異色もん。

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『ジーン・ウルフの記念日の本』ジーン・ウルフ

ジーン・ウルフの記念日の本 (未来の文学)

 一つの文章に幾重にも意味を重ね読者を幻惑する技巧派SF作家ジーン・ウルフは短篇の名手として知られている。1968~80年の作品を収めた1981年刊行の本書は、アメリカの記念日をテーマにしたそれぞれ独立した短篇で構成されており、作品の短いものは10頁に満たない長さのものもあるが、いずれも一筋縄ではいかないものばかりである(各短篇のカッコ内は相当する記念日。特に面白かったものに◎。ネタばれという言葉の相応しくない作家だが、以下内容に触れているので未読の方はご注意ください)

「まえがき」 まえがき、が図書館をネタにしたユーモア掌篇になっている。ジーン・ウルフを知っている人で「まえがきに目を通さない」読者なんているのか?(笑)
「鞭はいかにして復活したか」(リンカーン誕生日) 会話から浮かび上がる差別的な未来社会。1970年の作品でテーマ的にニューウェーヴっぽさも感じる。
「継電器と薔薇」(バレンタイン・デー) コンピュータによる社会の変化が描かれているが少し感覚の古いような気がする。
「ポールの樹上の家」(植樹の日) 木の上で生活するポール。これも社会的なテーマが題材になっている。
「聖ブランドン」(聖パトリックの日) 長編『ピース』の一エピソード。
「ビューティランド」(地球の日) 管理化された(?)未来社会とエコロジーが扱われている。
「カー・シニスター」(母の日) 母の日でこれか(笑)スラプスティック気味のアイディアストーリーでウルフらしくない気もするが、こんなのも易々と書いてしまえるのね。
「ブルー・マウス」(軍隊記念日)◎ 戦争もので、自身の体験からか現場の兵士からの視点が効果的に作用している作品。
「私はいかにして第二次世界大戦に敗れ、それがドイツの侵攻を防ぐのに役立ったか」(戦没将兵追悼記念日)◎ 長いタイトルだが、第二次大戦を舞台にしたテンポのよい改変歴史ものでアイディアストーリーとしても完成度が高く、これまた芸域の広さに驚かされる。
「養父」(父の日) これも未来の管理社会が扱われている。シリアスな作品だが、ラストの<スタートレック>ネタは意外。
フォーレセン」(労働者の日) 本短篇集で一番長い。解説で解き明かされている仕掛けは当ブログ主のようなぼんやり読者には読解不可能だなあ。その意味で解説ありがたい。会社員の生活をシュールに描いた1974年の作品で、同時代の日本のSF作家なども好んで扱ったネタだと思うが、ウルフは「人間の社会や生活を模倣する(人間ではないかもしれない)何か」というテーマを繰り返し取り上げている気がする。
「狩猟に関する記事」(狩猟解禁日) 狩猟の描写がいいなーと思った後に解説読んだら驚いて倒れそうになった。えっそういう作品なの!?
「取り替え子」(ホームカミング・デイ)◎ 解説にも書かれているがホームカミング・デイは卒業生が母校を尋ねる日。全然知らなかった。日本でもいろんな大学でやっているようだが(笑)懐かしい記憶が恐怖にすり替わる傑作。これまた解説によると『ピース』とつながっているらしい(気づかなかった)。しかしこれ取り替えられたのは誰?らっぱ亭さんからいろいろ教わったのでリンク。らっぱ亭さん御教示感謝です。
「住処多し」(ハロウィーン) 恐ろしい童話風テイストのSFで面白いんだけどこれまた謎の多い作品。
ラファイエット飛行中隊よ、きょうは休戦だ」◎ エンジニアでもあったウルフの技術に対する思いが背景にあるのかストレートなノスタルジアと飛翔のイメージが融合した美しい小品(いや本当に美しいだけなのだろうか。騙されていないだろうか・・・と思ってしまうのもまたウルフ)。
「三百万平方マイル」(感謝祭) 解説によるとディッシュのエコロジーテーマのアンソロジーに収めらていたらしい(そんなのあったのか)。長い高速道路がモチーフになっていてアメリカらしいがこれもちょっとピンとこないところがある作品。
「ツリー会戦」(クリスマス・イヴ)◎ クリスマス・イヴの高揚感が子供の視点で幻想風味で描かれ多重に解釈可能な実にウルフらしい好篇。「デス博士の島そのほかの物語」と共通点が多い作品。これまた解説読んでびっくり。相変わらずウルフの恐ろしさがよくわかっていないことがよくわかった(苦笑)。
「ラ・べファーナ」(クリスマス) 異星を舞台にしたSFだが、宗教的なテーマも入ってるのかなーと思ったがよくわからない。解説「短いながら名作の誉れ高く、」えー、そうなのおお。
「溶ける」(大晦日) 巻末らしい華やかでパーティの終わりのさみしさをメタフィクショナルに描き、ウルフらしいエンディング。

 1970年前後の作品はニューウェーヴSFの時代に呼応しているせいか社会問題をテーマにしたり背景にしたりした作品が目立つ印象がある。また戦争をテーマにした作品も書いてきていることも知ることができた。上記のように解説は示唆に富んだ内容で大変刺激的で、その分作品読了後に読むことをおすすめする。