異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

『みずは無間』 六冬和生

みずは無間 (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)

復活したSF作家の登竜門ハヤカワSFコンテスト第1回の大賞受賞作。
平凡な理系大学生である雨野透の人格が転写されたAIを搭載した無人探査機が宇宙を旅していく話。寂しい宇宙空間でまれに起こる他のAIとのコンタクトや退屈しのぎに行った一人遊びが気が遠くなるような時の流れの中で思わぬ出来事を巻き起こす。
(以下多少展開にふれます)

 みずはむげん、というタイトルの読み方でこのみずはというのが雨野透の依存体質の彼女で過食症になりどんどん悪化していく思い出が何度もフラッシュバックする。退屈しのぎに作った人工生命が長い時の間に暴走し、自らの強迫観念であるみずはが宇宙自体を脅かすという様な話で、結局他者や他者との関係についてはあまり登場せず、(みずはも自らの中でのイメージであり)自分で宇宙がいっぱいになり破滅していくような話で「自らを呑み込む蛇」がキイイメージとして出てくるところがコアなのではないかと感じた。
 新鮮なアイディアとシチュエーションで、実際SFマガジンに掲載された第1部は面白く読んだ。しかしその後に話がエスカレートしていく割には文章にスピード感が増す印象は無くやや淡泊で、また断片的に目を引くアイディアや表現が出てくるものの(こちらがコンピュータ用語などに弱いせいもあり)それがイメージとしてダイレクトに伝わって来ない気がした。みずはのキャラクターには怖さがあるので、ドロドロになったみずはが雨野に襲いかかるような身体的にぞわっと訴えかけるような描き方が入ったりするとまた違ったのではないかなあ。