異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

『人形の家』 イプセン

人形の家 (岩波文庫)

人形の家 (岩波文庫)

 名作として知られる戯曲。1879年の作品のなのね。
 病気の夫に内緒でよその男から金を工面し、父親からの援助だと夫にいっていた妻。
 作品はその後病気から回復した夫が何も知らないまま幸せな家庭を取り戻しているが、その秘密を知る人物が夫による解雇を取り消してもらおうと妻に近づく、といった場面から始まる。
 家庭に閉じ込められ、男性の都合で本人の人格や意思を抑圧されている女性の自立を主たるテーマとして扱っているといっても良いだろう。夫と妻をはじめ他の登場人物も生き生きと描かれていてそれぞれ存在感があるが、筋立てとしてはさほど目新しいものではない。そういう意味では衝撃性というより歴史的意義という面に多少移行しつつある印象もある。ただ解説によると、この本のモデルとなった女性作家の生涯からヒントを得ているところや、社会運動に傾倒しつつ弾圧が厳しくなるとその後は手を引いてしまったり、意識は高いものの会議で自らの提案が通らなかった場合に激しい調子で女性批判を始めてしまうなど自身の中に矛盾を抱えた人物でもあり、その分なのか例えば夫の描写に真に迫ったものがあったりすることも考えられる。そういった意味では作品というより、本人の方に興味が湧く作家である。