異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

2016年11月に読んだ本

SFマガジン2016年 12月号』 短篇など読んでみたので。
ケン・リュウ「シミュラクラ」面白かったが、人の姿を写し取るとかそれに一定の時間を要するところとか家族の話になってるところなど、この間観た「ダゲレオタイプの女」と不思議に重なる。偶然なのだが、写し取ることを執拗に突き詰める人物はどこか共通している気もする
雲南省スー族におけるVR技術の使用例」柴田勝家 この作家の作品を初めて読んだが、非常に面白かった。VRを介してしか現実と接しない種族というアイディアが素晴らしい。
「キャラクター選択」ヒュー・ハウイー ゲームを行う育休中の母親という場面から始まる。ゲームをやらない自分にはいきなりリアリティがないんだよなー(笑) 話も普通。
「ノーレゾ」ジェフ・ヌーン 作者がTwitterで書いている掌編の流れにあるタイプの散文詩っぽい作品。そのTwitterのやつも比較的イメージがはっきりしていて好きなんだけど、これもそういう言葉遊びの延長のテイストで割と好き。細部はよくわからないが。
「あなたの代わりはいない」ニック・ウェルヴェン VRの設定を使って南北戦争時代のニューオリンズを舞台にした作品。まあまあだが、センス的にはこれから期待したいタイプ。
「航空宇宙軍戦略爆撃隊(前)」谷甲州 本筋と全く関係ないが軍人の論文というところがなるほど。
「最強人間は機嫌が悪い」上遠野浩平 最近の上遠野浩平はこんな感じなのか。超能力者ものの系譜になるのかな。
「八尺様サバイバル」宮澤伊織 和風の異界ものでなんとなく電脳コイルを連続させる。4次元とかそういうのは未来人や宇宙人と結びついていたのが第一世代のセンスだったなあとか思ったり。遠野物語がモチーフになっているようだ。
コンテスト抜粋
「ヒュレーの海」黒石迩守
「世界の終わりの壁際で」吉田エン
前者はサイバーパンク風、後者はゲーム小説風なタッチだが、描いてるのはVRっぽいというか割と似ている気がする。まだなんとも。

怪奇小説傑作集1』 新旧しかも幅広いジャンルを網羅する素晴らしい怪奇幻想小説サイト<奇妙な世界の片隅で>のkazuouさんが主催する読書会が先日スタート。参加させていただいて大変楽しかった(会の感想はそのうちブログにアップしたいのだが、時間がなかなか・・・)。で、とりえあず怪奇小説の名作を読まなくてはとなった。こちら2015年の豊崎由美さんと西崎憲さんのイベントで出てきた名作がこの傑作集1に多く登場する。科学とオカルトの狭間のような怪しげな理屈が出てくると部分が好みで(SFファンだからかもしれない)、「幽霊屋敷」や「緑茶」のそういった下りが特に楽しい。あと短めの名作「猿の手」「炎天」などには落語っぽいユーモアも感じられる(語り物にルーツがあるからかもしれない)。

『方舟』しりあがり寿 kazuouさんからいただいてしまった(笑)雨が降り続いて終末が訪れた世界が淡々と描かれる。面白かった。

『ひとめあなたに・・・・・』新井素子 シンプルな破滅ものだということもあるが、文体などほとんど古びていないのですんなり読める。オムニバス長編のような内容で中には結構強烈なエピソードがあったり記憶のフラッシュバックの表現も巧み。執筆時20歳とは驚かされる。鎌倉が登場するものの、さほど描写に重きは置かれておらずローカルSF的な期待は満たされなかった(笑)。

『廃墟の歌声』ジェラルド・カーシュ これも長らく積んでいた一冊。仮死状態で生まれ、長ずるとレスラーなど様々な仕事を転々とし武闘派で体は傷だらけだったという伝説的な人物像もファンを惹きつけてやまない作者はロンドン近郊の生まれのようだが、東欧やウェールズといったいわゆるヨーロッパの中心ではない地域や言語などが題材になったり表舞台から外れた登場人物が扱われるところに特有の雰囲気があり、大きな魅力となっていると思う。

