカした爺さんだった(背は低めだけどちょっとエルフ似!)。
 もちろん主役のBrianあってこそだ。さすがに高音はMatt任せで、いるだけ(笑)みたいな時間も多いけど、あの独特の歌声は健在でグッとくるし、機嫌よく体を揺らして「アリガトウ!」て言うだけで会場は大盛り上がり。愛されてるんだなあ。また「Smile」の製作に貢献しPaulが「(Brianの)音楽秘書」と紹介したDarian Sahanajaもいる。おそらくBrianの意図を伝え負担を軽減する役割を担っているということなのだろう。
 Blondie Chaplinも良かった。恥ずかしながら全く知らなかったのだが、後期のThe Beach Boysに新たなロックらしさを注入した南アフリカ出身のギタリストでBrianらとは10歳ほど違う60代。水玉模様の衣装が似合う不良っぽいちょっとオバサン風オジサンだ。行儀の良さがついつい前面に出やすいグループにワイルドなアクセントを(しかもお茶目に!)加えている。この人を最初に加入させたのがBrianでもMike LoveでもなくCarl Wilsonらしい。主導権の変遷が複雑で簡単に歴史をとらえるのが難しいグループだ。
 他のメンバーたちのマルチプレイヤーぶりにもたびたび驚かされたが、ギターも管楽器もやってPaulから「(バンドの)最終兵器」と紹介されたProbyn Gregoryは右手でトランペットを吹きながら、左手でギターの弦を押さえていた。演奏していたのではなくてコードを押さえていただけなのかもしれないが、あんなの初めて見た(笑)。
 様々な世代のミュージシャンしかもThe Beach Boysとの関わり方もそれぞれという面白いバンドだった。もっと統一感のあるバンドを好む人もいるかもしれないが、ミクスチャー系に惹かれる自分には事前に想像していなかった楽しさが大きかった。Brianが片腕としているDarianは(アメリカ人のようだが)名前からしてインド系ではないかと思われるし、例えば今回も演奏された名曲「Sloop John B」もバハマ民謡だったり、(最初はCarlが連れてきたようだが)南アフリカ出身Blondieの今回の起用など、意外にBrianはグローバルなセンスを持っているのではないかという気がしている。さらに脱線ついでに書くと、バンド全体のイメージも南洋幻想をなぞっているようなところがあるんじゃないかなと妄想を広げたりしている。
 世間的なThe Beach Boysとはややずらした様な選曲やメンバー構成ももしかしたらMike Love(3月に来日したばかりのようだ)への対抗心である可能性もある。だとするとちょっと大人げない気もするが、引きこもって暮らしていたBrianに今やそんな元気が出ているとするとそのおかげで日本でも観られたわけで、それも悪くない。
 おぼろげな記憶だが後世に20世紀を代表する作曲家と記憶される人物としてしゅのー先生(殊能将之)はPaul McCartneyと並び挙げていたのがたしかBrian Wilsonだった。共に最近来日して元気にコンサートをしてくれたが、随分二人の在り方は異なっている。若々しく前面に立ってアクティヴにバンドを率いていくPaulに比べるとBrianはさすがに年を感じさせる。しかし一方で周囲のサポートで支えられているBrianの音楽が着実に継承されていることも実感出来た。会場には思いの外20代から30代と思われる若い世代も目立った。エヴァーグリーンであるBrianの音楽はこれからさらに輝きを増していくのだろう。