異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん

『新ナポレオン奇譚』 G・K・チェスタトン

新ナポレオン奇譚 (ちくま文庫)

“1904年に発表されたチェスタトンのデビュー長編小説、初の文庫化。1984年、ロンドン。人々は民主主義を捨て、籤引きで専制君主を選ぶようになっていた―選ばれた国王は「古き中世都市の誇りを復活」させるべく、市ごとに城壁を築き、衛兵を配備。国王の思いつきに人々は嫌々ながら従う。だが、誇りを胸に故郷の土地買収に武力で抵抗する男が現れ、ロンドンは戦場と化す…幻想的なユーモアの中に人間の本質をえぐり出す傑作。”(amazonの紹介より)

 上記のように1904年に発表された作品で、その時から未来の話なのでその点だけでいえば一種のSFとなるのだが、冒頭から科学により未来を外挿するやり方に疑義が唱えられ(ウェルスが引用されている)序盤に「百年後のロンドンが現在そのままである」と明示され、何と専制君主制(しかも国王は籤引きで選ばれる!)が復活したイングランドが描かれるといういわゆるSFとは全く反対のアプローチがとられているのだ。そして籤で選ばれた国王オーベロンは諧謔(ユーモア)の精神を重んじる変わった男。中世の城壁と衛兵を復活させ自由市憲章大宣言を行い市長も籤で選ぶ方針を打ち出す始末。もちろん世の中は大混乱。さらには開発話が持ち上がったノッティング・ヒルの市長ウェインがこの巫山戯た国王の出任せの憲章を信奉する狂信的な若者だったからさあ大変。かくして事態をまともに収拾しようともしない国王の下、ノッティング・ヒルの誇り高き市長は強硬に開発を推進しようとする勢力と全面対決することになる。
 以上のような具合で、逆説と諧謔が持ち味といわれるチェスタトンによる実に反進歩主義的な要素が随所に目立つ風刺小説である。回ぎゃうの精神はある物事を反対側からの照明によって全く見えていなかった部分を照らし出すようなところがあって、見ている者の常識を反転させる効果があると思われる。100年以上前の本作に見られる諧謔には驚くほど今日性があり奇妙な論理には意表をつかれ、さらにその果てに訪れる結末は不思議にもある種の感動すら覚える。いったいなんなんだ。
 実際のロンドンの一区画を舞台にする戦いにはシミュレーション小説のような先駆性もあると思われる。非常にユニークな傑作である。