『HERE ヒア』リチャード・マグワイア 固定した視点で(基本的には長く存在した家の一室をとらえている)時間の推移と人間の営みなどを描くグラフィック・ノヴェル。などと書いたのは、時間スケールは地球の黎明期から遥かな未来まで気の遠くなるようなスケールに及び人間の視点すら超えているからである。また様々な時間が混在し、断片的なスケッチに見える一枚一枚が複雑なストーリーの絡み合いを背景に持っていることがわかってくるのだ。いやーこれは凄い手法だ(表紙のようにタッチがエドワード・ホッパーを思わせるのも好み)。さらに驚かされたのはこの作者Liquid LiquidのベーシストつまりGrandmaster FlashがWhite Linesでサンプリングしたのあのベースの演奏者だということだ。いちおうあげとく。まずはWhite Lines(映像はかなり荒いが)。
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元ネタLiquid Liquid "Cavern"(赤いTシャツのベーシストが若かりし頃のリチャード・マグワイアのはず)。
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White LinesはHiphop史を彩る初期の名曲でスタート時点にリチャード・マグワイアが足跡を残しているのは、その後のHiphopの隆盛を思うとこれは偉業といっても過言とは思えない。『HERE』の方もコミック/グラフィック・ノヴェルの世界では衝撃をもって迎えられているようで、ポピュラー音楽とコミックのいずれの世界で革新的な仕事をした稀有な才人といえるだろう。面白く思えるのはこうしたグラフィック・ノヴェルではこの『HERE』系列の作品を残すのみで、音楽の方でも実験的なグループだったこともあり、この"Cavern"が群を抜いて有名だろうし、双方のジャンルで偉大なる一発をぶち上げた人であることだ。おそらく表現というものの本質的なツボをつく感覚を持ち合わせているのだろうが、数多くそうした一発を放てるわけではないということか。非常に興味深い天才である。

『ザ・ベスト・オブ・ジョン・コリア』ジョン・コリア ちくま文庫のものでサンリオSF文庫の『ジョン・コリア奇談集Ⅰ・Ⅱ』から選び直したもののようだ。割と現代的で読みやすい作品が多い印象を受けた。訳者のあとがきでブラック・ユーモアと書いて即座に否定しているように、たしかにちょっと違って例えば意地の悪い感じはさほどない。よく全く人間と変わらない動物が出てきたりして戯画化の要素が強くどこか現実離れしている。もちろんほのぼのするようなユーモアとは程遠く主人公たちにかなりひどいことが起きる。あとがきで「ゾッとするような物すごいことを書いてもユーモラスだし、ユーモラスなことを書いてもゾッとするほど物すごい」という評の言葉が引用されているがこれはなるほどそんな感じもする。また、かなり偏った思考の人物が登場することが多い。その点も合わせ妄念にとらわれたオタク的人物が戯画化されて描かれていることで、現代の表現に相通ずるものががあるように思われる。傑作選であることもあるが、楽しめる作品が多かったのはそのせいかもしれない。

