異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

BEST SF2018投票

森下一仁さんのSFガイド恒例BEST SF2018に今年も投票。


『飛ぶ孔雀』山尾悠子 2点
 火が燃えにくくなった世界、という着想が奇抜でそれを現出させる魔術的な手腕に唯一無二の作家であることを思い知らされる。
『竜のグリオールに絵を描いた男』ルーシャス・シェパード 1点
 パーソナルかつ超現実的という両面性が作品に奥行きを与えている。
『半分世界』石川宗生 1点
 ユニークなアイディアに加え意表をつく展開。なんともいえない独特のユーモアがあり、非常に今後に期待を抱かせてくれる。
『文字渦』円城塔 0.5点
 タイポグラフィックによる実験が楽しい作品。
『iPhuck10』ヴィクトール・ペレーヴィン 0.5点
 疫病の拡大で性行為をコントロールされてしまったディストピアが描かれるがそこにロシアのアートシーンが絡んでくるといういい意味で珍奇な作品。
いろいろ読み残しが・・・。まあでもさっき日本SF大賞の結果見たら2作読んでおいたのは良かったな。

TH No.77「夢魔〜闇の世界からの呼び声」 に寄稿しました

アトリエサードから出ているTH No.77「夢魔〜闇の世界からの呼び声」 のTH特選品レビューでルーシャス・シェパード『竜のグリオールに絵を描いた男』、マット・ヘイグ『トム・ハザードの止まらない時間』の紹介を載せていただきました。
(不慣れで今頃ここに書いてる・・・)
個人的には自分がSFについて書いた文章が(リアル)書店に出るのは35年ぶりになる・・・。
人生いろんなことがあるものです(おおげさ)。
恐ろしくも美しいアート写真が並ぶ雑誌なので書店によってはアートのコーナーにあることもあります。よかったら探してみてください。
athird.cart.fc2.com

2019年1月に読んだ本

『ドラゴン・ヴォランの部屋』J・S・レ・ファニュ
「ロバート・アーダ卿の運命」ある人物の呪われた運命が二つの視点から描かれる。話自体の出来もよいが、ジャンルの分化が進んでいない時代の書き方としても興味深い。
「ティローン州のある名家の物語」裕福な男性の元に嫁いだ娘が謎の女に悪意に満ちた言葉を浴びせられる。ニューロティックな味わいは現代的といってもよい。
「ウルトー・ド・レイシー」アイルランドの古城に住む一族の物語。アイルランドの歴史が織り込まれた怪奇趣味寄りとはいえアイリッシュ・ファンタジーといった印象の方が強い。余韻の残る結末も素晴らしく集中ベストと思う。
「ローラ・シルヴァー・ベル」カークばあさんに可愛がられていた少女ローラの物語。残酷童話風の雰囲気が良い。
「ドラゴン・ヴォランの部屋」主人公の青年の周囲で発生したとある部屋での失踪事件がきっかけとなるサスペンス小説で、これも面白い。怪奇幻想小説の重要な要素である描写力に定評のある作家だが、多少細部のつくりこみが甘くても次々エピソードが連なっていく中編小説の筆さばきの方に本領があるのではないかと思うほどだ。
全体に質の高い短編集だった。
ケルトの薄明』W・B・イェイツ
 レ・ファニュのケルト的な要素はどのあたりになるのかと思い、前から積んでいたケルト関係の本からまずこれを読んでみた。アイルランドでは妖精のような存在が身近な存在でその良い面を伝えているというような点が興味深かった(一方でスコットランド人はそういった面を歪めているとディスられている。「34 幽霊や妖精の性質を歪めたスコットランド人への苦情」にそれがあるが、タイトル書き写したらかなり直接的なタイトルだった(苦笑)全体として包括的なケルト文化論となっているわかではなく断片的な記録だが、イエイツ自体が150年以上前に生まれた人であり、貴重な情報である。
『不気味な物語』グラビンスキ
 集中ベスト3に「弔いの鐘」「視線」「情熱」を選んだがプレゼント抽選外れちった・・・(詳細は感想はいずれ)。
『終の住処 』磯崎憲一郎
 表題作はとある夫婦の結婚生活の変遷を夫の視点から綴ったものだがどこか感覚の欠落した記述が非常に滑らかに巧みに描かれていているところが見事だった。一方「ペナント」は一読では手がかりがつかめなかった。再読したい。
『海街diary9 行ってくる』吉田秋生
 ついに最終回を迎えてしまった。収まるところに収まった結末は特に意外なものではないが、鎌倉に転居した頃にスタートした作品は青春時代ストレートに主人公に感情移入していた『河よりも長くゆるやかに』とはまた違った形(今回はどちらかというと中学生たちの親側からの視点)で私的に思い入れの強い作品となった(近年暮らしている鎌倉の現在の映像記録となる映画もあったしね)。吉田秋生という漫画家に同時代に神奈川県出身者(そして生活者)として出会えた喜びをしみじみ感じている。

