異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

SFセミナー2015

 今年も行って参りました。去年は結局レポートを書けなかったが、今回はちょっとまとめておこうかな。
 まず昼の本会から。
1.東山彰良インタビュー(聞き手 大森望)
 『ブラックライダー』のタイトルだけは知っていたが、台湾生まれの方で子供の頃に日本に定住されたという経歴でお祖父さんが蒋介石とともに台湾に渡ったそうで、新作「流」はその話をフィクション化したものとのこと。いやー面白そうだわ。影響を受けたのはガイ・リッチータランティーノの映画、エルモア・レナードブコウスキーといったあたりでSFはあまり読んでいないとのこと。個人的に創作(童話のようなものとおっしゃってたかな?)はしていたものの、大学を離れなくてはいけなくなり将来に不安を感じていた時に台湾のミュージシャン伍佰(Wu Bai)のバンドいた幼馴染と話をしていて刺激を受けたというエピソードもカッコいい。いろいろSF文脈的なものから外れている感じも新たなものを生み出してくれそうな期待が。これは読まなくては。ちなみに伍佰(Wu Bai)はこの人。
伍佰Wu Bai &China Blue[光和熱/Light and Heat]HD 官方 ...

2.生誕101年、改めて若者もラファティを推す(出演者:松崎健司、橋本輝幸、坂永雄一)
 松崎健司さん、というより「らっぱ亭さん」という方がSFファン・ラファティファンには通りがよいのだが、とにかくSFセミナーに満を持してご登場~。ラファティはかなり変わった作家だが熱狂的なファンがついており、特にSF関係のプロの方にいらっしゃるのだが、今回は
ラファティ企画でよく登場する先達の人々をあえて外したという感じ。というわけでフレッシュなメンバー。らっぱ亭さんの紹介する豊富な画像が面白かった。チラシの写真などを隙間がないくらい多数貼り付けたドアの写真が面白かった。これに関連して橋本さんが「知識をため込む、コラージュ的な面白さ」と表現していたのが興味深かった。

3.豊田有恒インタビュー「私的日本SF創世記」(聞き手:日下三蔵
 いわゆる日本SF第一世代の重鎮が日本SF創世記のエピソードを語る。1時間では当然限界がある中、日下さんの的確な質問と豊田先生のスピーディで分かりやすい返答で次々に貴重なエピソードが飛び出す。やはり仕事が多かった多少常識外れ(?)なところもあるが愛すべき魅力あふれる手塚治虫先生関連エピソードが特に面白かった。鉄腕アトムのアニメで砂糖で敵の歯をボロボロにするエピソードにスポンサーがダメだしをしたために大至急違うエピソードをつくらなければいけなかったなど大変な裏事情があったことも知る。また「発狂した宇宙」など元々社の翻訳SFのシリーズは後に翻訳の問題もいわれたようだが「とにかく他に翻訳SFはなく、非常に有難かった」とおっしゃっていたのが印象的。あと1970年の国際SFシンポジウムの話だろうか、平井和正先生が裏方仕事で御苦労をされていたというのも少し意外だった(作風から一匹<狼>のイメージがあったので)。

4.未来技術とSFの転轍点(出演者:鹿野司大野典宏八代嘉美藤井太洋
 科学に強い四方による最新科学の世界。一般の人々が想定している科学のモラルや規範といった価値判断が、科学技術の進歩と共に既に意味をなさなくなっている現状の話がいろいろ興味深く、「遺伝子組み換え」食品への警戒が強いためモデルとなる植物をシミュレーションしそれに近づけるように交配させていくというややこしいプロセスには考えさせるものがあった。またDIYのバイオ技術が想像以上に安価であることも知った(不勉強ながら)。

合宿(もちろんいずれも参加できたもののみ。スケジュール全体はこちらをご参照のこと)

1コマ目企画部屋2 ラファティの部屋(出演者:松崎健司、坂永雄一、牧眞司
 夜もラファティ。らっぱ亭さんから翻訳された(夜らしい)掌編をいただく(この手はラファティでは珍しいかもしれない)。ありがたやありがたや。いろんな話が出たが坂永さんがtwitterでやり取りをされていたという「ラファティディストピアSF」の話が興味深かった。機械に支配されることを一つのユートピアと解釈するアシモフディストピアとして表現するクラーク、自由意思を重んずるハインライン、身も蓋もなく地獄と解釈するようなあるいはそれだけともいえずとにかく機械も人間も一緒だったりするラファティといったようなお話(不正確で済みません)。2012年刊行の『昔には帰れない』(伊藤典夫編)いくつか既訳の名作が選ばれていない謎についても。

