異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

『SF雑誌の歴史 パルプの饗宴』マイク・アシュリー

SF雑誌の歴史 パルプマガジンの饗宴 (キイ・ライブラリー)

 SFが好きで長い間読んでいるが、はまるきっかけとなったのは雑誌である。SFマガジンやSFアドベンチャーが本屋に並ぶの日を心待ちにした体験が何よりも読書の喜びの原点である。あと短篇小説好きなのでショートショートランド誌も大好きだったなあ。現在そういう気持ちを思い起こさせてくれるのはナイトランド・クォータリーだ。
 ということでSFのようなジャンク的な娯楽小説から勃興してきたジャンルの歴史は雑誌の歴史そのものともいえそうだ。が、あまたの雑誌が現れては消えるといった世界を記述するなどということは気が遠くなるほどの作業が必要になることは間違いなく、誰もが尻込みしそうなものである。ところがそんなことを成し遂げてしまったのが本書である。なにしろ1665年パリで創刊された最初の雑誌<ジュルナル・デ・サヴァン>に関する解説からはじまり、SFというジャンルについての本なので英米が中心にはなるものの、ヨーロッパの国々の状況も挿入されなんと日本への言及まである(本書の扱う時代の中で、ヨーロッパ以外の非英語圏でSF雑誌が発行された例としてふれられている。<アメージング・ストーリーズ>および<ファンタスティック・アドヴェンチャーズ>の掲載作が1950年にアンソロジーとして出版されたということで、これは知らなかった。訳注によると『アメージング。ストーリーズ①~⑦』のタイトルでSFという表記はなく怪奇小説叢書と銘打たれていたとのこと。ググったら古書価格がなかなかのお値段だった(笑)さらに本書で特筆すべきなのはエポックメイキングなファン出版まで紹介されていることでSF雑誌の歴史が立体的に把握できるようになっていることだ。いやあ驚くべき労作。一般的には熱心なSFファンでも英米SF黄金時代といわれる1950年代そこから遡っても40年代あたりの作品に関心が向きがちだが、そこにいたるまで傑作から凡作まで夥しい作品があり様々な人々の動きがあったことが具体的な作品・事例の列挙で非常によく分かる。個人的にも原子力やオカルトの影響についても知ることができて面白かった。とにかくSFファン必携の1冊。さらにSFに限らず幅広い雑誌の歴史の記録にもなっている。サブタイトルにあるように本書の主役はパルプ雑誌。意外と歴史は古く著者は1882年発行の<マンジーズ・マガジン>をはじまりとしているが、2つの大戦など大きな歴史のうねりの中で隆盛を極めやがて終焉を迎える流れが分かりパルプ雑誌関係の出版史しても詳細であり貴重なものなのではないかと思われる(その方面には明るくないが)。充実した索引もうれしく辞書としても役立ちそうだ。
 文章は極めて堅実で情報記載を重視した冷静沈着なもので資料価値は高いものの興味のない読者にはとっつきづらいところもあるかもしれず必ずしも一般的な本とはいえないかもしれない。ただ非常に資料的価値の高い本だし、なにより行間からあふれる雑誌愛には本当に頭が下がる。人々がいいものを作ろうとした活動を全て記述しようかというような気概すら感じられる。日本語で読めることがありがたい。訳者・出版関係の方々に感謝したい。(出てすぐ購入したが実際読むのに何年もかかってしまった。いつの間にか入手困難になってた・・・貴重な記録満載なのに惜しい)