映画『この世界の片隅に』

 11月に劇場で観たのはこれだけ(今後劇場で観られるのは減りそうだなあ。なかなか時間がなくて)
原作漫画未読でなるべく前情報を入れずに観たが、かなりびっくりした。1944年戦局が悪化した呉市で一般の人が暮らす日常が描かれる。何度となくしかも小説・漫画・映画・TVドラマなどなど様々な表現形式で描かれた題材だが、細部のディテールを積み重ねる一方で非現実的な要素をまぎれさせることによってこれまでにない表現をしていて圧倒的だった(ライムスター宇多丸氏は定評のあるラジオ映画評のコーナー「ムーヴィーウォッチメン」でアラン・ムーアの様であると評していた)。緩急のある多彩な表現はアニメーションに疎い自分には、ここまで表現が進化していたのかと感心させられっぱなしだった。柔らかな質感がある絵柄と過酷な日常に現れる小さな幸せが描かれる部分については、ともすれば戦争責任者への批判追求を鈍らせるように感じる人がいても不思議はないが、直線的な表現を回避することによりかえって時代を超えて長く非人間的な戦争という災厄とそれに対する批判を表現する力を持ったように思う。戦争が背景なので、ちょっと映画『アンダーグラウンド』を連想した(観たのはもう5年位前になるのか・・・)。あんなに祝祭的ではないけど、現実離れした要素を盛り込むことによってしか描けない戦争の重い現実を浮かび上がらせる手触りということで。原作漫画の連載では日付を同時進行に合わせていたらしく、とんでもないレヴェルの表現の追求が行われていたことになる。そちらもちゃんと読まないとなあ。

2016年(11月までに)観たTVドラマなど

落穂拾い的備忘録の続きで、TVドラマ。

リメイク版『ルーツ』 全米で今年放送されたばかりのもの。オリジナルは一度しか観ていないので差について詳しくはいえないが、描写だけではなく、ストーリーの方もよりハードになっていたかな?大変素晴らしかった。個人的には以前観たときに認識できなかった白人との混血児の問題の複雑さが強く印象づけられた。北軍に追い払われそうになったピンチをチキン・ジョージが話芸で回避するところがアフロアメリカンの芸能文化を象徴している気がしてなかなか良かった。

『罪悪』 フェルディナント・フォン・シーラッハの短篇集のドラマ化(たぶん2013年ZDFのドラマではないかと思う、ドイツ語わからんけど)。原作未読。『犯罪』は読んでいてドラマ化の方も面白かったので期待していたが今回も期待通り。全6話中、第一話「遺伝子」第二話「ふるさと祭り」が特に印象に残ったかな。まあ後者はかなーりのイヤミスだが。ある程度読書に余裕が出たらシーラッハは是非読みたいのだが・・・。

TVで観た映画(備忘録)2016年4~10月

CSなどで観た映画の備忘録

ワルキューレ」(2008年) 数多くヒトラー暗殺計画が実際あったようだが、これも実在の事件で結構きわどい(クーデター成功寸前)までいったといえるやつかな?監督はブライアン・シンガーなんだな(後から気づいた)。最後はどうしても重くなる内容だが、サスペンス映画としてなかなか面白かった。「ブラック・ブック」のカリス・ファン・ハウテンに加えワルデマー・コブスも出ていたのは意図してのことか?

リディック:ギャラクシー・バトル」(2013年) リディックと間違って録画しちゃった(笑)。それはともかくリディックのキャラクターと雰囲気は悪くなかったが、少々展開がもっさりしていてもひとつだった。

ディファイアンス」(2008年) ナチスに支配されたポーランドでユダヤ人救出を行った実在のビエルスキ兄弟を描いた小説の映画化。生き抜くために同胞からの略奪もしていたため実際の彼らの評価については意見が分かれているようだが、その点もちゃんと触れられている点など真面目な作品。ただ真面目過ぎる印象も。

TV映画リメイク版「ルーツ」(4話構成)(2016年) 全体にヴァージョンアップというか迫力が増してて凄かった。描写だけではなく、ストーリーの方もよりハードになっていたかな?素晴らしかった。北軍に追い払われそうになったピンチをチキン・ジョージが話芸で回避するところがアフロアメリカンの芸能文化を象徴している気がした。また2話ではジョン・ハンターの本が登場してちょっと驚いた。

ガメラ対深海怪獣ジグラ」(1971年) ユルい感じだが、いちおう伏線も回収されたりもしていたし楽しめた(まあ強引っぽいけどw)。ジグラの形はなかなかいいんじゃないか。

