異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

映画『マイレージ、マイライフ』テレビ視聴

マイレージ、マイライフ [DVD]

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ジェイソン・ライトマン監督が、ジョージ・クルーニー主演で描いたヒューマンドラマ。リストラ宣告人のライアンは、1,000万マイル達成を目前にしがらみのない人生を楽しんでいた。ある日、彼にふたつの出会いが訪れる。“ハッピー・ザ・ベスト!”。」

 紹介分より引用したが“ハッピー・ザ・ベスト”な映画ではないな。
 NHK-BSでやっていたのを視聴。雇用主に代わってリストラを通告する仕事でアメリカを飛び回る主人公の心の移り変わりを周囲の人々と共に描いている。慢性的な不景気の時代らしい苦い内容で、アメリカにはこんな仕事があるのかなあ。似たような仕事はありそうな気はする。
 ジョージ・クルーニー演じる主人公ライアン・ビンガムは忙しいながらも独身で束縛のない仕事を気に入っていた。マイレージがたまり、いつの日か機長に祝福されることを楽しみにしている。同じような生活スタイルの女性アレックスともカジュアルに交際をしている。そんなある日、会社に大学を出て間もない若いエリートのナタリーが大きな改革案を提案する。通告はモニターで行い、社員は移動をする必要が無くなり経費も負担も無くなるというのだ。これまでのスタイルに自信と喜びを持っていたライアンは反発、結局ナタリーに現場を知ってもらうため教育係として指名されてしまう。
 エリートながら実は古風で信頼関係のある結婚生活を夢見る若い娘ナタリーと束縛されない自由な生活を好むライアンとアレックスの価値観の違いが一つの軸となり、ライアンが妹の結婚や定住を余儀なくされるかもしれないという仕事の変化の予感から次第に心境の変化が芽生えていく。やがてアレックスとの関係も深まり、彼は大きな決断をする。というところまでは割とよく見る話なのだが・・・。(以下ネタバレ)

 


 結局アレックスは子持ちの人妻でその安定した生活を手放すつもりはないことが分かり、ナタリーは仕事の失敗(リストラ通告をした人が自殺をする)から会社を離れ、いったん定住する生活も悪くないと思ったライアンは皮肉なことにこれまでの生活を続けることを余儀なくさせられる。家に押しかけてしまったライアンについてアレックスは気づかない夫にドア越しに「道に迷った人みたい」とごまかす場面があるが、その帰りに夢の1000万マイル達成で機長が祝福にやってくるのだ(実はここの場面まで1000万という数字は伏せてあるのが上手い)。折角の夢が思わぬ侘しさを感じさせることになってしまうのだ。ラストは冒頭と同じく空港の場面となり、また同じような生活になることが示唆される。
 「人生は旅だ」というのは使い古された文句だが、この映画はラストに至ってまさしくそんな話であることが分かる。そしてその旅は自分が続けようと思っても続けられるわけではなく、一方やめようと思ってもやめられるわけでもないものなのだ。しかしそこに救いがないこともない。アレックスとの関係は続くとも思えないが、アレックス自身はライアンを嫌っていないことが描かれているので、何らかの交流はまたあるかもしれない。ナタリーの次の仕事を推薦したのはライアンで、ナタリーも絶望してばかりはいない。いつ果てるともしれず、どこへ行くともしれない旅は、時に人と喜び合い傷つけ合い心に何かを残し続いていくのだ。アメリカの様々な土地の空撮がそれぞれ違った姿でいずれも美しい。全体にリストラという重い内容がジョージ・クルーニーの軽快な伊達男ぶりで上手い具合に中和され、スマートに仕上がっている。傑作だと思う。