異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

SFマガジン 2014年12月号<R・A・ラファティ 生誕100年記念特集>

S-Fマガジン 2014年 12月号 [雑誌]

予想をはるかに上回る大充実の特集だったので書影も大きくしてみた(笑)
 誰でも楽しめるめちゃくちゃ面白い『九百人のお祖母さん』や名作短篇で不動のユーモアSF作家の位置を築きあげた一方で、人を人とも思わぬ残酷さと底知れぬ深淵さと放り投げた様な印象すらある展開で読解の困難さをあわせ持ち、なかなか幅広い支持を得にくかった印象のあるラファティだが(かくいう自分もまだ読みにくさを感じているというのが本音)、熱烈な愛好者(秘密結社)の粘り強い努力により翻訳作品は少しずつ増し、ここにSFマガジンの個人作家特集としては稀に見るほどの充実ぶりのラファティ特集がお目見えしたのである。
(と、いうことで特集関連のものだけへの感想です)

まずは三つの短篇
「聖ポリアンダー祭前夜」 アウストラロピテクスのアウストロが出てくるシリーズ。芸術論についての会話やらお芝居なんかしているうちにとんてもないことがー。訳者(柳下毅一郎氏)らしいアブナい作品で、これまたわけの分からなさもすごい。『第四の館』に通じるところもある(という辺りで読んだアリバイとしておこう・・・)
「その曲しか吹けないーあるいは、えーと欠けてる要素っていったい全体何だったわけ?」 こちらは変ながらも若者四人がいろいろと修練を積んでいく話・・・と思いきや終盤にくらうおいてきぼり感。このオチはどうとればいいんだ?そのまんまなのかおい?
「カブリート」 以前からネット上でやり取りをさせていただいているらっぱ亭さんのSFマガジンデビュー翻訳!パチパチパチパチ~。居酒屋で話していた二人は旨いカブリートを食いに行く。これは親しみやすい。ただチラッチラッと得体の知れなさがのぞくんだよねー。生霊とか。

 翻訳のエッセイやレビューでは、ラファティのSF論「SFのかたち」が割合と正攻法にSFについての考え方を語っていて発見があった。インタビューは作品を思わせる独特な言い回しで難しい面があるが、ところどころラファティが大事にしている要素を垣間見せるところがありそこが良かった。井上央氏の貴重な書簡も興味深い。 
 未訳長篇全部、未訳短篇の紹介としっかりとスペースが取られていてあまり熱心にラファティ情報を集めていなかった自分には非常に有難かった。また翻訳全短篇紹介(坂永雄一氏)は短篇集毎ではなくなんとテーマ別というか種類別で読書の手掛かりを与えてくれるものでこれも素晴らしい。近年増えた翻訳長篇のまとまった紹介も助かる。
 若島、柳下、山形、牧氏らの安定した評論もいつも通り非常に示唆に富んだものだが、山本雅浩氏(牧氏の特集解説を読んで『イースターワインに到着』を確認したら大森望氏の解説にたしかに山本雅浩氏の同人誌の文が引用されていた)の「ラファティのモノカタリ」が古典文学やいろいろと比較をしたりという読み解きのあれこれがプロセスと共に非常に面白かった。
 ラファティは深いのう。