異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

『フィーメール・マン』 ジョアンナ・ラス

フィーメール・マン (1981年) (サンリオSF文庫)=フィーメール・マン

 数年前に初読、久しぶりに再読。
 
 基本的には並行世界ものと言えるだろうか。ラジカルに男性原理を糾弾する内容でSF史に残る作品だが、その強烈なメッセージ性以前にニューウェーヴSFの時代らしく断章形式や箇条書きなど実験的な形式が多用されるなど必ずしも読みやすいとは言えない。読みやすくない理由は(同じJの頭文字を持つ著者の分身と思われる)主人公たちジーニイン(1930年代の大恐慌が続き第二次大戦が起こらなかった世界)、ジャネット(女性だけのユートピア“ホワイルアウェイ”がある世界)、ジョアンナ(現代アメリカとほぼ同じ世界)、ジェイル(第四の人格)それぞれの話が語られ、それらがいずれも性差問題を扱った並行世界の話なので重なる部分と異なる部分があって読む側には錯綜して感じられてしまうこともある。またそれぞれの世界の俯瞰的な様相は断片的に挿入されるのみで、個の視点から男性原理により抑圧された女性たちの苦悩が主に描かれることも全体の把握という意味では難しくしている様に思われる。
 しかしこうした分かりにくさというのも著者が意図してのものだろう。たとえば社会学的SFの多くにみられる俯瞰的な視点はともするとエリート主義的になることで個の問題を軽視されがちになる。これまで男性原理に支配されていた表現を根本的に見直し、新たな表現方法を作りだすのだという気概が作品全体に満ちあふれている。当時としてはSFに性表現を用いたことも斬新であっただろうし、性転換者やWASP批判的なエピソードなども登場し男性原理を考察する上で幅広い思考実験を行っているところもみられる。
 1975年作で6年後の1981年にサンリオSF文庫から出版され、内容を考えればそれなりに早い段階で紹介されているのも素晴らしいことだ。新しい言葉で新しいテーマを語るんだという熱さが魅力であり、けっして読みやすくはないがSFの歴史の一頁を飾る重要な作品と評価されるのもよく分かる。