異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

現代詩手帖2015年5月号 [特集]SF×詩

現代詩手帖 2015年 05 月号 [雑誌]

 詩には疎いブログ主であるが、なかなか面白そうな特集で作家の顔ぶれもいいので買ってみた。予想以上に興味深い内容だった。
(目次とは入れ替えて並べてあります。またあくまでも今号の一部)

鼎談 増田まもる×水無田気流×河野聡子 世界観を変える力
 翻訳されたSF詩集『アニアーラ』を枕に、科学技術・ジェンダー・身体性・言語などなど数多くのSF小説の名が飛び交いながらかなり幅の広い話題が出ている。普段とひと味違ったSFの見方をするきっかけを与えてくれる。

評論等
○SFと詩
・詩・科学・SF/三位一体説」 荒巻義雄
 自身の創作の原点がT・S・エリオット『荒地』の日本での受容とからめて書かれ参考になる。
・言葉というSF 高塚謙太郎
 ヴォクト、チャン、神林長平らの作品や家隆卿の歌(新古今和歌集)を例示しながらSFと言葉の関係について触れられている。
・≪短詩型SF=SF詩≫論 SF詩への歴程 天瀬裕康
 後述の「英語圏のSF詩」が英米SF詩の現況が紹介されているのに対し、1960年ごろからの日本での状況が記されていてこれまた参考になる。
○SF詩論
・「未来」と「回帰」SFと詩の<岬>に向かって 生野毅
 小松左京を中心に、宮沢賢治からの影響や3・11以降の社会状況や吉本隆明が言及があり、日本文学においての<岬>について論考される。高度な内容で難しいが「岬にて」は再読しないとなあと思わされた。
・林美脉子という内宇宙 岡和田晃
 多方面に詳しい岡和田さんが、また新たにユニークな創作者を紹介してくれた。激しさと宇宙的視座が同居するこの詩人もまた非常に惹きつけられる。
・いかなるボウイ的存在が、はるかの高みからそれを聞こうぞ? トレイシー・K・スミス『LIFE ON MARS 火星の生命』を読む 波戸岡景太
 デヴィッド・ボウイの名曲“LIFE ON MARS”を題材にした詩集をものにしたこのアフロアメリカン系の詩人もまた興味深いなあ。まさか翻訳が出ていたとは。(早速購入した(笑)
英語圏のSF詩 橋本輝幸
 SFや奇妙な味系の洋書読みとして新鮮なネタを提供してくれる橋本さんだが、これまた意外な情報が多くて面白かった。SF詩は意外にいろんな媒体に載っているようだ。科学ネタ中心のハードSFの人と思われ一見詩とはかけ離れたイメージのジェフリー・A・ランディスが詩に熱心なことやゾンビ詩アンソロジーがあることなどを知った。
○改訂訳
・太陽の到来(『レンズの眼』より) ラングドン・ジョーンズ
・ストレンジ・ボーイズ(『デッド・ボーイズ』より) リチャード・コールダー
 いずれも初読だが面白かった。『レンズの眼』は積んでいたんだよね・・・。太陽の到来、迸るようなイメージが鮮烈。ストレンジ・ボーイズ、もだがバロウズを思い起こさせる(文体もそうだが、前者では「黒い波、私を連れていけ」のパート、後者のエスピオナージュっぽい感じなど)。
○創作
・偽『初夢』から『SF』の方へ 天沢退二郎
 不勉強ながら名のみ知っている人で初読なのだが、著者の夢想ーSFのイメージの連鎖が興味深かった。
・次元の孤独 最果タヒ
 名前は知っているが初読。やはりSF的なイメージというと時間がテーマになってくるのかなあなどと雑感。
・まつりびとれいこんまれいいち 水無田気流
 鼎談にも登場していて、そちらの批評的な視座も興味深かったのだが、この実作はリズム感が面白い作品だった。
ここからは小説といえるかな。
・シャッフル航法 円城塔
 やっぱりけったいなことを考えるねえ。ネタばれしちゃうとまあカットアップみたいなことなんだけど、それが宇宙航法と結びつくとは驚くというか可笑しいよな。楽しい作品。
・女人結界 広瀬大志+伊藤浩子
 今気づいたんだがこれ合作なのか。どういう分業だったのだろうか。漢文や古文が入る、これまたその手の読解力に欠ける身には難しい作品だったが仏教的なイメージと共に人間の苦悩が語られ響くものがあった。そのうち再チャレンジしたい。
・橡 酉島伝法
 つるばみ、とルビがふってある。不気味さと侘しさのあいまったなんというかいつのも酉島世界。仮想場(かそうば)に笑う。
・La Poēsie sauvage 飛浩隆
 『野生の思考』と「野蛮」をかけたタイトルなのかなあ(ざっとググると)。これはテーマに相応しい言語SF。言葉の持つ力といったイメージがSF的アイディアと結びついて増幅していく傑作。

 「SFと詩」といってもいろんな切り口があり、いろんな作品がありひとくくりには出来ないなあというのが読んでの印象(正直、面白さは別として詩とは特別関係ないかもという作品も・・・・(笑)。ただ、偏った媒体で同じような評価軸が蔓延しがちなSFでは示唆に富んだ取り組みで、こうした試みは大いにやってほしいと思う。