異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

『フランケンシュタインの精神史 シェリーから『屍者の帝国』へ』小野俊太郎

フランケンシュタインの精神史: シェリーから『屍者の帝国』へ (フィギュール彩)

“200年前に書かれた『フランケンシュタイン』が提示する問題系の現代的な意義=「つぎはぎ」「知性や労働の複製」「母性をめぐる解釈」などをめぐり、日本の戦後SFへの継承をたどる!鉄腕アトム鉄人28号人造人間キカイダーなどの国産の漫画、アニメを「怪物からロボットやサイボーグへ」というテーマでつなぎ、日本SFの代表的作家、小松左京光瀬龍荒巻義雄田中光二山田正紀などへの継承と変遷をたどり、伊藤計劃円城塔の合作『屍者の帝国』と通底する精神史とは…。”(Amazonより)

 1818年に発表され、SF史を俯瞰した評論の中でも代表的なブライアン・オールディス『十億年の宴』でもSFの祖と位置付けられたシェリーの『フランケンシュタイン』。これまでもSFがらみの文脈で数多く分析されてきて何度かそういった著作にふれてきているが、作品自体の汲めども尽きない魅力ゆえか毎度いろいろ発見がある。本書は<つぎはぎ>というキイワードを基調として、近年の精緻な『フランケンシュタイン』分析から日本SFの最新作品までへの影響への解析まで網羅した本格SF評論。
 個人的に興味深かったのは英語で書かれている『フランケンシュタイン』だが、登場人物たちが何語を使用しているかという多言語的側面やそれも含めた当時の世界情勢など幅広い社会学的な側面から考察した第1部第1章と4章、ともすると星新一小松左京らいわゆる日本SF第一世代に比べるとやや言及されることの少ない第二世代の『フランケンシュタイン』の影響を論じた第2部第7章が特に面白かった(自分の知り得る上では田中光二論は貴重かつ示唆に富んだ内容で日本SF史的な視野からの荒巻義雄山田正紀論も大変興味深かった)。
 ジェンダー、人体改造、生命の起源、メタフィクション(P197でオールディスによって「自己定義するジャンルとしてSFが把握された」ことの重要性が指摘されている)などなど元々実に多様な顔を持つ作品だけに現代のあらゆる技術との関連についての終盤はやや駆け足となった印象もあるが、『フランケンシュタイン』の最新のしかも深化した知見と日本SF史が明快に分析されている読みやすく読み応えのある一冊。