2コマ目 ラファティの部屋で掌編をゲットした我々秘密結社はその勢いでらっぱ亭さんもゲット!拉致監禁し秘密の部屋で『教皇ヒュアキントス』やラファティジーン・ウルフなどについてまったりと秘密の会合を行う。ちょう楽しかった(笑)

3コマ目 スタニスワフ・レムルネサンス(出演:大野典宏牧眞司
 ハヤカワ文庫から再刊される『泰平ヨンの未来学会議』を訳された大野さんの御苦労や映画『コングレス未来会議』(かなりの出来がよいらしい)について。レムの作品の中では情の部分があるために幅広い支持を集めているとされる『ソラリス』だが、果たして本当に情の部分が強い作品なのかどうかという話も出た。これはよく話題に出るが非常に難しい話で、ずるい言い方をしてしまうとその部分が情でも理でも読みとれるように両義的な部分が『ソラリス』の名作たる所以だろう。また大野さんのお話で記憶に残ったのは(ちょっとだけ言及された)レムの小説は細部においても科学的に正確だという点。当ブログ主はそういった部分が疎いのでついつい読み飛ばしてしまうのだが、作家としての信頼度がある理由のような気がした。泰平ヨンの最終作『地球の平和』は出すのが難しいとのことだが読んでみたいなあ(まあまずは未読の『現場検証』を再刊して欲しいが。それからストルガツキー兄弟の著作の話も出て『波が風を消す』が素晴らしいと大野さん。(積んであるから読まないとなあ)。

4コマ目 NW-SF入門~NW-SFって何ですか(出演:新戸雅章高橋良平、永田弘太郎、茅野隼也)
 SFセミナーのスタッフで今回のセミナー中に23歳になるという実に若い茅野さんがニューウェーヴSFそして山野浩一先生が創刊した雑誌NW-SFについて質問するという企画。NW-SFを多く持参した岡和田晃さんも客席からいろいろお話(客席、といってもほぼ車座なんだが)。現在としてはSFの歴史として取り上げられるニューウェーヴSFだが、同時代からみるとその中心とみなされる英国では既存の硬直化したSFを打破する実験をしようという動きがあって次第に運動として実態がともなっていったというようなことのようだった。情報網も今ほどは発達していない時代であり、日本の場合はさらにそれを輸入していくという流れの中で結局中心人物であった<山野浩一流>のニューウェーヴSFという要素があることも意識する必要がありそうだ。そういうわけで必然的に話は山野先生御本人についての話になる。本来は山野先生は文学の人で、自らの創作が「SFというジャンルに近い」とされたためSFを読み始めたら娯楽性が強く下らないものが多くてSFに失望しそこからSFに批判的な評価を下しつつ、新たな世界を切り開く流れをつくろうとしたようだ。カリスマ性がありお金を集めてくるのも上手だったとのこと。批評家体質があり作品を必ず論理的に解析するところがあるが、その理論はあくまでも山野流であったりすることも多く、NW-SFで読書会を続けてもその理論はなかなか理解しにところがあったとのこと。有名な山野vs荒巻論争の話も面白かった。フェアなやりとりであった様子もうかがえ、実は直感的に創作が出来てしまう山野vs小説を書くために『術の小説論』として理論をつくらなければ創作できなかった荒巻という比較の話も興味深かった。それからNW-SFの仲間は登山をしたり将棋や囲碁やマージャンをしていたりというのは何となく知っていたが、サロン的でジュディス・メリル寺山修司も来たりしたとのこと。とにかく多士済々の顔ぶれに会うことができる場だったようだ。以前言及したことがあるが当ブログ主はそれに近い時代に高校生の頃『SFの本』(半商業誌とされていた)という雑誌に出入りしていて、『SFの本』は新戸雅章さん志賀隆生さんの二人を中心に運営されていた。で、(これは『SFの本』が創刊される前のことになるが)『SF論叢』という同人誌のメンバーだった二人は山野先生に会うかどうかで他の同人と揉め(当時、山野先生はSFに対する厳しい姿勢があり批判も受けていた)、結局二人は山野先生に会い山野先生に気に入られNW-SFと行動を共にすることになったという話が今回出ていた。というわけで当ブログ主がお世話になった新戸さん志賀さんのお二人の『SFの本』の前の時代を知ることができ、個人的に大変大きな収穫だった。


 さてセミナー明けて時間があり、SF友達の皆さんと朝食をご一緒したり目黒の庭園美術館のマスク展へ行ったり。これがいずれも個性的な造型で大変イマジネーションをかき立てられる展覧会で面白かった。さらにランチでまたまた本やらSFセミナーやらその他もろもろのお話をして楽しい時間を過ごす。
 今回もプロアマを問わずいろんな方、初対面の方いろんなお話をさせていただいて日常の雑事を忘れて楽しく過ごすことができ、本当に皆さまに感謝感謝。またどこかで!