 

 

2019年1月に観た映画など

「ど根性物語 銭の踊り」(1964年)(TV視聴)
 若かりし勝新がその腕っぷしと気っぷの良さから正義のための殺し屋(現代の必殺仕事人)として闇の組織にヘッドハントされるという、なんとノワールもの。とはいえ、闇の組織はあっさり親分ともめ始めるし勝新らしい人懐っこさもあったりややゆるめというかちょっと不思議な味わいの作品。マッドサイエンティスト風の船越英二やカラっとした魅力のヒロイン江利チエミがなかなかいい。
ノスタルジア」(1983年)(TV視聴).
 タルコフスキーのカメラワークすごいなとぼんやり観ていたら、あれなんか記憶と違う・・・。と思ったら、『サクリファイス』と混同していたことに気づいた・・・(集中力の低下酷し)。また観直さないとな・・・。
「処刑ライダー」(1986年)(TV視聴)
 チャーリー・シーン主演、タイトル通りのB級カー・アクション映画。適度なユルさで憎めなさがある。
満島ひかり×江戸川乱歩
 NHK-BS年末年始恒例、乱歩by満島ひかり(とはいえ第2弾は見逃していたなあ)。「お勢登場」「算盤が恋を語る話」「人でなしの恋」の3本。どれも面白かったが「人でなしの恋」がなかなか怖くて良かったな。「お勢登場」の変な選曲はそれほど笑えなかったが。
www.cinra.net
※追記 劇場で観た映画の記録忘れてた・・・。
イカリエ XB-1」(1963年)
2001年宇宙の旅」にも先駆けていたという伝説のチェコスロバキアSF映画。科学技術への期待と不安が混ざりつつ新しい映画を作ろうとする時代背景が感じられる内容だが、(今となっては)眩しい情熱がプリミティブな映像技術とあいまってどちらかといえば衝撃というよりチャーミングさが光る作品だった。
「DVドメスティック・バイオレンス」(2001年)
興味はあるがなかなか予定が合わなくて観ることができないフレデリック・ワイズマン映画。先日ようやく観たのが「エッセネ派」で悪くなかったが、やや短かったので今回ようやくフル体験した感じだ。なんというか、ワンコードで次第に盛り上がっていくファンクのような味わいで序盤は退屈に思えるんだけどだんだんいろんな細部がつながってグルーヴを生み出すようなところがある気がした。こうしたパターンだと長くならざるを得ないかなあ。まだ2本しか観てないけど。もうちょっと観ないといかんなあ。

