異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

<ヴァロットン展>@三菱一号館美術館

 展覧会の<貞節なシュザンヌ>のポスターが印象的で観たいなー、と思っていたら先日テレビ東京の「美の巨人たち」に<ボール>が取り上げられていて番組も面白かったので観てきた。
→ http://mimt.jp/vallotton/midokoro.html
 近年俄かに注目度の高まった謎の画家、なんて「美の巨人たち」でやっていてそういうのはついつい興味をそそられるよね。思っていたより沢山の作品が展示されていて、版画と油絵が並ぶがタイプとしても古典絵画的なものから抽象画に近いものまで幅広く、題材も風景・静物・裸婦・神話のパロディなどなどいろいろでその辺りも位置づけの定まらなかったところなのかなあと少し思った。
 基本的に技巧の優れた画家で、切れ味の鋭い線は非常に現代的に感じられ時代を超越しているが、色がまた素晴らしい。男女の葛藤を描いたり都会の生活を切り取ったりユニークな版画の造型は実に魅力あふれるものだが、やはり色遣いの見事さに惹かれてしまうなあ。一見斬新なタイプには見えないのだがどの色も滑らかでバランスが良くさりげないが陰影のコントラストが印象に残る。死やエロス(というか男女の葛藤)に魅惑されていたようで、そういったテーマが多いのも惹きつけられる。本人は大画商の娘(しかも未亡人で3人の連れ子あり)と結婚した。いわば訳ありのパトロンを伴侶にする決断をしたような人で、本人は現実主義的な人だったのだろう。もちろん夫婦の葛藤はあったのだろうが、絵にはそんな現実主義者らしい抑制と客観と諦念が現れていて、そこが独特な個性となっている。
 それにしても<ボール>は本当に素晴らしい。子どものパートと大人のいるパートがゆるやかな放物線でセパレートされているのだがそこが鮮やかなコントラストを呈していて、緑と黒の部分が静かに子どもを覆い尽くすようで観ているうちに心がざわざわしてくる。実物は想像より少し小さいかったのだが素晴らしい作品だ。<貞節なシュザンヌ>も闇に光る女性の帽子が妖しくこれも良かった。他にも様々な作品があって、いろいろな切り口がありそうな画家だ。
 初めて行った三菱一号館美術館、2010年に開かれたようだ。1894年に建てられたものを再建したとのことで広くはないものの雰囲気のある素敵な美術館だった。金曜日の夜の美術館というのも初めてだったが、仕事帰りの大人が集まっていて週末の日中とはまた違う落ち着いた雰囲気が心地よかった。また行ってみようかな。

※追記 夜の空が描かれた「月の光」も良かった。黒と金のコントラストが素晴らしい。