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異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん

『クロックワーク・ロケット』グレッグ・イーガン

クロックワーク・ロケット (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

“わたしたちの世界とは少し違う、別の物理法則に支配された宇宙。奇妙な現象「疾走星」の増加を調べる女性物理学者ヤルダは、彼女たちの惑星が壊滅間近であることを知る。危機回避のための策は、いまのヤルダたちにはない。しかし巨大ロケットを建造して深宇宙に送りだせば、この宇宙の特異性のためロケット内では無限の時間が生みだされる。惑星上での数年のうちに現在よりはるかに科学技術を発展させ、惑星を救えるにちがいない!計画への無理解と批判にさらされながら、ヤルダたちはこの前代未聞の大事業に取りかかるが…。現代最高のSF作家イーガンの宇宙SF三部作、開幕!”(amazonの紹介より)

 物理法則の異なった世界が舞台という発想からしてイーガンの他に書ける人が思いつかないような小説。アイディアは大変ユニークでオリジナルである分、非常に難解であり作者の提示したイメージをわずかでもつかめているかどうか不安になるものの巻末の板倉充洋氏の親切な解説により(物理や数学などとうの昔に縁遠くなってしまった当ブログ主でも)作品のキイとなるイメージが見えてくる。(ちなみにグレッグ・イーガンの作品関係のサイトはこちら。いやもちろん読んでいませんが(汗)

 上記のあらすじの通りこれは一大プロジェクト小説。地球の危機を救うミッションのためロケットを造るという21世紀版ハインラインの『月を売った男』とすらいえるような古典的なタイプのSFなのだ。『白熱光』もそうだったが、近年のイーガンはアイディアは科学的想像力の及ぶ限り極限まで進めそれを親しみやすい伝統的なフォーマットのストーリーに乗せていくという手法を取っているように思われる(『ゼンデギ』はちょっと違うかもしれないが、あの作品もストーリーは比較的オーソドックスだった)。当初その作風の変化にとまどったのだが、本作はプロジェクトに次々に困難が押し寄せるという王道中の王道の展開でサーヴィス精神たっぷりといってもいいぐらいカタルシスを感じさせる作品で個人的には『白熱光』以上に楽しく読むことができた。イメージしきれていないが、進行方向で色が変わるなど奇妙な物理法則によりこの世界とは異なるカラフルな世界が繰り広げられるのが魅力的だ(後ろにも目がある設定もそのためではないか)。
 21世紀版×××的な側面はあるが、そこはイーガン。理想主義的で芯のある主張がそこかしかに認められる。主人公たちが人間と変わりない思考をながら不思議な生態である生物として設定されているのも次世代残していく生きものとしての人類の問題を提示しているのではないか。そしてそれを見つめるイーガンの眼差しは楽観的ではないが真摯で温かい。続きが楽しみ。