異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

Live Wire <SF既知外空間(アンノウンスペース)#2 ゲスト・丸屋九兵衛>参加してきた

ディープなSFトークイベントを仕掛けるLive Wire、気鋭のサックスプレイヤーかつSFやアニメにも造詣の深い吉田隆一さんが丸屋九兵衛さんを迎える企画。副題に
“『丸屋九兵衛が選ぶ、ジョージ・クリントンとPファンク軍団の決めゼリフ』発売記念 SFコンセプトアルバム大進撃 Pファンクvsサン・ラ”(タイトル長っ!)
ということで、これは見逃せないということで参加してきた。
案の定というか期待通りというか多方面に話が目まぐるしく行き来するトークになり最高だった。ということでとてもまとめられないので出た話題の羅列。※印がブログ主の感想。(P-funk系の話題はこれまでのブログと重なるところがあり、あえて少なめにまとめ。備忘録なので悪しからず)
〇少女漫画 丸屋氏によると成田美名子『Cipher』には80年代ブラックミュージックに著者がハマっていく過程が現れていて注目だとか(※追記 さらに加速していたのが『ALEXANDRITE』らしい。1/25 dommuneから)フィッシュボーンっぽいバンドまで出てくるらしい。(※他にもすごく盛り上がったがいかんせんブログ主が予備知識に欠ける分野なので)
○戦闘機 『謎の円盤UFO』における連続ミサイル攻撃の不可能性についての熱いディスカッション(※すいませんここも詳しくないのでこんな表現で)。他マクロスの話題も。
〇UFO P-funk的にはUniversal Funk Object。吉田さんによる福島の<UFOふれあい館>の紹介(笑)
〇ヒロイックファンタジー愛 お二方とも『エルリック』大好き。今後ムアコックエルリック特集のトークの可能性への期待も高まる。
〇ハッパ 常に吸っていたくて煙を充満させたいSnoop vs 成分を少しも漏らしたくないため特性ガスマスク(?)をしながら吸っていた人(※ヤバいのでこんな表現で許してください(笑)
〇ブラックミュージック 
 ・マイルス・デイヴィスがそれまで否定していたオーネット・コールマンを評価して作られたのが『On the Corner』(知らなかった)。
エヴァンゲリオンの猫背とマイルス・デイビス並み(笑)
デューク・エリントンの「Black and Tan Fantasy」はより肌の色が薄い黒人を望ましいとする<白い黒人>指向への諷刺作品。(デューク・エリントンもしっかり聴いてみたいんだがどっから手をつけていいか分からないんだよなー。少しずつ聴いていみよう)
 ・ブーツィーのラドン映像入りの「Party on Plastic」を皆で観た。(※これは夢が実現した感あり。個人的には今回のハイライト)
 ・パーラメント「Funkentelechy」のPeck me lightly like a woodpecker with a headache(頭痛持ちのキツツキみたいに軽く俺をつついてみろよ)はエリック・サティ「歯の痛いナイチンゲール」から?(※ジョージ・クリントンの歌詞はあらゆるところから引っ張ってきている感じが凄いな)
 ・ポピュラー文化翻訳での英語力の乏しさについて(具体名あり)。丸屋さんによると英語力に加え幅広い文化的知識やジョークへの理解力いずれも必要とのことだ。
○声に出したい言葉 マハビシュヌ・オーケストラ!デオキシリボ核酸!(などなど)

 お二人とも初めての対談とのことで、多少探り合う部分もあったようだが、コート一面隅々まで使ってラリーするトップレベルのテニスプレイヤーのようで、どんな球も鮮やかに打ち返していた。懇親会にも参加して、楽しいお話を聞かせていただいて最高であった。またお二人の顔合わせに大いに期待したい。

12月に読んだ本

あけましておめでとうございます。
備忘録以上の内容ができるめどがまだ立っていませんが、まあとにかくだらだらとは続けようとしておるブログでございます。
おつき合いいただければ幸いでございます。

さて12月に読んだ本の羅列。
『宇宙探偵マグナス・リドルフ』ジャック・ヴァンス 老人かと思って侮ってると・・・みたいな人を食った設定がヴァンスらしい。ともかく解説にもあるように類い稀な異世界描写能力にユーモアミステリの要素が加わったヴァンスの中短編はファンには堪らないものがある。最高。

