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異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん

『太陽黒点』山田風太郎

太陽黒点  山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)

“昭和30年代後半の東京。才気に満ちた美貌の苦学生・鏑木明は、アルバイト先の屋敷で社長令嬢・多賀恵美子と出会い、偶然にも特権階級への足掛かりを手にする。献身的だが平凡な恋人・容子を捨て、明は金持ち連中への復讐を企て始める。それが全ての悲劇の序章だとは知らず…。“誰カガ罰セラレネバナラヌ”―静かに育まれた狂気が花聞く時、未曾有の結末が訪れる。戦争を経験した著者だからこそ書けた、奇跡のミステリ長編。”(Amazonの紹介より)

 山田風太郎の世評高いミステリ。戦後十数年を経て平和な時代の中にも若い学生たちの間には裕福な者とそうではない者の間には将来への希望に格差が生じていた。持てる者たちの華やかな暮らしに暗い嫉妬心を宿した鏑木は自らの生活を崩しながらも多賀恵美子とのつき合いを止めることはできず、恋人の容子はそんな破滅的な彼の行動に否応もなく巻き込まれていく。
 という現代にも通じるような若者たちの青春群像ミステリが終盤一転して、太平洋戦争の悲劇が背景に虚無的な影を落としていることが明らかになる。犯人のトリックは失敗の可能性が高いところに多少疑問もなくはないが、解説にもあるようにそこは犯人も理解しているという解釈が成り立つし、作品の核はなんといっても戦争に翻弄され人生を徹底的に歪められた人達の怒りと無念の重さと何ともいえない無常感だろう。テンポのよい展開と重い読後感のコントラストが際立つ傑作である。