異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

『聚楽 太閤の錬金窟(グロッタ)』 宇月原晴明

聚楽―太閤の錬金窟(グロッタ) (新潮文庫)

元々あまり歴史に強くないのだが、NHK軍師官兵衛を観ていてその頃の人物関係に多少知識がついてきて、あの時代を背景にした小説が前より楽しめそうだなあと思っていたら古書市山田風太郎『妖説太閤記』とこの本が並んでいて、いそいそと購入。

「秀吉の天下統一もなって数年。「殺生関白」秀次は、異端の伴天連ポステルと聚楽第に巨大な錬金窟を作りあげ、夜ごとの秘儀を繰り広げていた。京洛の地下に隠された謎をめぐって暗躍する家康・三成らの諸侯、蜂須賀党・服部党の乱破、イエズス会異端審問組織「主の鉄槌」。秀吉が頑なに守る秘密、そして秀次の企みとは?権力の野望に魅せられた男たちの狂気を描く、オカルト満艦飾の戦国絵巻。」

 『信長 あるいは戴冠せるアンドロギュノス』も傑作だったが本書も抜群に面白い。富と権力を持て余した秀吉晩年の頽廃的な時代を背景に、贅の限りをつくした御屋敷の地下で繰り広げられる夜毎の秘儀、ジャンヌ・ダルクやジル・ド・レに異端審問・錬金術と随所に埋め込まれ共鳴する中世ヨーロッパ、権力者たちの様々なインモラルな関係などなど、幾多の禍々しくも妖しい魅力あふれるイメージが炸裂し実に伝記小説らしい魅力たっぷりの作品だった。背景となる歴史史料が興味深く、それが伏線として鮮やかに回収され、しかも全体のアイディアは豪快で一大妄想絵巻として完結するところが素晴らしい。また無常なる世に天下人の侘しさが残るエンディングもいい。きらびやかで色彩豊かな描写も鮮やかで、特にタイトル通り横溢する金が作品を印象深いものにしている。またキリシタン関連の用語を中心に漢字とルビを駆使した表現でエキゾティズムを喚起していくところにも唸らせられる。やっぱり言語の力が想像力を駆り立てるのだなあ。SF的想像力が爆発する半村良や無常感と裏腹の強烈な馬鹿馬鹿しさの山田風太郎忍法帖に比べると、しれっとした文章でとんでもない大法螺を吹かすのがこの作家の持ち味であるような気がしてそこがなんとも可笑しい。中盤で法衣を来た伴天連が巨大ロボットと立ち回りをするシーンなどは最高である(いやホントなんだってば)。
 これを大河ドラマでやればいいのになあ<無理です