宇宙人でもなく宇宙怪物でもなく<宇宙生命>SF。ということで、ある意味SFの王道である侵略者タイプではなくユニークな生態がポイントとなる作品のアンソロジー。さすが百戦錬磨のアンソロジストである中村融さん、ひねりが効いている。(特に面白かったものに◎印。以下多少内容に触れているものもあるので未読の方はご注意を)
「狩人よ、故郷に帰れ」リチャード・マッケナ
解説にもあるようにテラフォーミングが大きな要素を占めるが、狩りをする男たちのプライドを重んじる発展途上の種族と進んだ科学技術を持つ種族との文化人類学的な対比にも重きを置かれてアイディアもユニークで、1963年の作品としては先駆性を感じさせる。
「おじいちゃん」ジェイムズ・H・シュミッツ◎
“生態学的謎解き小説”と解説にあるように、非常に良質なミステリとして成立している切れ味のよい傑作。
「キリエ」ポール・アンダースン
ハードSFらしいプラズマ型生命を扱った本作も、(これまた解説からだが)まだブラックホールの概念が注目されはじめるもまだ用語として存在しない1968年初出の作品だと知ると驚きもひとしお。あんまり作者の作品を読んでいないのが申し訳なくなった(苦笑)。
「妖精の棲む樹」ロバート・F・ヤング◎
巨大な樹木の精と木の伐採を仕事にする男の話で、ウェットな切なさが持ち味という印象で(そんなところが当ブログ主としては少々苦手な)作者らしさがよく出ているプロットだが、伐採作業の描写のリアルさや意外にも生々しく残酷なイメージが効果的に作用している傑作。ヤングもまたポール・アンダースンに続いてなんかゴメンナサイだあ(笑)。
「海への贈り物」ジャック・ヴァンス◎
船員が謎の死をとげるというパターンは先日読んだホジスン『幽霊海賊』のような海洋ものの怪奇小説の系譜にあって古くからあるのだろうなあ。これはSFで合理的な解釈がなされるわけだが(以下多少ネタばらしになるので文字の色を変えます)、サスペンスフルな中盤からアザラシに手がいっぱいついたみたいな奇妙な生命体に言葉を教える話になるオフビート感がなんともヴァンスらしくて好み。また随所に登場する色鮮やかな描写も作者の真骨頂。
「黒い破壊者」A・E・ヴァン・ヴォークト
ヴォークトもあまり読んでいないのよねー・・・(なんかノれない感じで)。これは『宇宙船ビーグル号の冒険』がらみの作品だが、そこには改稿されたものが載っていて元のバージョンを完全版で改訳したのがこの作品ということらしい。これは本書の中では一番モンスターものの王道パターンで1939年作だから様々な作品の原点でもあるものだろう。やはり古典的作品らしいプリミティヴな力強さがある。
(一部例外もあるが)中篇集ともいえるそれぞれがある程度のヴォリュームを持ち、よく練られたアイディアの作品ばかりで読み応えがあった。また(上記のように)謎解きのミステリ的な部分がいずれの作品にもあり、非常に楽しいアンソロジーになっている。