異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん

SFファン交流会゛徹底解剖! サンリオSF文庫”に参加してきた

 毎月行われているSFファンの集まりSFファン交流会。プロの方々や様々な読書好きの方々が中身の濃いお話をフランクにたっぷりしていただける楽しい場で、時々参加させていただいている(若い方も結構多い)。今回は『サンリオSF文庫総解説』(以下『総解説』)が出版されたことからサンリオSF文庫の特集だっ!という訳でいそいそと会場へ(本当は世田谷文学館の日本SF展見てきてからというSF三昧の日だったんだけど、そっちはまた別の記事で)。
いちおう知らない方のためにサンリオSF文庫について。なぜかキティちゃんでお馴染みサンリオから突如刊行されたSF文庫で1978年から87年まで刊行され、イギリスやフランスのSFに女性作家のSF(ジェンダーをテーマにしたものも多かった)に前衛文学作品などなど当時翻訳SF出版の中心だった早川書房東京創元社とは全く異なるラインナップでちょっとトガった(気持になりたい)当時中学生だったブログ主には、(他の文庫より少し高い値段設定ときれいな表紙と共に)憧れの文庫だったのである。一方で(ちょっと強調され過ぎたようだが)ひどい翻訳があったり、どうでもいい娯楽作や謎チョイスの地味作品も並び、評価の分かれる文庫でもあった。その上突然の休刊で一時期異常な古書価がつくなど様々な面でインパクトの多い文庫だったのだ。

 今回のゲストは『総解説』の編者と執筆者から、大森望さん(翻訳家)、牧眞司さん(SF研究家)、浜本茂さん(本の雑誌社)、高橋良平さん(SF評論家)、渡辺英樹さん(SFレビュアー)、橋本輝幸さん(SFレビュアー)、姫榊楓(ひさかき・かえで)さん(東京大学新月お茶の会)なのだが、執筆者は他にも多くおられ、最初は聞き手として座っていた方々も次々とお話された。というわけで、例によって断片的にメモ的に備忘録として書きとめます(間違い等ありましたら御容赦&御指摘を)。