『たたり』シャーリー・ジャクスン 『丘の屋敷』のタイトルでも知られる著名な作品。意外なことにオーソドックスな屋敷ものホラーの図式が踏襲される前半から次第に作者らしい妄念に囚われた人物がフォーカスされるところがなんとも恐ろしい。変なマーダーバラッドみたいなのが登場するが元ネタはあるのかな。作品の謎に言及し作者の狙いを考察した解説も面白かった。ついつい独特な空気感ばかりを強調してしまいがちだが、意外にテクニカルな面も見逃せないのかもしれない。が、終盤のバタバタと話が片付いていく辺り(序盤に出てこなかった登場人物たちで展開していく)はあまり計算されているとも思えないところもあってなんとも独特で、序盤に歪んだ家の描写があるがまさに作品全体が歪んでいるところにこの人の持ち味がある。

『奥の部屋』ロバート・エイクマン じわじわと忍び寄る恐怖の表現が巧みだが、同時にどことなく寂しさを感じさせるところがどの作品にも感じられる。どれも傑作だが、「学友」「何と冷たい小さな君の手よ」「スタア来臨」が良かった。

この世界の片隅に』上・中・下 こうの史代 映画版の表現の豊かさに驚かされて、原作も読んでみた。たしかに原作には映画版にない部分があって、本質的に異なる要素があるのは否定できない。ただメディアの違いもあってどうすべきだったのかについては難しい。とにかく素晴らしい原作があっての映画であるのは間違いなく、漫画表現の奥深さを思い知らせる名作である。

『麻薬書簡』ウィリアム・バロウズ 表紙にはギンズバーグの名があるが、前(上)にきているのがバロウズようにメインはバロウズ。なのでちょっとギンズバーグのことを知りたくて読んだので多少がっかり。バロウズにさほど明るくない状態では書簡ものはまだ早かったか、細部に発見もあったが全体としてはちょっとピンとこなかった。

『ゲイルズバーグの春を愛す』ジャック・フィニイ 描写のうまさが素晴らしくノスタルジックな短篇がやはり持ち味だとあらためて思うが、一番印象に残ったのは売れない作家の悲しみが描かれた「おい、こっちをむけ!」。作家の生の声がそこにある。フィニイは大して読んでいないのだがその懐古趣味にはパーソナルなものがあるんじゃないかと勝手な印象を持っていた。が、たとえば舞台はいろんな場所が選ばれているんだよな。ということは単純にパーソナルともいえない気もして、その辺は他の作品を読んでみてまた考えたい。

『丸屋九兵衛が選ぶ、ジョージ・クリントンとPファンク軍団の決めゼリフ』丸屋九兵衛 われらが丸屋氏がP-funkの歌詞世界の魅力をしっかりと解説してくれる、P-funkファンには解読の非常に重要なカギをたくさん与えてくれる大変ありがたい本。Pファンクの底なしのSF/ファンタジー言葉遊びの世界をこれほどまで深く掘り下げた本はないのではないだろうか。いやP-funkファンどころか地球を救うfunkの効能を知るため一家に一冊必携の書であろう。またポピュラー音楽全体でもここまで歌詞を掘り下げて解説したものは珍しく、こうした側面から様々なアーティストへの理解が深まるきっかけになるといいと思う。

George Clinton&PARLIAMENT/FUNKADELIC @Billboardlive東京 11月30日(水)

 当日昼間のサイン会に行けなかつた・・・。前の時のサイン会も平日で行けなかったのに・・・。
 ま、気を取り直して。ライヴはやっぱり最高だった!近年Gary ShiderやBelita Woodsといった核となるベテランたちを失ったなかでも、やはりGeorgeのファンク力は健在で、若手を牽引して強力なGrooveを打ち出してくれたよ!御年75歳だけど丸屋九兵衛さんによるとドラッグやめて元気になったらしいからなあ。ごりごりメタルのDirty Queenをやってみんなどうノっていいかわからなくなってるところとかも無性に可笑しかった。また来てくれ!

