読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん

『白き日旅立てば不死』 荒巻義雄

読書(日本SF)

ご覧のように古書の方を読んでの感想です。

「ある晴れた日のウィーンは森の中にたたずむ」の長篇版という認識だったが、大分印象が違う。「ある晴れた~」は主人公と宿命の女ソフィーとの関係がルーレットによる確率性に翻弄され幻想的に歪んでいくウィーンが美しい小説で以前オールタイムベストSF日本短篇の1位にも選んだ(http://d.hatena.ne.jp/funkenstein/20060516)大好きな作品だが、本書ではその話を回想する狂気に陥った主人公白樹と見守る女医や友人らと彼女たちと関係(そこには若くして自殺した同級生の少女の話も登場する)、サドの小説をモチーフにした中世的秘術の世界、主人公の幻想体験についてのSF的解釈などが絡み合って複雑な構造になっている。「ある晴れた日~」は確率をあやつりギャンブルで金を得て空虚な心を抱えながら西ヨーロッパの都市を旅していく主人公がそれまでの日本SFにはみられないタイプで強く印象に残った。基本的には「ある晴れた日~」を元にしている本書でもそういった場面は数多く見られるが、むしろ白樹の少年時代の自殺した少女とのエピソードが胸を打つ(それもそのはず著者の実体験に基づいているようでさらに渡辺淳一とも関わりがあるらしい。知らなかった)。様々な要素は決して明解に関連付けられている訳ではなく、SF解釈も全体を統合するものではなく一種思考実験的に挿入されている趣で、終盤の主人公達の意外な関係が明らかになるもののそれすら一元的に還元されず、むしろより多様に解釈されうるエピソードのように思える。まさにメタSF。うーん、結局現在刊行中の全集の方が欲しくなってしまったなあ(笑)。
 それにしても(解説で鏡明が書いている全般に及ぶ<白>の描写もそうだが)、ヨーロッパでも日本でも冬の描写が際立つ。凍てついた空気は時を止める不死を呼び起こす何かがあるのだろうか。