スーパーマン・リターンズ」(2006年) スーパーマン映画ほとんど観てないがなんとなくもっさりスピード感に欠けてるかな。10年経って映像の古さも気になるし(これは製作者のせいともいえないか(笑)。それから今のアメコミ映画のキャラクターが沢山出てくるにぎやかな感じも乏しく、人物関係がシンプル過ぎるようにも。この頃とアメコミ映画の潮流が変わったのかもしれない。

「イーグル・アイ」(2008年) 初見かと思ったが、後半はどこかで観たことがあったかも。序盤に訳もわからずめちゃくちゃな状況におかれるパターンはディックっぽい感じ。まあネタもそれだし。休む暇のない展開は細部は甘く似たようなパターンが繰り返されるし映像もB級っぽさが目立つもののそれなりに楽しめるが、黒幕の見栄えがもひとつ21世紀っぽくなくのはどうにも残念な感じ。

「怪獣ゴルゴ」(1961年) ロンドンを襲うというのがちょっと新鮮で映像も割と気合いが入ってる。造形も愛嬌があっていい感じだが、親子のサイズバランスが場面場面で違ってるのが気になった。

2016年 10月読了本

日本沈没小松左京 恥ずかしながら初読。意外と破滅物が苦手なので・・・(バラードの破滅物は別)。海底探査ものの要素が強いのかなあ。メカの描写が緻密で、よくこういうものがベストセラーになったなあという気もする。地質学的というか地形を俯瞰的にとらえた流れるような描写も実に巧みで、いまだに追随をゆるさないものがあるなあとうならされた。一方で女性の登場人物は当時のステレオタイプの域を出ず、全く魅力がない。そこが大きく古びた部分である。

『消しゴム』ロブ=グリエ ロブ=グリエ初挑戦『快楽の館』はピンとこなかったが、本書は面白かった。死体が見つからない殺人事件、というアンチ・ミステリ的な設定が可笑しいし最終的に理知的に謎が収束するところにもニヤリとさせられる。もっといろいろ読んでみようかな。

『短篇小説日和』西崎憲選 『英国短篇小説の愉しみ』3巻分を編集したもの。ジャンルレスの傑作ぞろいだが、選者らしくどれも幻想風味があるのが特徴。1では切れ味の良い文体スパーク「後に残してきた少女」、なんともいえないオチのハーヴィー「羊歯」、不思議な神話的世界が描かれるカーシュ「豚の島の女王」、2では美しいファンタジーのリー「聖エウダイモンとオレンジの樹」、短い中に起伏に富んだユーモアファンタジーが展開されるアンスティー「小さな吹雪の国の冒険」、執拗な男による怖ろしい心理劇ハートリー「コティヨン」、3では民話風の語り口がよいディケンズ「殺人大将」、夫婦の断絶が見事に切り取られているエイクマン「花よりもはかなく」巻末の短篇小説論考も大変素晴らしく、今後の読書の手がかりをあたえてくれる。個人的にはマン島出身のナイジェル・ニール、カリブ海と縁の深いM・P・シールやジーン・リースといった作家も気になった。

怪奇小説傑作集3』 定番にちょう遅ればせながら手をつけることにしました(笑)。当たり前だけど傑作ぞろいだった。マッド・サイエンティストものの傑作ホーソーン「ラパチーニの娘」、名高いディケンズ「信号手」、大英帝国時代の空気が感じられる「イムレイの帰還」、怪奇というより美しいファンタジーのコッパード「アダムとイヴ」などが楽しめたが、なんといっても(月並みながら)ラヴクラフトダンウィッチの怪」。正体不明の怪物たちにより世界が変わってしまうという恐怖には独特のものがあってこれは一つのジャンルなんだなあと今更ながら気づかされた(いや遅いね我ながらね)。

『この世の王国』カルペンティエール 『魔術的リアリズム』(寺尾隆吉)でも指摘されていたように、非西洋的な視点を有するというには不徹底でそのせいかドライヴ感を欠いて高揚感に乏しい。非日常的な世界も断片的に登場するのみでやや平板で惜しい感じである。