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異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん

『世界の誕生日』 アーシュラ・K・ル・グィン

世界の誕生日 (ハヤカワ文庫 SF ル 1-11) (ハヤカワ文庫SF)

“両性具有人の惑星ゲセンを描いたヒューゴー賞ネビュラ賞受賞作『闇の左手』と同じゲセンの若者の成長を描く「愛がケメルを迎えしとき」、男女が四人組で結婚する惑星での道ならぬ恋を描く「山のしきたり」など“ハイニッシュ・ユニヴァース”もの6篇をはじめ、毎年の神の踊りが太陽の運行を左右する世界の王女を描く表題作、世代宇宙船の乗員たちの運命を描いた中篇「失われた楽園」など、全8篇を収録する傑作短篇集。”(amazonの紹介より)

 定期的にハヤカワ文庫からSFが翻訳されている印象のあるル・グィンだが、『言の葉の樹』以来13年ぶりかな?
「愛がケメルを迎えしとき」 <ハイニッシュ・ユニバース>もの。惑星ゲセンの人々の生殖期ケメルについては『闇の左手』(1969年)にも登場するが、1995年の本作では深く掘り下げている。
「セグリの事情」<ハイニッシュ・ユニバース>もの。セグリという世界の出来事がメタフィクショナルな形式でオムニバス的につづられる。性差による問題が大きいために生じる諸問題は時にショッキングだが我々の陰画なのかもしれない。
「求めぬ愛」 
「山のしきたり」 <ハイニッシュ・ユニバース>もので、この2作は惑星O(オー)という男女2人ずつ計4人による結婚制度が当たり前になっている世界を舞台にしている。こうした一見奇妙に思える世界を個々人の感情という身近な視点と社会制度全般という俯瞰的な視点両面からあたかも本当に存在するかのように立体的に描くのが実に巧い。
「孤独」<ハイニッシュ・ユニバース>もの。ソロ第十一惑星の比較的な素朴な住民の生活での諸問題がテーマ。「セグリの事情」もそうだが進んだ文明が未発達な文明を教育するといった進歩主義的な考え方に代わり異なる文化による落差や一種の断絶といった面が現れている気がする(必ずしもネガティブな見方というばかりではないようなのだが)。
「古い音楽と女奴隷たち」 <ハイニッシュ・ユニバース>もの。奴隷制度を持ち政治的混乱状況にあるウェレルという世界で中立であるエクーメンのエスダンは抑圧的な政府勢力側に拘束されてしまう。奴隷制がテーマで内容的にもかなり重苦しい話であるが、その重みに負けることなくきっちりとした作品にコントロールしているところはさすがである。
「世界の誕生日」 宗教的儀式を司るものが神となる神話的世界。世界の誕生を描いた作品といえる。
「失われた楽園」 世代間宇宙船ものといえるが、生物学的社会学的(さらに宗教的)にここまで丁寧に追及された作品は稀有なのではないか。ル・グィンの意識の高さに脱帽。

 繰り返しになるが、どの作品で描かれる社会もそれぞれに奇妙でありながら、いずれの世界にもその手触りがありかつそこに生きる人々の息づかいが伝わってくる。また背景となる現代社会への問題意識は常に高い。ル・グィンの優れた洞察力と作家性がしみじみと感じられる非常に読み応えのある短篇集である。