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異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん

映画『コングレス未来学会議』

 
 映画『コングレス未来学会議』公式サイト


泰平ヨンの未来学会議』の映画化作品。とはいえ原作自体も様々な思考実験が魅力で、しかもテーマが現実の不確実性ときているので、ストーリーやプロットがどうのこうのという作品ではない。そこで監督は大胆かつ大変ユニークなアプローチで臨んでいる。

 主人公は一世を風靡した美人女優ロビン・ライト。40歳を超え次第に演じる役を失いキャリアの危機に直面した彼女はマネージャーから映画会社からの救済策を伝えられる。彼女の全てをスキャンしデータ化されたキャラクターの肖像権を映画会社が巨額の報酬を払うというのだ。巨額の報酬が得られるが20年間女優の仕事ができなくなるためいったんは拒否したロビンだったが、難病の息子をかかえたシングルマザーの彼女は自らと家族の将来を案じ最終的に提案を受け入れる。そして場面は変わり20年後、60代になったロビンはドラッグで変容した社会の<コングレス>(未来学会議)に招待される。

 原作の宇宙飛行士泰平ヨンは一切登場せず、代わって苦境に立つ女優が主人公となり基本的には全く違うストーリーによる映画化である。しかし原作は為政者がドラッグにより人々の現実を支配するという内容で(パンフレットで高校時代に原作に出会ったという監督自身が語るように)「自分のアイデンティティを決定するのは誰か」「精神の自由とは何か」が核となっており、まさしくそこが映画においても重要なテーマになっている。この主人公「ロビン・ライト」を演じるのは本人であり、年齢やキャリアも本人と重ね合わせられている(よくこのオファーを受けたものだ)。現在実際の映画製作でも技術の進歩と共に本人が演じていないシーンに顔を合成したりということが可能になっているという(下記映画評論家町山智浩氏の解説)。そんな時代の中で演じるとはいったい何なのか、俳優の意志とは何なのかという問題が提示されている。元々現実が変容してどの部分がストーリーの大枠か分からないメタフィクショナルな原作について、映画についてのテーマが語られ(しかも本人が主人公を演じるという事で)映画ならではのメタフィクショナルな仕掛けが持ち込まれているのである。また現実とは何か、というテーマは監督自身の失われてしまった戦争体験の記憶を描いた『戦場でワルツ』(←当ブログ主の昔の感想)共通していて元々大きなテーマであることも感じられる。
 『戦場でワルツを』も実写とアニメーションの切り替えが非常に効果的に使われていたが、今回はさらにそれが洗練されている。20年後にドラッグで変容した社会については原作の世界がしっかり反映されており、カラフルで幻覚的な映像のトリップに誘われ、苦悩に満ちた実写のパートとのコントラストが鮮やか。アニメのパートもこの作品の大きな見どころだ(こちらがメインでストーリーはどうでもよいという意見があっても不思議ではない)。見覚えのあるキャラクターもふんだんに取り入れられているのも楽しい。
 アニメのパートは原作通りのスラプスティック(で時に残酷)な要素が繰り広げられているが、大枠のロビンのストーリーは家族への思いなどがベースでややウェットなので全体の印象としてはそちらの印象が強いものとなっている。しかし『戦場でワルツを』にもあるような監督自身のシリアスな側面は手法の巧みさもあって、ダイレクトに観ている者に伝わるところがありそれがこの監督の大きな長所となっている。一見変則的なアプローチながら原作のテーマをシリアスにダイナミックに描いた見事な映画化といえるだろう。
 一方で謎の多い作品でもある(以下ネタばれのため一部文字の色を変えます)
 コミュニケーションの齟齬から息子とすれ違うロビンが最終的に選んだ姿が息子自身なのはなぜか(パンフレットでアニメーション映画監督の山村浩二氏は「母の歪んだ愛情の物語」と表現している。そう、単なる<切ない母性愛の物語>ではないかもしれないのだ)。またアニメパートで主人公を救うヒーロー的な役どころのディラン・トゥルーリナーがロビンと別れの際に「自分の真の姿を知って欲しくない」というが、このディランはいった誰なのか。実は元々ロビンの知る人物ではないのか。本作ではロビン自身の歌うボブ・ディラン「フォーエバー・ヤング」がフィーチャーされていて、ディラン・トゥルーリナーの名と共にボブ・ディランと作品の関係も気になる。永遠に老けないロビン自身のアバターが重要な設定であるということも合わせハリウッドの老いを恐れる文化について考えを巡らせるのも面白い。多様な見方ができるのも優れた作品の証明だろう。公開が限定的なのが残念である。 

 映画評論家町山智浩氏の解説 www.youtube.com

※追記(分かりづらそうなので全面的に書き直しました) 新宿シネマカリテで観たのだが(今のところ観られるのは2ケ所でもう1ケ所が大阪なので東日本だと実質そこしかない)、スクリーンの位置をよく確認して必ず画面の中央に位置する席を取ることをおすすめします。実際のところぼんやり選んで画面から遠い席になってしまった。ただ新宿シネマカリテはスクリーン1と2があってあくまでも自分の観た1での話。 
上映時間 | 新宿シネマカリテ
 スクリーン1は入口が1つだけで、入口は画面に向かって左側にある。客席のあるエリアが左右非対称の歪んだ形になっていて、入場すると画面が奥寄りにある。入口付近にも席が設けてあるものの、観賞する時に画面がかなり右斜め寄りになってしまい見づらい(画面が小さめであることも原因)。つい端寄りを選びがちな方は要注意。初めて行った劇場なのでスクリーン2については不明。