 まずいきなり増刷が決まったという報告があり場内に驚きの声が上がり、なぜ売れたのかや休刊後30年近く経てどうして企画されたかというお話など。
大森さん「(全てを紹介するのに)ちょうどいい冊数(197冊)。90年代にやればもっと売れていた(笑)。ブルータスの特集記事でサンリオSF文庫が扱われていて、先にやられたと思ったのがきっかけ。」(ブルータスの話は『総解説』の「はじめに」にも出てくる)
牧さん「企画を聞いた時やるのはいいがそんなの出して売れるのかと何度も聞いたぐらいだったが、予想が外れた。失礼しました(笑)」
浜本さん「最初大森さんが全部書くのかと思った(笑)」「(読者としてのSFやサンリオSF文庫について聞かれて)昔からSFに興味はあり、サンリオSF文庫も100冊ぐらいは持っている。読んだのは4冊(笑)」
 ここでサンリオの歴史の話が出る。(サンリオは最初山梨シルクセンターという名だったということを初めて知った)
高橋さん「創業者辻信太郎さんは文学活動もしている人で文芸出版にも熱心で山梨シルクセンター時代にも詩集を出していた。出版にお金をかけられなかったので外注する形で編集顧問に山野浩一さんを迎え、当時SFはニューウェーヴの時代で(山野さんが編集長を務めていた)NW-SFのメンバーが翻訳に関わった。翻訳出版の方が作家との交渉が不要で手間が無いというのもあったのでは」(当時については『総解説』の山野浩一インタビューに詳しく出ている)「辻さんは演劇好きでもある。キャラクターも生の舞台をというのがサンリオピューロランド」(驚愕)
 当時若い読者だった方々の受容について。
牧さん「ファンとしては翻訳SF出版暗黒時代。早川からは出ず創元ぐらい。期待が大きかった」
高橋さん「(当時のSF翻訳事情について)翻訳者があまりいなかった。SF自体が高度化し従来の翻訳家の一部が訳せなくなってしまった。」「山野さんは(そうした高度化したSFを)理解出来る人物だった」(ダルコ・スーヴィンの名前も出ていた。当時のSFの研究の雑誌などからある作品が(古典文学への理解が必要になるなど)非常に高度であることが分かってしまうため、一部のSF翻訳家が翻訳自体に尻ごみをしたということらしい)
大森さん「刊行予定作品から期待は非常に大きかった。が、最初の6冊でがっかりした(笑)」
渡辺さん「当時中学3年生でスター・ウォーズブーム。(当時の日記を御持参!)4000円で出たばかりのサンリオSF文庫等を買った記録がある」(たしか『ビッグ・タイム』等を購入されていたとのお話だったが何だったか失念無念。それにしても渡辺さんの日記すごい)
牧さん「(同人誌等で憧れの存在だった)米村秀雄、大野万紀といった人が翻訳を担当し、自分にとってはインディーズのスターがメジャーデビューをした様な喜びがあった」
大森さん「『アオイホノオ』と同じ時代でもある。少年ジャンプ=サンリオSF文庫みたいな(笑) (大森さん御自身含め)安田均・下浦康邦など関西の大学SF研が大きく関わっていた」(下浦康邦さんは学生時代にディレーニ『アプターの宝石』を全訳されたという天才。和算の研究者としても高名で下浦文庫という貴重な史料群も存在するようだ。リンク先にもあるように残念ながら2000年に逝去されている)
牧さん「自分が焔モユルで、天才庵野ヒデアキ=大森望あだち充=水鏡子みたいな気もする(笑)」
 休刊以後にサンリオSF文庫に出会った若い方々の話。
橋本さん「まずラファティイアン・ワトスンにはまって、そこから遡ってサンリオSF文庫がありそこに作品があることを知った。高額で図書館で読んでいった感じ。」
姫榊さん(1992年生まれ執筆者最若手!)「『ハローサマー、グッドバイ』を読んでマイクル・コニイが好きになり、サンリオSF文庫を知った。初めて買ったのは『ラーオ博士のサーカス』」
 文学作品も多く含まれていたことについて。
牧さん「当時既にSF以外で面白いものはないかと考えていたので、特に違和感は無かった」
大森さん「海外文学の本としては文庫だしむしろ安かった」
 (この辺りから会場の他の執筆者もお話に加わる)
山岸真さん(翻訳家)「(刊行開始当時)高校生の夏休みでちょうど海外SFを読み始めた時期。(ニューウェーヴSF色が強いといわれるが)最新のSFが出るのを期待していた感じ」
大森さん「海外文学はお金を出せば買える。イギリスのSFや女性作家のSFが出たというのが特徴。(サンリオSF文庫の)フランスSFは微妙(笑)」
牧さん「正直ウィルヘルムはそんなにすごいかなあと思っている。山野さんは推しているが」
山岸さん「『クルーイストン実験』は当時のSF雑誌の書評でどう評価したらいいかとまどっている感じがあった」
高橋さん「山野さんはジャンルにこだわらず評価をし、そこに良さがある」
北原尚彦さん(作家・奇書コレクター)「他の誰もがやっていなかった作家の書誌を作ろうと思いル・グィンを選んだ思い出がある。サンリオSF文庫の休刊で古書価が急騰したり、書店から本が無くなっていく過程を初めて体験した(笑)」(奇書コレクターとしてお馴染みの北原さんなので山梨シルクセンターの出したギフト用の本やサンリオ山梨シルクセンターという過渡期の表記がついている本とか珍しい本を見せていただいた)
池澤春菜さん(エッセイスト、女優・声優)「父が持っていたので家にあった(笑) 小学生の時に『時は準宝石の螺旋のように』を読み面白かった。(同作を『総解説』でレビューしているが)他にレビューしたいと思ったのは『着飾った捕食家たち』『ジョン・コリア奇談集』『ザ・ベスト・オブ・サキ』など。(サンリオSF文庫の印象を聞かれて)元々活字だったら何でも読むといった感じなので、普段レビューしていると特に差はないが、当たり外れが多い印象がある(笑)例えば他の文庫だったら外れても100点満点で70点ぐらいだなと予想してまずそれぐらい。ところがサンリオSF文庫だと25点ぐらいの作品がある感じ(笑)反対に当たりだと150点の様な作品もある」(どういう作品もフラットに読める、小学生で『時は~』いずれもすごいと思う。ちなみに苦手な作品は『マラフレナ』『マイロン』『氷』『妖精物語からSFへ』)
代島正樹さん(SFコレクター)「サンリオSF文庫はそんなに持っていない。駿台の受験情報に何故かサンリオSF文庫が紹介されていて知った。それまでは古本屋に入ったことが無かった」(コレクターとして知られる方なのでどの話も驚きの声が)
片桐翔造さん(名古屋大学SF研究会OB。この方も20代)「最初に読んだのは『わが名はレジオン』。高校の図書館にもあった。(SF研究会の)部室には揃っていた。部室にはあるが世の中にはないという印象(笑)」

渡辺さん片桐さんからは翻訳関連のシンポジウムもある名古屋SFシンポジウムの紹介もありました。

 自分の記憶になるのはこんなところかな。
 この後さらに二次会にも初参加。牧さん山岸さん渡辺さんなどなどさらにディープで面白い話(そして懐かしい話)で時があっという間に過ぎたのだった。皆さん本当にありがとうございました!

 ちなみにブログ主は持っているのは50冊くらい?読んだのは40冊くらいかな。初めて買ったのは『死の迷宮』で中学1年か2年かなあ。ディックは好きだったのにそれこそ迷宮をさまよう様で退屈で・・・(再読してません)。その後しばらくして読んだ『不安定な時間』も前半は単調でキツかったけど終盤面白くなって好きだった。この一冊というと(後追いで読んで面白かったものではなく)その時代に買って読んだということも含めて『時は準宝石の螺旋のように』かな。正直読み進めるのに時間がかかったけど「スター・ピット」に描かれた悲しみは胸の中に結晶化している。
 再刊された傑作も多くあるが再刊されていないままの傑作を列挙すると容赦ないディッシュの筆が冴えるディストピアSF『334』、成熟した語り部ライバーの幅広いタイプの傑作が堪能できる『バケツ一杯の空気』、怪作という名がふさわしい変格ミステリその名も独特キリル・ボンフィリオリ『深き森は悪魔の匂い』、人々の重苦しい心の機微を見事に切り取るウィルヘルムの『クルーイストン実験』『杜松の時』辺りだろうか。
 
うーんいろいろ集めたくなってきたぞ。楽しい楽しい耳の毒であった(笑)