<由紀さおり 50周年記念公演>を観てきた

ちょっときっかけがあって、さる1月11日に観てきた。
www.meijiza.co.jp

もちろんこうしたいわゆる歌謡ショウは初めてである。かろうじて一番近いのは2013年の浅草公会堂の<横山剣 大座長公演>か。

さすがにお客さんはかなりの高年齢層(笑)。
明治座はちょっと変わったつくりになっていて、1階は入り口のみで2階もラウンジがメインで3階から5階が客席。
3階(客席としては1階席にあたる)の売店がえらく活気がある。人形焼きとか漬物とか売っていて(もちろん由紀さおりをはじめとする出演者のCDも売ってる)、そこでお土産を買うのがお客さんの楽しみなのだろう。
第一部は1960年代を舞台にしたお芝居。前回の東京オリンピック前あたりか。由紀さおり演じる下町の食堂の女将さんをめぐってのオトナの三角関係を軸とした人情喜劇である。三波伸介中村メイコNHKの「お笑いオンステージ」でやっていた「てんぷく笑劇場」とかのアレである(といっても50代以上にしかわからんだろうが・・・)。とはいえ細部は今の時代らしくところどころベタさがやわらげられているところはさすがにちゃんと考えているのねえという感じがした。古い有名な映画の台詞を多く使っているところ、映画の斜陽がはじまったちょっぴり寂しさとか映画の思い出みたいなものがメインに据えられているところが客層のニーズなのだろうなとか思ったり、伊勢湾台風でひどい目に合うといったエピソードがあったりするところの時代背景とかなるほどと思ったり、こちらも年の功ですんなり楽しめてしまう。
さてそのあといよいよお待ちかねの歌のステージである。
第二部はベイビー・ブーというコーラス・グループ(歌声喫茶からの叩き上げらしく、今も歌声喫茶が機能しているらしい!)とのコラボ。自身の曲、スタンダードや青春歌謡のカヴァーと軽々とこなし年齢を全く感じさせない。やっぱりitunes全米ジャズ・チャートで1位にも入った「1969」にも収められている「真夜中のボサ・ノヴァ」が良かったかな。多少アレンジは違うがようつべっとく。

youtu.be
第三部では三人の若手イケメン歌手パク・ジュニョン山本譲二の弟子)、川上大輔(声が高いというのが売りで森進一っぽい)、中澤卓也(のど自慢出身、2017年デビューの最若手)が登場し、それぞれに熱心なファンがついていて歓声が上がっていた。後進を育てるという重要な場なのだろうなあということがよくわかる(慣れていないものだからこの3人の曲が続いて、これから知らない人ばかりになったらどうしようかと若干不安になったのも事実だが(笑)。
ちゃんと「夜明けのスキャット」やったのには立派だなと思った。山下達郎が「(オタクのファンはいろいろいうだろうけど)一生に一回しか僕のコンサートを観ない人もいるはずだから、必ずクリスマスイブは歌います」といっていたのが印象に残っていて、同じ考えではないかという気がする(まあ予想を裏切り続けるボブ・ディランのようなやり方が悪いわけではなく、そこはタイプの問題だろう)。
一方で最後の曲は「あなたにとって」というアンジェラ・アキの曲で、今回新譜は若い世代に自分の歌がどう受け取られるかということを考え、年若い世代にオファーを出してできた曲の一つだそうだ。これを由紀さおりのコンサートの最後に皆で歌うような曲にしていきたいとつくったというアンジェラ・アキのやる気もすごいがそれを実際に50周年記念公演で最後に歌う由紀さおりのチャレンジ精神もすごいなと思った(まあ別にアンジェラ・アキが好きというわけではないのだが)。長年歌謡の世界で一線で活躍してきた人というのはこういう人なのだろう。
さて由紀さおりがどういう歌手なのかということで、印象に残ったシーンがあった。自らのキャリアを振り返る上で影響を受けた歌手として越路吹雪美空ひばりを挙げていた。つまりシャンソンの洋風な都会性と第一部の芝居のような庶民性をあわせ持っている、それがこの人の稀有なタレント性なのだ。世界的なヒットを飛ばしたのも音を通じてリスナーがその個性を感じ取ったのに違いない。(「りんご追分」で間違ったところを堂々とやり直した落ち着きぶりも伊達ではないとも思ったが)