2016年11月に読んだ本

SFマガジン2016年 12月号』 短篇など読んでみたので。
ケン・リュウ「シミュラクラ」面白かったが、人の姿を写し取るとかそれに一定の時間を要するところとか家族の話になってるところなど、この間観た「ダゲレオタイプの女」と不思議に重なる。偶然なのだが、写し取ることを執拗に突き詰める人物はどこか共通している気もする
雲南省スー族におけるVR技術の使用例」柴田勝家 この作家の作品を初めて読んだが、非常に面白かった。VRを介してしか現実と接しない種族というアイディアが素晴らしい。
「キャラクター選択」ヒュー・ハウイー ゲームを行う育休中の母親という場面から始まる。ゲームをやらない自分にはいきなりリアリティがないんだよなー(笑) 話も普通。
「ノーレゾ」ジェフ・ヌーン 作者がTwitterで書いている掌編の流れにあるタイプの散文詩っぽい作品。そのTwitterのやつも比較的イメージがはっきりしていて好きなんだけど、これもそういう言葉遊びの延長のテイストで割と好き。細部はよくわからないが。
「あなたの代わりはいない」ニック・ウェルヴェン VRの設定を使って南北戦争時代のニューオリンズを舞台にした作品。まあまあだが、センス的にはこれから期待したいタイプ。
「航空宇宙軍戦略爆撃隊(前)」谷甲州 本筋と全く関係ないが軍人の論文というところがなるほど。
「最強人間は機嫌が悪い」上遠野浩平 最近の上遠野浩平はこんな感じなのか。超能力者ものの系譜になるのかな。
「八尺様サバイバル」宮澤伊織 和風の異界ものでなんとなく電脳コイルを連続させる。4次元とかそういうのは未来人や宇宙人と結びついていたのが第一世代のセンスだったなあとか思ったり。遠野物語がモチーフになっているようだ。
コンテスト抜粋
「ヒュレーの海」黒石迩守
「世界の終わりの壁際で」吉田エン
前者はサイバーパンク風、後者はゲーム小説風なタッチだが、描いてるのはVRっぽいというか割と似ている気がする。まだなんとも。

怪奇小説傑作集1』 新旧しかも幅広いジャンルを網羅する素晴らしい怪奇幻想小説サイト<奇妙な世界の片隅で>のkazuouさんが主催する読書会が先日スタート。参加させていただいて大変楽しかった(会の感想はそのうちブログにアップしたいのだが、時間がなかなか・・・)。で、とりえあず怪奇小説の名作を読まなくてはとなった。こちら2015年の豊崎由美さんと西崎憲さんのイベントで出てきた名作がこの傑作集1に多く登場する。科学とオカルトの狭間のような怪しげな理屈が出てくると部分が好みで(SFファンだからかもしれない)、「幽霊屋敷」や「緑茶」のそういった下りが特に楽しい。あと短めの名作「猿の手」「炎天」などには落語っぽいユーモアも感じられる(語り物にルーツがあるからかもしれない)。

『方舟』しりあがり寿 kazuouさんからいただいてしまった(笑)雨が降り続いて終末が訪れた世界が淡々と描かれる。面白かった。

『ひとめあなたに・・・・・』新井素子 シンプルな破滅ものだということもあるが、文体などほとんど古びていないのですんなり読める。オムニバス長編のような内容で中には結構強烈なエピソードがあったり記憶のフラッシュバックの表現も巧み。執筆時20歳とは驚かされる。鎌倉が登場するものの、さほど描写に重きは置かれておらずローカルSF的な期待は満たされなかった(笑)。

『廃墟の歌声』ジェラルド・カーシュ これも長らく積んでいた一冊。仮死状態で生まれ、長ずるとレスラーなど様々な仕事を転々とし武闘派で体は傷だらけだったという伝説的な人物像もファンを惹きつけてやまない作者はロンドン近郊の生まれのようだが、東欧やウェールズといったいわゆるヨーロッパの中心ではない地域や言語などが題材になったり表舞台から外れた登場人物が扱われるところに特有の雰囲気があり、大きな魅力となっていると思う。

