異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

〈ウィザード・ナイト〉完結記念《ジーン・ウルフの魔術を語る》トークショー(前半)

 行って参りました、〈ウィザード・ナイト〉トークショー! http://tsuhon.jp/event/3514 いやウルフはやっぱりオソロシイ作家だわ・・・。
 ちなみに当ブログ主、ウルフは好きではありますが、さっぱりわからないといっても過言ではない作家の一人で(他にもいるんですよそれぞれ違った意味でわからない人が)、少しでもきっかけが欲しくてこういう会に足を運んでいるわけで、以下の記録もあくまでも私的な記録に止まるので御了承を(まあいつものことなんですが特にウルフはハードルが高いからなー)。また時系列も整理のため一部入れ替えております。ネタばれ内容についてはいろいろ迷いましたが『ジーン・ウルフの記念日の本』収録作については短篇なので影響も大きいと考え一部字の色を変えました。(『ウィザード/ナイト』はどこが大作でネタばれの範囲を決められないのでそのまま記載しました)いずれにしろ勘違いや誤記があると思うので気づいた方はお知らせいただくと助かります。なお※印はブログ主の補足です。

 トークショーは翻訳家・幻想文学研究家で『ナイト』の解説も書いておられる中野善夫さん、翻訳家・エッセイストで『ジーン・ウルフの記念日の本』の翻訳もされている宮脇孝雄さん、翻訳家・映画評論家で『ケルベロス第五の首』などで翻訳もされている柳下毅一郎さんという顔ぶれ。司会は国書刊行会樽本周馬さん。〈ウィザード・ナイト〉完結記念ながら、昨年同じ国書刊行会から刊行されたばかりで2016年版SFが読みたい!で海外部門5位にランクインした『ジーン・ウルフの記念日の本』(以下『記念日の本』)についても取り上げられた(宮脇さん柳下さんも担当されていることもあり)。主に前半が『記念日の本』で後半が『ウィザード/ナイト』について。書いているうちに長くなってしまったので前半と後半二つの記事にわけました。

 まずウルフが知られるようになった頃について。
(宮脇さん、以下(宮) デーモン・ナイトのOrbit(やテリー・カーのUniverse)のウルフ作品を読んでいた。SF宝石(1979~1981年刊行されていたSF雑誌。アシモフズ・サイエンス・フィクションと提携していた)の下読みでアシモフズ・サイエンス・フィクションのとの作品を翻訳するかを決めていたが、ウルフ作品ではThe Adopted Father(「養父」『ジーン・ウルフの記念日の本』収録)は全くわからず×印にした(笑)。ウルフは翻訳作業をしたら、ようやくわかるといった感じ。たとえば“Operation Ares”(これかな)もわからなかった(抄録だったことも原因とのこと)。ミステリ“Pandora, By Holly Hollander”はナンシー・ドルー(少女探偵ナンシー・ドルーという古くからあるTV化もされた人気シリーズらしい)の文体で書かれたチェスタトンのパロディらしく理解しやすかった。ウルフ作品の特徴は、主人公が成長しない。主人公は完璧な状態で生まれ次第に情報を集め世界を知っていく話。
(柳下さん、以下(柳) 『新しい太陽の書』は、最後に新しい太陽を取りに行く主人公が全てが終わった後に回想をして書かれている(という形式)。だかれ途中で成長することがない。
(宮)人間が完全体として生まれる、というのはカトリック的なのかもしれない。短篇も(人間の成長ではなくて)世界が描かれるので 、それを読み解かないとつまらない。「養父」も様々な設定を読みこんで世界がわかるパターン。
(中) (樽本さんから『記念日の本』についての質問があって)一番面白かったのは「フォーレセン」。
(宮) 「フォーレセン」もどういう世界かの話。誤植ばかりで、建物もつくりかけといった世界。(以下ネタばれなので文字の色を変えます)20世紀のビジネス社会をパロディ化したような世界にアンドロイドを放りこむといった実験が行われる、というような話。hourがourと間違って書かれる世界で、正しい版では一カ所だけhourになっている。これは地の文で主人公が家に帰る時間だけhourと表記され、その他会話で登場するのがour。これは主人公たちの把握している時間が正しくないことを示していて、時間の流れがおかしくなって飛んでしまっていることを示し、最後のシーンで「ある一日のうちにいつのまにか人が死んでいるようにみえて、実は何年も経っている」という話になっている。(※ちなみにパラパラと読み返したところ、上記のourは「待間」となっているが、timeと思われるところは「時間」と訳されていて「時」の字が出てきてしまい、気づくのは超難しいなあと思った) ウルフの小説は、世界の取り扱い説明書といったマニュアルっぽいところがあり、そのまま受け取るしかない。例えば「赤いボタンを押すとこうなります」と書かれていれば本当にその通りになるといったような。ウルフはエンジニアだったし(笑)。
(樽本さん、以下(樽) 「狩猟に関する記事」も誤植が大事なポイント。
(宮) 記者である語り手の能力が足りなくて誤記や誤植ばかり。(以下ネタばれなので文字の色を変えます)日本語では熊も「顔」だが、英語では人間の顔はfaceだが熊であればhead。小説ではfaceと記されており、一見語学能力に欠けるのでfaceにしたように見せて、実は人間が変容した熊のような化け物であるというオチである。これは語り手が気づかないうちに正しい記述になっているという仕掛けになっていて、オチがわかりにくい(笑)。またエコロジー的な要素もあり、作中で度々触れられている農薬が原因と考えられる。
(樽) ウルフは校正時に間違いかどうか判断が難しい(笑)。
(宮) (ウルフの人気や認知度についての質問に対し)ジョン・ダニング『死の蔵書』にはウルフの本を探す人物が出てくる。80年代(『新しい太陽の書』が人気を博した時代)にはブームがあった。
(柳) SFやファンタジーの分野では尊敬されている大家だが、一般の読者まで広がっているかというと疑問。
(中) 解説を書くにあたって『新しい太陽の書』を読んで難しいと感じた。『ナイト』の解説を書くにあたっても難しいと感じ、「わかりにくい書き方をする作家」という印象がある。安心させてくれない作家。
(以上前半了)