異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

渋谷シネマヴェーラで『ドクトル・マブゼ』を観てきた

渋谷シネマヴェーラで古い名作映画を上映しているが、名のみ知っていた『ドクトル・マブゼ』を観てきた。
ドクトル・マブゼというと80年代音楽育ちにはこれかな(ピーター・バラカンのポッパーズMTVでよく放送されていたな)。

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今観ると映画『M』のパロディとか入ってんのね。
 というわけでその元ネタ本物の方。予備知識ゼロで観たのだが、やっぱり凄い。『ドクトル・マブゼ 第一部:大賭博師篇』と『ドクトル・マブゼ 第二部:犯罪地獄篇』の二本立てで計4時間超えでサイレント映画見慣れていないので少々きついところもあったがなるほどこれは名作。
 変装の達人で催眠術を操るマブゼ博士の悪事の数々とそれを追う検事フォン・ヴェンクの姿が描かれる話(この二本でセットで完結しており、続き話になっている)だが、1922年の作でウィキを読むとドイツの第一次大戦後の頽廃が背景にあるらしく、なるほど画面の端々に演出を超えた虚ろで気だるいが映し出されている。そうした時代に水を得た魚の様に暗躍する絶対的悪のマブゼ博士の何と生き生きとしていることか。舞台を使った大魔術や文字を使ったユニークな表現やおどおどろしい悪夢などなど当時としては驚くほど斬新で今でもインパクトのある特殊効果に目を見張らされるが、より印象に残ったのはは美術で、アフリカの面や前衛芸術などが多く使われ(トルド伯爵宅など)、禍々しくエネルギッシュなマブゼ博士の力を暗に誇示しているかの様にも感じられた(また最終的にはそれに自ら呑み込まれてしまう様にも)。
 サイレント映画の字幕が入るテンポがつかめず(音楽も現在と異なっていて例えば緊迫した場面らしくない音楽がかかっているように感じられたりする)長丁場だけに正直時に集中力を失ったりもしたし、ボートのくだりとかウィキにも書かれている様にちらほら矛盾のある場面(あるいは説明不足な場面)もあるが、古典的な探偵物の楽しい面と混迷の時代を背景に人間の暗部を深く抉ったシリアスな面が融合した名作でいつか機会があれば観直したい名作だと思う。
 ところで途中「表現主義は(いろいろ意見はあるが)まあ娯楽さ。娯楽ということで、ではポーカーをしようではないか」(大意)といった台詞があってちょっと面白かった。どれくらいの意味がこめられているのかは分からないけど。