異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

『アルファ系衛星の氏族たち』 フィリップ・K・ディック

アルファ系衛星の氏族たち (サンリオSF文庫)

「かつて植民化が企てられ、その後4半世紀にわたって放置されたままのアルファ系衛星には、いまだに地球人が生存していた。アルファ3M2―宇宙系間相互の植民地化という異常で過剰な重圧によって精神の参ってしまった人間のための病院星には、その後、置き去りにされた人々によって文明社会が築かれ、人類は七つの氏族にわかれながら共存している。『火星のタイム・スリップ』『最後から二番目の真実』『シミュラクラ』などと同年に発表された、油ののったSF長編。」

 傑作短篇「スパイはだれだ」に出てくる精神異常者だけが暮らしている星をテーマにした長篇がこれだということで手を伸ばしたが、さすが再刊されてないだけあって何か違う話だぞこれ…(※追記 創元で再刊されてましたね失礼。山岸真さんから御指摘頂きました。多謝!)。
 まず中心にあるのは破綻した夫婦チャックとメアリーの確執で、妻メアリーの方が心理コンサルタントらしくその星に仕事をしに行くことになって、無報酬だから養育費や慰謝料を稼ぐためにもっと利率のいい仕事にしなさいもう弁護士は頼んでいてあんたの見動きはもう取れないんだから、といわれて夫が絶望するみたいなところから話が始まる。「スパイはだれだ」は自分たちの判断力が当てにならないなかで、攻撃を仕掛けてくる謎の敵は誰なのか果たして敵は実在するのかといったサスペンスがスリリングだったんだけど、そうではなくて夫婦の揉め事がいろんな勢力の思惑とからむみたいな話で、しかもいろいろ起こる割に焦点がぼけていて盛り上がりを欠く。
 そんな中でもさすがディック。ディックの作品は細部に必ず強烈な場面があって、この作品では(以下ネタばれなので色を変えます)終盤に精神異常者たちが他人に見せる幻覚を作りだす場面があって火の玉がメアリーに「和解しなさい」ってメッセージを送るというシーンが脈絡なく登場すんだよね。何だよディック人生いろいろあったのか!?自分の信条の吐露か!?ってな気分になるよ読者としてはさ(笑)いやーびっくりした。その後の二人の和解の場面もぎこちなくて無理矢理なオチも含めディックも悩んでたんだなうんうんみたいなことになって苦笑いしたしたとさ。
 なんだかんだいって他のマイナー作品も気になってきた(笑)