『HERE ヒア』リチャード・マグワイア 固定した視点で(基本的には長く存在した家の一室をとらえている)時間の推移と人間の営みなどを描くグラフィック・ノヴェル。などと書いたのは、時間スケールは地球の黎明期から遥かな未来まで気の遠くなるようなスケールに及び人間の視点すら超えているからである。また様々な時間が混在し、断片的なスケッチに見える一枚一枚が複雑なストーリーの絡み合いを背景に持っていることがわかってくるのだ。いやーこれは凄い手法だ(表紙のようにタッチがエドワード・ホッパーを思わせるのも好み)。さらに驚かされたのはこの作者Liquid LiquidのベーシストつまりGrandmaster FlashがWhite Linesでサンプリングしたのあのベースの演奏者だということだ。いちおうあげとく。まずはWhite Lines(映像はかなり荒いが)。
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元ネタLiquid Liquid "Cavern"(赤いTシャツのベーシストが若かりし頃のリチャード・マグワイアのはず)。
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White LinesはHiphop史を彩る初期の名曲でスタート時点にリチャード・マグワイアが足跡を残しているのは、その後のHiphopの隆盛を思うとこれは偉業といっても過言とは思えない。『HERE』の方もコミック/グラフィック・ノヴェルの世界では衝撃をもって迎えられているようで、ポピュラー音楽とコミックのいずれの世界で革新的な仕事をした稀有な才人といえるだろう。面白く思えるのはこうしたグラフィック・ノヴェルではこの『HERE』系列の作品を残すのみで、音楽の方でも実験的なグループだったこともあり、この"Cavern"が群を抜いて有名だろうし、双方のジャンルで偉大なる一発をぶち上げた人であることだ。おそらく表現というものの本質的なツボをつく感覚を持ち合わせているのだろうが、数多くそうした一発を放てるわけではないということか。非常に興味深い天才である。

『ザ・ベスト・オブ・ジョン・コリア』ジョン・コリア ちくま文庫のものでサンリオSF文庫の『ジョン・コリア奇談集Ⅰ・Ⅱ』から選び直したもののようだ。割と現代的で読みやすい作品が多い印象を受けた。訳者のあとがきでブラック・ユーモアと書いて即座に否定しているように、たしかにちょっと違って例えば意地の悪い感じはさほどない。よく全く人間と変わらない動物が出てきたりして戯画化の要素が強くどこか現実離れしている。もちろんほのぼのするようなユーモアとは程遠く主人公たちにかなりひどいことが起きる。あとがきで「ゾッとするような物すごいことを書いてもユーモラスだし、ユーモラスなことを書いてもゾッとするほど物すごい」という評の言葉が引用されているがこれはなるほどそんな感じもする。また、かなり偏った思考の人物が登場することが多い。その点も合わせ妄念にとらわれたオタク的人物が戯画化されて描かれていることで、現代の表現に相通ずるものががあるように思われる。傑作選であることもあるが、楽しめる作品が多かったのはそのせいかもしれない。

映画『この世界の片隅に』

 11月に劇場で観たのはこれだけ(今後劇場で観られるのは減りそうだなあ。なかなか時間がなくて)
原作漫画未読でなるべく前情報を入れずに観たが、かなりびっくりした。1944年戦局が悪化した呉市で一般の人が暮らす日常が描かれる。何度となくしかも小説・漫画・映画・TVドラマなどなど様々な表現形式で描かれた題材だが、細部のディテールを積み重ねる一方で非現実的な要素をまぎれさせることによってこれまでにない表現をしていて圧倒的だった(ライムスター宇多丸氏は定評のあるラジオ映画評のコーナー「ムーヴィーウォッチメン」でアラン・ムーアの様であると評していた)。緩急のある多彩な表現はアニメーションに疎い自分には、ここまで表現が進化していたのかと感心させられっぱなしだった。柔らかな質感がある絵柄と過酷な日常に現れる小さな幸せが描かれる部分については、ともすれば戦争責任者への批判追求を鈍らせるように感じる人がいても不思議はないが、直線的な表現を回避することによりかえって時代を超えて長く非人間的な戦争という災厄とそれに対する批判を表現する力を持ったように思う。戦争が背景なので、ちょっと映画『アンダーグラウンド』を連想した(観たのはもう5年位前になるのか・・・)。あんなに祝祭的ではないけど、現実離れした要素を盛り込むことによってしか描けない戦争の重い現実を浮かび上がらせる手触りということで。原作漫画の連載では日付を同時進行に合わせていたらしく、とんでもないレヴェルの表現の追求が行われていたことになる。そちらもちゃんと読まないとなあ。